マイホームを購入するとき「地震保険はいらないのだろうか」「地震保険に加入すべきか分からない」と悩む人も多いのではないでしょうか。
地震保険の必要性は人によって異なるため、補償内容や保険金の支払われ方などを理解したうえで、加入すべきか慎重に判断することが重要です。
本記事では、地震保険の必要性や補償内容などを分かりやすく解説します。
宅地建物取引士
地震保険とは?加入前に押さえておきたい基礎知識
まずは地震保険の基本的な補償内容や火災保険との違いをみていきましょう。
地震や噴火、津波による損害を補償する保険
地震保険は、地震や噴火、津波によって建物や家財(家具・家電・衣服など)に生じた損害を補償する保険です。
例えば、地震保険に加入すると、地震で建物が倒壊したときや、津波によって建物や家財が流されてしまったときに保険金が支払われます。
なお地震保険は、火災保険と必ずセットで加入しなければなりません。
火災保険との違い
火災保険は、火災や破裂・爆発、落雷によって生じた損害を補償する保険です。
契約内容によっては、風災や雪災、水災、盗難なども補償されます。
一方で、火災保険は地震や噴火、津波による損害は補償されません。
例えば、地震が原因で発生した火災は、火災保険の補償対象外です。
地震保険の付帯率・世帯加入率
では、地震保険に加入している人は、どれほどいるのでしょうか。
損害保険料算出機構の調査によると、火災保険と合わせて地震保険を契約した人の割合(付帯率)は、2013年度は58.1%でしたが、2022年度には69.4%まで上昇しました。
また全世帯に対して、どの程度の世帯が地震保険を契約しているかを表す割合(世帯加入率)は、2013年度の27.9%から2022年には35.0%まで上昇しています。
このように、地震保険の付帯率や世帯加入率は上昇傾向にあります。
地震保険はいらない?必要性を判断する際のポイント
「地震保険はいらない」という意見もありますが、必ずしも不要であるとは限りません。
以下の点をもとに、ご自身にとって必要かどうかを考えることが重要となります。
- 住宅ローンの残債額
- 住宅が地震の被害に遭うリスク
- 被災したあとに働けるか
住宅ローンの残債額
住宅ローンの返済を始めて間もない時期に、住宅が地震で倒壊したり津波で流されたりしてしまうと、多額の債務のみが残ってしまいかねません。
さらに、ローンの返済に加えて新しい住まいの家賃の支払いが重なると、家計への負担が重くなり生活が苦しくなる可能性があります。
地震によって自宅が損害を受けたときは「被災者生活支援制度」による支援金を受け取ることができます。
支援金を受給できれば、金銭的な負担はいくらか軽減されるでしょう。
ただし、支援金の支給額は、最高300万円(基礎支援金:最高100万円・加算支援金:最高200万円)です。
また、地震によって自宅が全壊し、住宅を建設または購入する場合でなければ、支給額は300万円になりません。
そのため、住宅ローンの残債が多い人は、地震の被害に遭ったときに生活を立て直しやすくするためにも、地震保険に加入する必要性が高いといえます。
住宅が地震の被害に遭うリスク
日本では2010年以降に、最大震度7を記録する大地震が、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)を含めて3回発生しました。
また気象庁の発表によると、今後は南海トラフ地震が発生し、静岡県から宮崎県にかけての一部は、震度7となる可能性があるといわれています。
世界有数の地震大国といわれる日本において、地震や津波などの被害に遭う可能性が高いエリアでマイホームを購入するのであれば、地震保険に加入しておくと安心です。
想定される津波の被害は、市区町村が公表する水害ハザードマップや津波浸水想定区域数で確認すると良いでしょう。
地震のリスクは、防災科学技術研究所の「J-SHIS Map」で確認する方法があります。
J-SHIS Mapでは、住所を入力することで住宅を購入する予定のエリアや居住中のエリアの地震リスクを簡単に確認することができます。
被災したあとに働けるかどうか
個人で飲食店や観光業などを営んでいる人は、地震や津波などの被害に遭ったとき、事業を続けることができなくなって収入が途絶える可能性があります。
地震や津波が発生すると、事業の継続が困難になる可能性が高いのであれば、地震保険に加入して保険金で当面の生活費を賄えるようにしておくのも1つの方法です。
新築住宅に地震保険はいらない?
新築住宅は、築古住宅よりも耐震性能が高い傾向にありますが、地震保険が不要とは限りません。
地震による地盤沈下や、停電後に電気が復旧することで起こる火災(通電火災)などの被害に遭う可能性があるためです。
とくに、ローン残債が多いのであれば、地震保険の加入を検討した方が良いでしょう。
地震保険で支払われる保険金の決まり方
地震保険に加入した場合、どのようなときにいくらの保険金が支払われるのでしょうか。
ここでは、支払われる保険金の決まり方を解説します。
保険金額は火災保険の30〜50%で設定する
地震保険の保険金は、契約時に決めた保険金額を上限に支払われます。
保険金額は、火災保険の保険金額の30〜50%で設定します。
例えば、火災保険の建物部分の保険金額が3,000万円である場合、地震保険の保険金額は900万〜1,500万円です。
地震保険の保険金額は、建物と家財のそれぞれで設定する必要があります。
ただし保険金額は、建物5,000万円、家財1,000万円が上限です。
なお、保険会社によっては「地震危険等上乗せ補償特約」をセットすることで、火災保険の保険金額の最大100%まで補償が受けられるようになります。
支払額は損害の程度に応じて決まる
地震保険では、建物や家財の損害の程度に応じて、保険金額の一定割合が保険金として支払われる仕組みです。
損害の程度は「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の4段階に分かれています。
保険金の支払額は、以下のとおりです。
- 全損:保険金額の100%(時価が限度)
- 大半損:保険金額の60%(時価の60%が限度)
- 小半損:保険金額の30%(時価の30%が限度)
- 一部損:保険金額の5%(時価の5%が限度)
損害の程度を判定する方法は、以下のとおり建物と家財で異なります。
建物の損害状況 | ||
主要構造部の被害額 | 焼失・流失した部分の床面積 | |
全損 | 建物の時価の50%以上 | 延床面積の70%以上 |
大半損 | 建物の時価の40〜50%未満 | 延床面積の50〜70%未満 |
小半損 | 建物の時価の20〜40%未満以上 | 延床面積の20〜50%未満以上 |
一部損 | 建物の時価の3〜20%未満以上 | 床上浸水または地盤面から45cmを超える浸水
※全損・大半損・小半損のいずれにも至らない場合 |
家財の損害額 | |
全損 | 家財の時価の80%以上 |
大半損 | 家財の時価の60%以上80%未満 |
小半損 | 家財の時価の30%以上60%未満 |
一部損 | 家財の時価の10%以上30%未満 |
地震保険の保険料負担を抑える方法
「地震保険には加入したい」と考えているものの、保険料の支払いはできるだけを抑えたい方も多いのではないでしょうか。
地震保険料の負担を抑えるためには、割引制度を適用する方法があります。
また「地震保険料控除」という制度を利用して、所得税や住民税を軽減することで、地震保険に加入したときの金銭的な負担を抑えることが可能です。
割引制度を活用する
地震保険には、建物の耐震構造に応じた割引制度があります。
割引の種類と割引率は、以下のとおりです。
対象の建物 | 割引率 | |
免震建築物割引 | 品確法に基づく免震建築物 | 50% |
耐震等級割引 | 品確法に基づく耐震等級を有している | 耐震等級1:10%
耐震等級2:30% 耐震等級3:50% |
耐震診断割引 | 地方公共団体等による耐震診断または耐震改修の結果、改正建築基準法における耐震基準を満たしている | 10% |
建築年割引 | 1981年6月1日以降に新築された建物 | 10% |
※出典:日本損害保険協会「損害保険Q&A」
住宅の耐震性能が高いと、地震保険の割引率も高くなる可能性があるだけでなく、地震による被害にも遭いにくくなります。
また地震保険は最長5年で契約でき、契約期間が長ければ長いほど割引きが適用されて保険料の支払総額を抑えることが可能です。
地震保険料控除を申請する
地震保険料控除とは、1年間で支払った地震保険料に応じた金額を、所得から控除できる制度のことです。
所得税や住民税は、1年間の合計所得金額に応じて税額が決まります。
地震保険料控除によって、課税の対象になる所得の金額が減ると、所得税や住民税の負担を軽減する効果が期待できます。
所得から控除される金額の決まり方は、以下の通りです。
年間の支払保険料の合計 | 控除額 |
50,000円以下 | 支払金額の全額 |
50,000円超 | 一律50,000円 |
※出典:国税庁「No.1145 地震保険料控除」
地震保険料控除を受けるためには、年末調整または確定申告での申請が必要です。
また申請の際には、保険会社から送られてくる地震保険料控除証明書を添付します。
【まとめ】地震保険は必要性に応じて加入しよう
地震保険はいらないという人もいますが、地震大国といわれる日本で住宅を取得するのであれば、積極的に加入を検討すべき保険といえます。
住宅ローンの残債額やマイホームがあるエリアなど、さまざまな要素をもとに地震保険に加入する必要があるかどうかを総合的に判断することが大切です。
地震保険に加入すべきか判断に迷う場合は、不動産会社や保険会社などの専門家に相談することをおすすめします。
(執筆者:品木 彰)