「住宅ローン控除をまだ受けられるけど、繰り上げ返済を優先したほうがよいのだろうか」と悩んでいる方は多いのではないでしょうか?
住宅ローン控除と繰り上げ返済は、どちらも住宅ローンの返済負担を軽減する効果があります。
どちらを優先するべきかは状況によって異なるため、より有利なほうを都度計算して選択しなければなりません。
そこで今回は、住宅ローン控除と繰り上げ返済はどちらを優先すべきか考えるときのポイントについてわかりやすく解説していきます。
遠鉄の不動産・中遠売買ブロック長 岸本 圭祐(きしもと けいすけ)
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、カラーコーディネーター、ファイナンシャルプランナー3級
住宅ローン控除と繰り上げ返済、どちらを優先するべき?
住宅ローン控除とは、年末時点における借入残高の0.7%または1%を所得税や住民税から控除してもらえる「税の優遇制度」のことです。
取得したマイホームに入居するタイミングが2014年4月〜2021年末である場合は「年末時点の借入残高×1.0%」となります。
マイホーム入居のタイミングが2022年1月〜2025年末までである場合、控除される金額は「年末時点の借入残高×0.7%」です。
控除期間は、以下のとおりです。
入居したタイミング | 控除期間 |
2014年4月〜2021年末 | 最長10年
※2019年10月1日以降に入居し、所定の要件を満たした場合は最長13年 ※控除期間が13年となる場合、11〜13年目の控除額は「年末時点における住宅ローン残高の1%」と「建物部分の取得価格×2%÷3」のどちらか低い金額 |
2022年1月〜2025年末 | ・新築住宅・買取再販の中古住宅(要件を満たすもの):最長13年
・中古住宅(既存住宅):最長10年 |
繰り上げ返済とは、住宅ローン残債の一部または全部を、当初の返済計画よりも早いタイミングで返済することです。
繰り上げ返済には、「期間短縮型」と「返済額軽減型」の2種類があります。
それぞれの特徴や返済負担の軽減効果は以下の通りです。
- 期間短縮型:繰り上げ返済された金額に応じて返済期間を短縮する
- 返済額軽減型:繰り上げ返済された金額に応じて毎月の返済額を軽減する
繰り上げ返済額が同じである場合、期間短縮型のほうが返済負担の軽減効果は大きくなります。
住宅ローンの金利がポイント
住宅ローン控除と繰り上げ返済のどちらを優先するべきかは、住宅ローンの借入金利で判断しましょう。
住宅ローンの借入金利とは、毎月の返済額や利息額を計算する際に用いる値です。
もともと住宅ローン控除は、住宅購入時の負担を軽減するために、金利の1%分を還元する目的で創設されました。
2023年4月現在、住宅ローン控除の控除率は0.7%または1.0%です。
住宅ローンの借入金利が住宅ローン控除の控除率を超えている方ほど、繰り上げ返済を優先させたほうがメリットを得られやすいと考えられています。
住宅ローンの金利は「変動金利」と「固定金利」で特徴と値が異なります。
- 変動金利:返済途中で市場の状況に応じて金利が変動する
- 固定金利:借入れから一定期間の金利が固定される
また借入れから5年や10年などの一定期間の金利を固定し、その後変動金利に移行する「固定期間選択型」も、固定金利に分類されます。
ここで、それぞれの金利相場を確認していきましょう。
変動金利の相場
2023年4月現在の変動金利の相場は、おおむね0.3〜0.4%台です。
住宅ローン金利が高い傾向にあった大手金融機関も、ネット銀行に迫るほどの低金利となっています。
長らく続く低金利と金融機関同士の金利競争により、変動金利においては2010年ごろから借入時に適用される金利が1%を切り始めました。
2023年現在も、金融機関の引き下げ競争は続いており、0.3%台で提供するところも少なくない状況です。
固定金利の相場
2023年4月現在の固定期間選択型の相場は、10年固定金利がおおむね1.0%前後となっています。
また、全期間固定金利(35年固定金利)は、1.3〜1.8%台が相場となっています。
代表的な全期間固定金利型住宅ローン「フラット35」の借入金利は、1.76%です(買取型、融資率9割以下、返済期間21〜35年で借入れた場合)。
詳細な説明は割愛しますが、原油や原材料の価格高騰による世界的なインフレや、ロシア・ウクライナ情勢などの影響により、固定金利は毎月変わっています。
【住宅ローン控除 or 繰り上げ返済】シミュレーション
住宅ローン控除と繰り上げ返済のどちらが効果的なのか、シミュレーションで確認していきましょう。
借入条件は、以下の通りです。
- 借入れた人の年収:500万円
- 家族構成:夫、妻(扶養内)、子ども(16歳未満)
- 借入額:3,000万円(建物部分1,500万円)
- 返済期間:35年
- 返済方法:元利均等方式
- 繰り上げ返済額:300万円
住宅ローン控除は、控除率1.0%、控除期間13年として試算をします。
11〜13年目の控除額は「年末時点における住宅ローン残高の1,0%」と「建物部分の取得価格×2%÷3」のどちらか低い金額です。
繰り上げ返済のタイミングについては、住宅ローン控除を受けている最中である借入れから6年目と、控除期間終了後の借入れから14年目としています。
なおシミュレーションに用いる繰り上げ返済方法は、返済額軽減型です。
すでに住宅ローンを借入れている方向けに、金利は2023年4月現在よりも少し低く、変動金利は少し高い水準に設定しています。
金利1.5%の場合
まずは固定金利1.5%で住宅ローンを借入れた場合の返済負担をシミュレーションしましょう。
繰り上げ返済をしない
- 住宅ローン控除による節税効果:約266.2万円
借入れから6年目に300万円を繰り上げ返済
- 住宅ローン控除による節税効果:約255.0万円
- 繰り上げ返済による利息軽減額:約72.5万円
- 合計:約327.5万円
借入れから14年目に300万円を繰り上げ返済
- 住宅ローン控除による節税効果:約266.2万円
- 繰り上げ返済による利息軽減額:約52.1万円
- 合計:約318.3万円
また住宅ローン控除を受けている最中に繰り上げ返済をしたほうが、返済負担が軽減される結果となりました。
金利が高い場合は、繰り上げ返済を優先するほうがよいといえます。
金利0.6%の場合
次に変動金利0.6%で住宅ローンを借入れたと想定してシミュレーションしてみましょう。
なお、返済期間中に金利は変動しないものとします。
繰り上げ返済をしない
- 住宅ローン控除による節税効果:264.3万円
借入れから6年目に300万円を繰り上げ返済
- 住宅ローン控除による節税効果:約250.5万円
- 繰り上げ返済による利息軽減額:約27.8万円
- 合計:278.3万円
借入れから14年目に300万円を繰り上げ返済
- 住宅ローン控除による節税効果:約264.3万円
- 繰り上げ返済による利息軽減額:約20.2万円
- 合計:約284.5万円
金利が低い場合、住宅ローン控除を優先するほうがよいと考えられます。
ただし変動金利の場合、返済途中で金利が上昇すると、繰り上げ返済を優先したほうがよい場合もあります。
また繰り上げ返済による返済負担の軽減効果は、約14万〜20万円です。
金利が1.5%の場合のシミュレーションと比較すると、繰り上げ返済額が同じであっても、金利によって返済負担の軽減効果が大きく異なります。
繰り上げ返済の注意点
金融機関によっては、繰り上げ返済をするときに手数料がかかることがあります。
たとえ繰り上げ返済をして利息負担を軽減できたとしても、支払った手数料の分だけ軽減効果は薄れてしまうでしょう。
繰り上げ返済手数料の有無や金額は、金融機関によって異なります。
またインターネットで繰り上げ返済の申し込みをすると、繰り上げ返済手数料が不要となる金融機関もあります。
繰り上げ返済をする時は、手数料の金額を確認することが大切です。
住宅ローン控除期間終了後は繰り上げ返済するべき?
住宅ローン控除が終了したあとに、繰り上げ返済をするべきかどうかは慎重に判断しなければなりません。
借入額や返済期間によっては、住宅ローン控除の終了後に繰り上げ返済をしても利息の軽減効果をあまり得られないことがあるためです。
また繰り上げ返済をすることで手持ちの資金が減ってしまい、生活や子どもの教育に支障が出てしまうのであれば控えたほうが良いでしょう。
例えば、繰り上げ返済をした結果、子どもが大学に進学する資金が足りなくなり、住宅ローンよりも金利が高い教育ローンの借入れが必要となってしまっては本末転倒です。
繰り上げ返済をする際は、利息の軽減効果だけに着目するのではなく、今後のライフプランを踏まえて慎重に検討する必要があります。
まとめ
住宅ローン控除と繰り上げ返済のどちらを優先するべきかは、主に借入時の金利によって異なります。
借入時の金利が高い人ほど、積極的に繰り上げ返済を活用するとよいでしょう。
ただし「住宅ローンを早く返してしまいたい」という気持ちが先行すると、将来の生活に支障が出かねません。
繰り上げ返済を検討の際は、ファイナンシャルプランナーや住宅ローンアドバイザーなどの専門資格者に相談することをおすすめします。
(執筆者:品木彰)