夫婦で住宅ローンを組むと、単独で借入れるときよりも借入可能額を増やせるため、購入できる物件の選択肢が広がります。
また住宅ローン控除を夫婦それぞれで利用して節税効果を高められる可能性があるのも、 住宅ローンを夫婦で借入れるメリットです。
今回は夫婦それぞれが住宅ローン控除を受ける方法や、期待できる節税効果などを解説します。
遠鉄の不動産・中遠売買ブロック長 岸本 圭祐(きしもと けいすけ)
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、カラーコーディネーター、ファイナンシャルプランナー3級
夫婦で住宅ローンを組むケース
夫婦で住宅ローンを組む方法は、3種類あります。
- ペアローン
- 連帯債務
- 連帯保証
上記のうち、夫と妻がそれぞれ住宅ローン控除を受けられるのは「ペアローン」と「連帯債務」で借入れた場合です。
また住宅ローンの組み方によって、団体信用生命保険への加入の可否が異なります。
団体信用生命保険(以下、団信)とは、住宅ローンを借入れている人が亡くなったり所定の重い障害状態になったりした場合に、生命保険会社は保険金を金融機関に支払い、債務の返済にあてるという生命保険です。
ペアローン
ペアローンとは、夫婦それぞれが住宅ローンの契約を結んで借入れる方法です。
例えば4,000万円を借入れる場合、夫2,500万円、妻1,500万円と住宅ローンを2本契約します。
ペアローンを借入れると、夫婦それぞれの借入額が住宅ローン控除の対象です。
またペアローンは、夫と妻がそれぞれ団信に加入できるだけでなく、どちらも住宅の所有権を持てます。
所有権の割合は、基本的に夫婦それぞれの出資額に応じて決まります。
ただしペアローンは、事務手数料や印紙税などの諸費用が2本分かかる点に注意しましょう。
連帯債務
連帯債務とは、複数人で返済義務を負って、1本の住宅ローンを契約する借入方法です。
連帯債務で住宅ローンを借入れる場合、夫婦のどちらかを主たる債務者に、もう片方を連帯債務者に設定し、それぞれが負担する借入金の割合を決めます。
連帯債務では、住宅ローンの審査時に主債務者と連帯債務者の収入を合算でき、借入額を増やすことが可能です。
負担する割合分ではなく、夫婦は互いの借入金の全額に対して返済義務を負っている点が、連帯債務の特徴です。
一方、住宅ローン控除の対象となるのは、夫婦それぞれが負担する割合の借入金額です。
住宅の所有権も、一般的に負担割合に応じて決まります。
ただし連帯債務者は、基本的に団体信用生命保険に加入できません。
連帯債務者が団信に加入できるのは、夫婦のいずれかに万が一の事態が発生したときに、残りの住宅ローンを貸出先の金融機関が返済してくれる「夫婦連生団信」を契約する場合のみです。
住宅ローンを連帯債務で借入れできるのは一部の金融機関のみであるため、物件の選択肢が限られる点に注意しましょう。
連帯保証
連帯保証とは、夫婦のどちらかが住宅ローンの債務者となり、もう1人が連帯保証人となる借入方法です。
連帯保証人は、債務者と同等の返済義務を負います。
連帯保証も連帯債務と同様に、収入合算ができる住宅ローンです。
そのため、夫婦のどちらかが単独で借入れるより借入金額を増やせる可能性があります。
住宅ローン契約は1本であるため、諸費用の支払いが1本分で済むのも連帯保証のメリットです。
ただし連帯保証人は、住宅ローン控除が適用されない上、住宅の所有権がなく、団体信用生命保険に加入できない点にご注意ください。
夫婦で住宅ローンを組むメリット
夫婦で住宅ローンを組むメリットは、以下のとおりです。
- 借入金額を増やせる
- 夫婦それぞれが住宅ローン控除を受けられるケースもある
住宅ローンの審査では、申し込んだ人の年収などで借入限度額が決まります。
夫婦で住宅ローンを申し込むと、2人の収入が合算されて審査されるため、借入金額を増やすことが可能です。
またペアローンや連帯債務型で住宅ローンを組むと、夫婦のそれぞれが住宅ローン控除を受けられます。
原則として住宅ローン控除は、ローンを返済する人の所得税と控除対象となる住民税の合計額を上回る減税は受けられません。
夫婦どちらか一方が住宅ローンを組むと、控除額が所得税額と控除対象の住民税額を下回るといったケースでは、夫婦で住宅ローンを組むことで節税効果を高められるでしょう。
夫婦で住宅ローンを組むデメリット
夫婦で住宅ローンを組む主なデメリットは、以下のとおりです。
- 転職や退職などで世帯年収が減ると返済負担が重くなる
- 夫婦のどちらかが死亡したときに債務が残るケースもある
共働きをしている期間は問題なく返済できたとしても、夫婦のどちらか一方が転職や退職をして世帯年収が低下すると、返済が苦しくなることがあります。
また育産休を取ることで世帯年収が下がるケースも、夫婦で住宅ローンを組んだあとに返済負担が重くなる代表的な事例です。
夫婦で住宅ローンを組む場合は、今後のライフプランも考えたうえで慎重に返済計画を立てることが大切です。
民間の金融機関で住宅ローンを組む場合、原則として団信に加入することになるため、借り入れた人に万が一のことがあった場合、保険金でローンが完済されます。
しかし連帯保証で住宅ローンを組んだ場合、団信に加入できるのは主たる債務者のみであり、連帯保証人は加入できません。
そのため連帯保証人に万が一のことがあった場合、主たる債務者がすべての債務を返済していくことになるため、返済負担が家計を圧迫する可能性があります。
住宅ローン控除を夫婦で受けた場合のシミュレーション
住宅ローン控除を夫婦で受けると、税負担をどの程度軽減できるのでしょうか?
ここでは、夫婦で住宅ローン控除を適用した場合の税負担をシミュレーションします。
取得したマイホームに2022年1月以降に入居する場合、住宅ローン控除の内容は、以下のとおりです。
- 控除額:年末時点における住宅ローン残高の0.7%
- 控除期間:10年または13年
- 新築住宅・買取再販の中古住宅(要件を満たすもの):13年
- 中古住宅(既存住宅):10年
また住宅ローン控除には、控除額を計算するときに対象となる借入額に限度が設けられています。
2022年1月以降にマイホームに居住する場合の借入限度額と、それをもとに算出される年間の最大控除額は、以下のとおりです。
〇新築住宅・買取再販の控除額の年間上限額(借入限度額×控除率)
2022〜2023年に入居 | 2024〜2025年に入居 | |
長期優良住宅・低炭素住宅 | 5,000万円×0.7%=35.0万円 | 4,500万円×0.7%=31.5万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 4,500万円×0.7%=31.5万円 | 3,500万円×0.7%=24.5万円 |
省エネ基準適合住宅 | 4,000万円×0.7%=28.0万円 | 3,000万円×0.7%=21.0万円 |
その他の住宅 | 3,000万円×0.7%=21.0万円 | 2,000万円×0.7%=14.0万円※ |
※2023年までに新築の建築確認がされていた場合のみ
〇既存住宅の控除額の年間上限額(借入限度額×控除率)
2022〜2025年に入居 | |
長期優良住宅・低炭素住宅
ZEH水準省エネ住宅 省エネ基準適合住宅 |
3,000万円×0.7%=21万円 |
その他の住宅 | 2,000万円×0.7%=14万円 |
控除額は、所得税額から控除されます。
所得税額が控除額よりも少ない場合、余った金額は住民税から控除されます。
ただし住民税から控除できるのは最大97,500円までです。
控除額は夫婦の借入額(持分割合)に合わせて計算
夫婦の共有名義で住宅を購入する場合、住宅ローン控除の控除額は、夫婦の借入額の割合や持ち分割合に応じて決まります。
例えば住宅ローンの借入額が夫2,000万円、妻1,000万円、住宅の持分割合が夫と妻=2:1であったとしましょう。
この場合、住宅ローンの借入割合と持分割合が同じ比率であるため、住宅ローン控除の対象となる借入金は夫2,000万円、妻1,000万円です。
住宅ローンの借入割合と持分割合が異なれば、夫婦のあいだで資金の贈与があったとみなされ、住宅ローン控除の対象となる金額が変わります。
仮に夫婦の持ち分割合が1:1、3,000万円の住宅ローンを夫と妻=6:4の割合で負担したとしましょう。
夫が負担する住宅ローンの借入額は、本来3,000万円の6割である1,800万円です。
しかし夫婦の持分割合が1:1であるため、夫が負担する借入金額は3,000万円の半分である1,500万円となります。
よって夫の住宅ローン控除の対象となる借入金額は、1,500万円です。
加えて差額の300万円は、夫から妻へと贈与されたとみなされて、贈与税の課税対象となる場合があります。
単独名義と共有名義でのシミュレーション比較
ここでは、夫の単独名義と夫婦の共有名義、それぞれで住宅を所有した場合における控除額の違いをシミュレーションします。
条件は、以下のとおりです。
- 夫の年収:500万円
- 妻の年収:300万円
- 扶養対象の家族:なし
- 借入額:4,200万円
- 借入金利:1.65%(全期間固定金利)
- 返済期間:35年
- 取得した住宅の種類:認定長期優良住宅
- 入居年月:2022年12月
夫のみで4,200万円の借入れをし、住宅を夫の単独名義にした場合、控除額は以下のとおりです。
一方で夫が2,800万円、妻が1,400万円のペアローンを組み、夫と妻が2:1の割合で住宅を所有した場合、控除額は以下のとおりです。
妻の合計控除額:106.3万円
合計控除額:319.8万円
よって夫婦の共有名義で住宅を所有し、夫婦でそれぞれ住宅ローンを組んだほうが控除額は21.8万円多くなります。
また年収500万円の夫のみで、4,200万円の借入をするのは困難な可能性がありますが、ペアローンで夫婦の年収を合算することにより、審査に通過しやすくなるでしょう。
ただし夫婦で住宅ローンを組んでも、住宅ローン控除の節税効果が必ず高まるわけではありません。
夫婦で住宅ローンを借入れる場合は、本当にメリットがあるのかを慎重に検討しましょう。
住宅ローン控除を夫婦で受ける場合の申請方法
住宅ローン控除を受けるためには、原則として確定申告をしなければなりません。
ただし会社員や公務員などの給与所得者は、初年度のみ確定申告で住宅ローン控除を申請し、2年目以降は年末調整で申請できます。
夫婦で住宅ローン控除を受けるときの申請方法は、ペアローンと連帯債務で異なるためそれぞれ解説します。
ペアローンの場合
ペアローンを組んだ場合は、夫婦それぞれが住宅ローン控除を申請します。
申請に際しては、「確定申告書」や「(特定増改等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書」などの住宅ローン控除に必要な書類を2部作成しましょう。
連帯債務の場合
連帯債務で住宅ローンを組んだ場合も、夫婦それぞれで住宅ローン控除の申請が必要な点はペアローンと同じです。
ただし、連帯債務で住宅ローンを借入れた場合「連帯債務がある場合の住宅借入金等の年末残高の計算明細書」を追加で作成する必要があります。
【まとめ】住宅ローン控除は夫婦それぞれが受けられる
ペアローンや連帯債務を使って夫婦で住宅ローンを組んだ場合、夫婦それぞれで住宅ローン控除を受けられます。
借入額や収入、住宅の持分割合などによっては、単独名義で住宅を購入するよりも、共有名義にしたほうが住宅ローン控除による節税効果を高められるのです。
ただし、ペアローンや連帯債務で住宅ローンを借入れることが正解とは限りません。
最適な借入方法や購入する住宅の予算がわからない方は、不動産のプロに相談するとよいでしょう
(執筆者:品木彰)