2022年の税制改正によって、住宅ローン控除の内容が変更されました。
控除額の計算方法や控除期間の決まり方、借入限度額などが変更されたことで、これまでとは所得税や住民税の軽減効果に違いがあります。
本記事では、2022年に改正される住宅ローン控除の変更点や知っておきたいポイントについて解説します。
遠鉄の不動産・中遠売買ブロック長 岸本 圭祐(きしもと けいすけ)
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、カラーコーディネーター、ファイナンシャルプランナー3級
そもそも住宅ローン控除とは?
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)とは、住宅ローンを組んでマイホームを購入する人が受けられる税の優遇制度です。
住宅を購入したときや増改築をしたときなどに、所定の要件を満たすと毎年末の住宅ローン残高をもとに計算された一定金額が所得税から控除されます。
所得税から控除しきれなかった控除額については、一定金額を限度に住民税から控除される仕組みです。
住宅ローン控除を利用するためには「住宅の新築等から6か月以内に住み始める」「10年以上にわたり分割して返済する債務(住宅ローンなど)があること」などの要件を満たす必要があります。
【2022年以降】住宅ローン控除の改正で変更されるポイント
まずは2022年の税制改正で、住宅ローン控除がどのように変更されたのかみていきましょう。
制度の期間が4年延長
改正前の住宅ローン控除を受けるためには、原則として2021年末までに住宅を購入し、入居する必要がありました。
※新型コロナウイルスの影響による特例措置を受ける場合のみ、2022年末までの入居
改正後の住宅ローン控除は、入居期限が2021年末から4年間延長されました。
2025年末までに住宅を購入して入居した方が、住宅ローン控除の対象となります。
控除額の計算方法(控除率の引き下げ)
改正前の住宅ローン控除は「年末時点の借入残高×1%」または「建物の取得価格(上限4,000万円)×2%÷3」で控除額が算出されました。
2022年からの住宅ローン控除は「年末時点の借入残高×0.7%」で控除額を計算します。改正前と比べると、控除率は引き下げられたといえます。
また改正により、住民税から控除される金額の上限も変更されました。
これまでは「所得税の課税所得の7%」または「136,500円」が上限でした。
それが改正後は「所得税の課税所得の5%」または「97,500円」へと減額されています。
控除期間の変更
改正前の住宅ローン控除は、控除期間が原則10年であり、マイホームの契約を結んだ日や入居日などが所定の要件を満たしたときのみ13年に延長されるという内容でした。
改正後の控除期間も「10年または13年」である点に変更はありませんが、以下のとおり購入する住宅の種類に応じて決まります。
- 新築住宅・買取再販の中古住宅(要件を満たすもの):13年
- 中古住宅(既存住宅):10年
控除期間が13年になるのは、新築住宅または不動産会社が買い取って再販した中古住宅(要件を満たすもの)を購入したときです。
売主が個人である中古住宅を購入したときは、控除期間が10年となります。
また新築住宅や買取再販の中古住宅であっても、2024年以降に所定の省エネ基準を満たしていない住宅に入居すると控除期間は10年となります。
※2023年までに新築の建築確認を終えていることが条件
対象となる借入限度額の変更
改正前の住宅ローン控除は、制度の対象となる借入額は「年間4,000万円」が上限でした。
また売主が個人である住宅を購入したときは「年間2,000万円」、長期優良住宅や低炭素住宅を購入した時は「年間5,000万円」がそれぞれ借入額の上限でした。
長期優良住宅は、省エネ性能やバリアフリー性能、耐震性能などが一定の基準を満たす高性能な住宅です。
低炭素住宅は、二酸化炭素の排出を抑える対策が施された住宅を指します。
改正後の住宅ローン控除においては、新築住宅と買取再販住宅の借入上限額が、以下のとおり住宅の種類だけでなく入居するタイミングでも変わります。
〇新築住宅・買取再販の借入限度額
2022〜2023年に入居 | 2024〜2025年に入居 | |
長期優良住宅・低炭素住宅 | 5,000万円 | 4,500万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 4,500万円 | 3,500万円 |
省エネ基準適合住宅 | 4,000万円 | 3,000万円 |
その他の住宅 | 3,000万円 | 0円
※2023年までに新築の建築確認がされていた場合は2,000万円 |
ZEH水準省エネ住宅や省エネ基準適合住宅に認定されるためには、断熱性能や一次エネルギー消費量が一定の基準を満たしていなければなりません。
一方で売主が個人である住宅については、以下のとおり入居するタイミングにかかわらず、環境性能に応じて借入限度額が変わります。
〇既存住宅の借入限度額
2022〜2025年に入居 | |
長期優良住宅・低炭素住宅
ZEH水準省エネ住宅 省エネ基準適合住宅 |
3,000万円 |
その他の住宅 | 2,000万円 |
適用要件の変更
2022年の税制改正により、住宅ローン控除を受けるための要件も一部変更されています。
築年数要件の撤廃
改正前は、マンションをはじめとした耐火建築物は築25年以内、木造住宅などの非耐火建築物は築20年以内が制度の対象でした。
それが改正後は、築年数にかかわらず昭和57年以降に建築されており、新耐震基準に適合していれば住宅ローン控除の対象となります。
所得要件の引き下げ
改正前の住宅ローン控除は、年間の合計所得金額が3,000万円以下の方が対象でした。
改正後は、合計所得金額が2,000万円以下の方が住宅ローン控除の対象となります。
床面積要件の変更
改正前は、床面積50㎡以上の住宅を購入すると住宅ローン控除の対象でした。
控除期間が13年に延長される特例措置については、床面積40㎡以上でも制度の対象となりました。
改正後も、原則として床面積50㎡以上である住宅が制度の対象となる点は同じです。
一方で2023年以前に建築確認を受けており、かつ購入する人の合計所得金額が1,000万円以下であれば、床面積40㎡以上から住宅ローン控除の対象となります。
2022年以降、住宅ローン控除の上限額はどう変わる?
2022年の税制改正によって、住宅ローン控除の計算方法や借入限度額が変更されたため最大控除額も変わってきます。
最大控除額は「借入限度額×控除率×控除期間」で計算できます。
改正前の最大控除額
まずは改正前の最大控除額をみていきましょう。
控除率は1%、控除期間は10年または13年となります。
借入限度額 | 最大控除額 | |
長期優良住宅・低炭素住宅 | 5,000万円 | 500万円
(600万円) |
上記以外の住宅 | 4,000万円 | 400万円
(480万円) |
中古住宅 | 2,000万円 | 200万円 |
※カッコ内は特例措置が適用されて控除期間が13年に延長されたときの限度額
※特例措置が適用される場合、11〜13年目の控除額は「建物の取得価格(借入限度額まで)×2%÷3」で計算されます。
改正後の最大控除額
制度改正により控除率0.7%、控除期間13年に変更されたあとの最大控除額は以下のとおりです。
〇新築住宅・買取再販(2022〜2023年に入居)
借入限度額 | 最大控除額 | |
長期優良住宅・低炭素住宅 | 5,000万円 | 455.0万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 4,500万円 | 409.5万円 |
省エネ基準適合住宅 | 4,000万円 | 364.0万円 |
その他の住宅 | 3,000万円 | 273.0万円 |
〇新築住宅・買取再販(2024〜2025年に入居)
借入限度額 | 最大控除額 | |
長期優良住宅・低炭素住宅 | 4,500万円 | 409.5万円 |
ZEH水準省エネ住宅 | 3,500万円 | 318.5万円 |
省エネ基準適合住宅 | 3,000万円 | <273.0万円 |
その他の住宅 | 0円
※2024年以降に建築確認 |
0.0万円 |
〇既存住宅(中古住宅)
借入限度額 | 最大控除額 | |
長期優良住宅・低炭素住宅
ZEH水準省エネ住宅 省エネ基準適合住宅 |
3,000万円 | 210.0万円 |
その他の住宅 | 2,000万円 | 140.0万円 |
例えば長期認定優良住宅を購入し、制度改正前の住宅ローン控除を受けた場合、最大控除額は500万円または600万円でした。
それが制度改正後は、455万円または409.5万円へと縮小されます。
また全体的にみても、制度の改正により最大控除額が縮小されていることがわかります。
2022年以降の住宅ローン控除のシミュレーション
ここで改正後の住宅ローン控除で、いくらの控除を受けられるのかをシミュレーションで確認してみましょう。
試算の条件は、以下の通りです。
- 住宅ローンの借入額:4,000万円
- 金利:1.5%(全期間固定金利)
- 返済期間:35年
- ボーナス返済:なし
- 返済方法:元利均等方式
- 返済開始月:2023年1月
- 購入する住宅の種類:新築マンション(認定長期優良住宅)
控除額の上限は、以下のとおりです。
1年目:273,800円
2年目:267,600円
3年目:261,300円
4年目:254,900円
5年目:248,400円
6年目:241,800円
7年目:235,000円
8年目:228,200円
9年目:221,300円
10年目:214,300円
11年目:207,200円
12年目:200,000円
13年目:192,600円
合計:3,046,400円
シミュレーションの結果、13年間の合計控除額は最大で約304.6万円と算出されました。
住宅ローン控除は、所得税や住民税から控除額が差し引かれる「税額控除」の1種であるため、改正後も高い節税効果が期待できます。
ただし「所得税+控除対象の住民税」を上回る減税は受けられません。
所得税や住民税の税額は、年収や扶養する家族の人数などさまざまな要素で異なります。
シミュレーション結果はあくまで最大控除額であり、実際の控除額とは異なる点に注意が必要です。
住宅ローン控除が改正された背景
住宅ローン控除が改正された主な背景は、以下の通りです。
- 新型コロナウイルス感染症の影響で落ち込んだ経済の回復
- 2050年カーボンニュートラルに向けた対応
- 逆ざやの解消
新型コロナウイルス感染症の影響で落ち込んだ経済の回復
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、日本は経済活動が大きく制限されたことで大きな打撃を受けました。
そのような状況で住宅ローン控除が終了し、減税が受けられなくなると住宅はさらに取得しにくくなるでしょう。
またマイホームを取得した人の可処分所得が増えて消費にお金を回しにくくなると、ますます景気が冷え込んでしまうかもしれません。
そのため住宅需要や消費が落ち込んで景気が悪化しないよう、経済の回復を下支えするために住宅ローン控除が4年間延長されることになりました。
2050年カーボンニュートラルの実現
カーボンニュートラルとは、二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする取り組みのことです。
日本では、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、2030年度の温室効果ガスを2013年度と比較して46%削減することを目標としています。
カーボンニュートラルの目標を達成するためには、温室効果ガスの排出量を削減しなければなりません。
そのためには省エネ性能に優れた住宅や、太陽光発電をはじめとした再エネ性能がある住宅を増やしていく必要があります。
改正後の住宅ローン控除では、環境性能に優れた住宅の普及を後押しするために、所定の省エネ基準に適合した住宅を取得すると、制度の対象となる借入限度額が上乗せされます。
逆ざやの解消
改正前の住宅ローン控除は、住宅ローン金利が控除率の1%を下回る「逆ざや」が問題視されていました。
住宅ローン金利が控除率を下回ると、控除額が利息額を上回る状態となってしまいます。
その結果、必要のない住宅ローンを組んだり、控除期間が終了するまで繰り上げ返済を控えたりする動機付けになりかねないと、会計検査院から指摘を受けていました。
そこで改正後の住宅ローン控除は、会計検査院の指摘に対応するために控除率が1%から0.7%へと引き下げられています。
住宅ローン控除の改正はいつから適用される?
税制改正の内容が施工されたのは2022年4月ですが、住宅ローン控除については2022年1月から遡って適用されます。
そのため、2022年1〜3月のあいだに購入した住宅に入居しても、他の要件を満たしていれば改正後の住宅ローン控除の対象となります。
2022年以降と2024年以降の変更点の違いに注意
改正後の住宅ローン控除では、新築住宅や買取再販住宅を取得する場合、入居するタイミングで制度の対象となる借入限度額が異なります。
具体的には2022〜2023年末までに入居するよりも、2024〜2025年末までに入居するほうが、制度の対象となる借入限度額は低く設定されています。
そのため住宅に入居するタイミングが2024年以降になってしまうと、 対象となる借入限度額が少なくなって控除額が減る可能性がある点には注意が必要です。
また新築住宅や買取再販住宅の控除期間は原則13年ですが、その他の住宅については2024年以降に入居すると10年になります。
2023年までに新築の建築確認を受けていないのであれば、入居が2024年以降になると住宅ローン控除の対象になりません。
住宅ローン控除の改正は既に借りている人への影響はない
改正後の住宅ローン控除が適用されるのは、2022年1月以降に購入した住宅に入居し、新たに制度の申請をした人です。
すでに住宅ローン控除を受けている人の内容が変更されることはありません。
住宅ローン控除の申請手続きに変更はある?
住宅ローン控除は、基本的には制度改正後もこれまでと同様の方法で申請をします。
原則として確定申告で申請をしますが、2年目以降であれば会社員をはじめとした給与所得者は年末調整での申請も可能です。
確定申告で住宅ローン控除を申請する場合は、確定申告書と「(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書」を作成し、お住まいの住所を管轄する税務署に提出します。
年末調整で申請するときは、税務書から送付される「年末調整のための(特定増改築等)住宅借入金等特別控除証明書兼給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書」を記入し、勤務先に提出します。
申請する際は、金融機関から交付される「住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書」の添付が必要です。
また初年度の申請については「長期優良住宅建築等計画の認定通知書の写し」など、取得した住宅の種類に応じた書類を提出します。
住宅取得資金の贈与税の非課税措置も延長
2022年度の税制改正では「住宅取得資金の贈与税の非課税措置」の期限が、2023年3月31日まで2年間延長されると発表されました。
住宅取得資金の贈与税の非課税措置は、親や祖父母などから住宅を購入するための資金を贈与してもらったとき、一定金額まで贈与税が非課税となる制度です。
1年間で110万円超の財産を贈与されると、贈与税が課せられます。
それが非課税措置を適用できると、以下の金額までの贈与が非課税となります。
- 耐震、省エネまたはバリアフリーの住宅用家屋:1,000万円
- 上記以外の住宅用家屋:500万円
※出典:財務省「令和4年度税制改正の大綱」
【まとめ】住宅ローン控除の改正で控除額や要件が大幅に変わる
2022年に改正された住宅ローン控除は、控除率が1%から0.7%へと引き下げられました。
また控除期間については、新築住宅と買取再販住宅は基本的に13年、売主が個人である中古住宅は10年となります。
住宅ローン控除の改正により、所得税や住民税の節税効果は下がる可能性があります。
とはいえ住宅ローン控除は、改正後もマイホームを購入するときの負担を軽減してくれる制度であることに変わりはありません。
マイホームの購入を検討する際は、不動産会社にも相談のうえ住宅ローン控除の理解を深めることが大切です。
(執筆者:品木彰)