「住宅ローンを組まずにマンションを一括購入しても大丈夫?」
「マンションを現金で一括購入するときの注意点を知りたい」
手持ちの資金で、マンションを一括購入することが、必ずしも有効な手段であるとは限りません。
住宅ローンを組まずにマンションを一括で購入すると、税の優遇措置が受けられなかったり、保険に加入し忘れたりする恐れがあるためです。
本記事では、マンションを一括で購入するメリットや注意点などを解説していきます。
遠鉄の不動産・浜松ブロック長
石岡 靖雅(いしおか やすまさ)
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、相続支援コンサルタント、家族信託コーディネーター、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
マンションを一括で購入するメリットは?
住宅ローンを借入れずに、マンションを現金で一括購入するメリットは、以下の2点です。
- 住宅ローンの利息負担がない
- 住宅ローンにかかわる諸費用の負担がない
1つずつ確認していきましょう。
住宅ローンの利息負担がない
マンションを現金で一括購入した場合、住宅ローンを返済するときに元本と合わせて支払う利息を負担する必要はありません。
例えば、返済期間35年(元利均等方式)、借入金利1.3%(全期間固定金利)の住宅ローンを借り入れた場合で、借入元金ごとの返済総額と利息額を下記の表で確認してみましょう。
※元利均等方式とは毎月の返済額を一定にする返済方法
借入元金 | 返済総額 | うち利息額 |
3,000万円 | 37,356,480 円 | 7,356,480 円 |
4,000万円 | 49,808,640 円 | 9,808,640 円 |
5,000万円 | 62,261,220 円 | 12,261,220 円 |
このように返済期間が35年という長期間に及ぶ場合、利息は高額になります。
住宅ローンを組まずに現金で一括購入した場合、利息を支払う必要はないため、金銭的な負担を抑えてマンションを購入できます。
住宅ローンにかかわる諸費用の負担がない
住宅ローンの返済以外にも、さまざまな諸費用の支払いが発生します。
住宅ローンの借入額や金融機関によって異なりますが、諸費用には数十万円ほどかかることが多いです。
一方、マンションを一括で購入すると、住宅ローンを借入れる際の諸費用を支払う必要はありません。
住宅ローンの諸費用
住宅ローンを組む場合に支払う諸費用には、以下のような種類があります。
内容 | 費用の目安 | |
印紙税 | 住宅ローンの契約書に収入印紙を添付して納める税金 | 数万円 |
登記費用 | 抵当権設定登記に必要な費用 | 借入金額(債権価格)×0.1% |
事務手数料 | 住宅ローンを借り入れる金融機関に支払う手数料 | 数万円〜借入額×2.2% |
保証料 | 保証会社に対して支払う手数料 | 0円〜借入額の2% |
住宅ローンを借入れると、不動産の所有権登記と抵当権設定登記が行われるため、登記に必要な費用が増えます。
抵当権とは、住宅ローンを借入れた人が返済を滞納したら、金融機関が担保としている住宅を差し押さえられる権利です。
また住宅ローン借入れの際は、費用を支払って保証会社に保証人となってもらうのが一般的です。
保証会社とは、住宅ローンを一定期間滞納したときに、債務者に代わって金融機関に残債を返済する会社です。
保証会社による一括返済(代位弁済)が行われた場合、債務者は保証会社に対して肩代わりしてもらったローンを一括返済しなければなりません。
マンションの一括購入で注意すること
マンションの一括購入には金銭的なメリットがありますが、以下の3点には注意が必要です。
- 住宅ローン控除が受けられない
- 火災保険に加入し忘れる場合も
- 税務署からの「お尋ね」や税務調査が入る可能性も
それぞれについて確認していきましょう。
住宅ローン控除が受けられない
マンションを現金一括で購入した場合は、住宅ローンを組まないため、住宅ローン控除を受けられません。
住宅ローン控除とは、住宅ローンを組んだ人が受けられる税の優遇制度です。
年末時点の借入残高の1%が、所得税や住民税から控除されます。
例えば、年末時点の借入残高が2,500万円であった場合、所得税と住民税から最大で25万円が控除される仕組みです。
住宅ローンの控除期間は通常10年間ですが、所定の条件を満たすと期間が13年に延長されます。
11〜13年目は「年末時点の借入残高の1%」と「(住宅取得等対価の額-消費税額)×2%÷3」のうち、低い金額が控除されます。
2021年1月現在、住宅ローンの控除率は1%であるのに対し、住宅ローンは金利1%未満で借入れ可能です。
住宅ローン控除が受けられるあいだは、支払った利息よりも多くの税負担を軽減できるでしょう。
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火災保険に加入し忘れる場合も
火災保険とは、住宅本体や建物の中にある家具・家電などの家財が、火災や風災・水災などの自然災害で損害を負ったと認められる場合に補償をする保険です。
住宅が火災や風災などで損害を被っても債務者が返済を滞納しないように、ほとんどの金融機関が、火災保険への加入を住宅ローンの融資条件としているためです。
しかし住宅ローンを組まない場合、金融機関から火災保険の加入を促されません。
そのため住宅ローンを組まずにマンションを購入すると、火災保険に加入し忘れる恐れがあるのです。
税務署からの「お尋ね」や税務調査が入る可能性も
マンションを現金一括で購入すると、高額の資金が贈与されていないか確認するために、税務署から「お尋ね」が来たり、税務調査が入ったりする可能性があります。
マンションの価格は、数千万円や数億円と高額なケースが多いため、手持ちの資金だけで購入するのは簡単ではありません。
第三者からの高額の資金贈与を受けていたにもかかわらず、贈与税を納めていないと脱税行為となり、税務署から確認が入ります。
適切な方法で対処しましょう。
マンションを一括購入する流れ
マンションを一括購入する流れは、以下の通りです。
- 物件の購入申し込み
- 売買契約・手付金支払い
- 物件の残代金の支払い・決済
- 引渡し
順番に、確認していきましょう。
1.物件の購入申し込み
購入したいマンションが見つかったら、不動産会社を通じて購入の申し込みをしましょう。
現金で一括購入する場合は住宅ローンを組まないため、金融機関とやり取りをする必要はありません。
2.売買契約・手付金支払い
売買契約を結ぶ前に、不動産会社から「重要事項説明書」が提示され、契約において重要な点の説明を受けます。
重要事項説明書や売買契約書の内容に不明な点がなければ、売買契約書に署名・捺印をしましょう。
また売買契約の際、買主は売主に対して手付金を支払うのが一般的です。
手付金の相場は物件価格の5〜10%ですが、定額制の場合もあります。
3.物件の残代金の支払い・決済
物件の引渡しをする前に、購入価格から手付金額を差し引いた残代金の決済が行われます。
残代金の決済は、買主・売主・不動産会社・司法書士が1箇所に集まって行われるのが一般的です。
住宅ローンを組む場合、融資審査に時間がかかるため、売買契約から残代金の決済まで1ヶ月以上かかるケースも珍しくありません。
しかし現金一括でのマンション購入には、融資審査が不要であるため、残代金の決済は売買契約から1〜2週間ほどで行われます。
残代金の支払い方法
残代金は高額なので、銀行振込で行われるのが一般的です。
決済の会場から銀行に移動し、振込用紙を記入後、窓口に提出して送金を依頼します。
なお銀行の店頭に行かなくても、オンラインバンキングで送金できる場合もありますが、送金限度額によっては手続きできない点に注意しましょう。
4・引渡し
物件の残代金が決済されると、建物の登記識別情報と鍵が引き渡されます。
決済後は司法書士による不動産登記が行われ、手続きが完了するとマンションは買主の所有物となります。
マンションの一括購入に必要な書類
マンションを現金で一括購入する際の必要書類は、以下の通りです。
- 住民票
- 本人確認書類:運転免許証やマイナンバーカードなど
- 印鑑
- 通帳、銀行印、キャッシュカードなど(銀行決済の場合のみ)
住宅ローンを組んでマンションを購入する場合は、上記の書類のほかに「印鑑証明書」や「源泉徴収票や確定申告書のような収入を証明する書類」が必要です。
まとめ
マンションを現金一括で購入すると、住宅ローンと利息、借入時の諸費用を負担する必要がないというメリットがあります。
しかし一括払いでマンションを購入すると、住宅ローンの税控除が受けられません。
また火災保険に加入し忘れたり、税務調査が入ったりする可能性がある点も、マンションを一括払いで購入する際に注意が必要です。
手持ち資金でマンションを一括で購入できる場合でも、住宅ローンを組んだ方がよいこともあります。
購入方法で悩んだ際は、不動産会社に相談してみてはいかがでしょうか。
(執筆者:品木彰)