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マイナス金利解除で住宅ローン金利は今後どうなる?変動金利や固定金利の見通しを解説

2024年3月19日に日銀はマイナス金利政策を解除し、ゼロ金利政策に移行することを発表しました。

マイホームの購入を考えている方にとって、マイナス金利政策の解除により住宅ローン金利が今後どうなるのかは、とても気になるところではないでしょうか。

本記事では、マイナス金利政策の解除を受けて、2024年以降に住宅ローン金利がどうなっていくのかを考察します。

遠鉄の不動産・浜松ブロック長 石岡 靖雅(いしおか やすまさ)


宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、相続支援コンサルタント、家族信託コーディネーター、2級ファイナンシャル・プランニング技能士

そもそも住宅ローン金利はどう決まる?

住宅ローン金利には、大きく「固定金利」と「変動金利」の2種類があります。

変動金利は、返済期間中に世の中の金利状況によって借入金利が変わる可能性があるタイプです。

固定金利は、返済開始から一定期間または全期間にわたって金利を固定するタイプを指します。

まずは固定金利と変動金利が何を指標に決められているのかを解説します。

固定金利は「新発10年物国債の金利」を指標に決められる

固定金利の主な指標は、新発10年物国債の金利です。
新発10年物国債とは、新たに発行された償還期限(債券の額面金額が返還される日)が10年である国債のことです。

国債は金融商品であるため、新発10年物国債の金利は、投資家の予測の影響を受けやすいという特徴があります。

また10年国債の金利は、日銀(日本銀行)のイールドカーブ・コントロール(YCC)という政策により、おおむね0%程度で推移するように操作されています。

イールドカーブ・コントロールが開始されたあと、10年国債金利は低く抑えられていたため、住宅ローンの固定金利は長らく低水準で推移していました。

しかし、2022年から急激なインフレを抑えるために利上げをする米国との間で大きな金利差が生じたことで、状況は変化します。

2022年11月まで日銀は、10年国債金利について0.25%までの上昇は許容範囲内であるとしていました。
それが日米の金利差の影響により、同年12月には上限を0.5%、翌2023年10月には1.0%と許容幅を拡大していきました。

許容幅の拡大にともない、10年国債金利が上昇したことで、各金融機関は固定金利を引き上げていきました。

変動金利は「短期プライムレート」を指標に決められる

金融機関の多くは、短期プライムレートを変動金利の基準金利の指標としています。

プライムレートは、業績や財務状況などが優良な企業に貸し出す際の最優遇貸出金利です。プライムレートのうち、貸出期間が1年以内の融資に適用される金利を短期プライムレートといいます。

短期プライムレートは、日本銀行(日銀)が金融政策によってコントロールする政策金利の影響を受けます。
日銀は長らく金融緩和政策により、政策金利を引き下げているため、短期プライムレートとそれを指標に決められる変動金利の基準金利も低水準で推移しています。

また近年は、金融機関同士の金利引き下げ競争が激しさを増しており、優遇金利が年々引き上げられています。
住宅ローンの借入金利は、基準金利から優遇金利を差し引いた値です。

2008年ごろから、各金融機関の基準金利はさほど変化していませんが、優遇幅の引き上げが続いているために、変動金利は年々下がり続けている状況です。

2024年3月に日銀はマイナス金利政策を解除!住宅ローン金利は今後どうなる?

2024年3月18日・19日に開催された金融政策決定会合で、日銀はマイナス金利政策の解除を決めました。

マイナス金利政策とは、政策金利を−0.1%とする政策のことです。
2016年1月に、デフレ(物価が下がり続ける状況)から脱却することを目的とした政策である「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」のひとつとして導入されました。

ここでは、マイナス金利政策が解除された背景と、今後の政策内容を解説します。

マイナス金利政策が解除された理由

日銀がマイナス金利政策を終了することを決めたのは、2%の物価安定の目標が持続的・安定的に実現していくことが、見通せる状況にいたったと判断したためです。

2%の物価安定とは、簡単にいえば賃金の上昇をともないながら、モノやサービスの価格が毎年2%ずつ上昇する状態のことを指します。

日本では、2022年ごろから物価の上昇(インフレ)が続いていました。
しかしこの物価上昇は、原材料価格や資源価格の上昇による「コストプッシュ型」と呼ばれるものであり、賃金の上昇をともなっていませんでした。

それが近年では、企業の収益が改善されるとともに、人手不足の解消を目的とした賃上げをする動きがみられています。

特に、2024年の春闘では、昨年に引き続きしっかりとした賃上げが確認されました。

また、日銀の本支店が各企業に行ったヒアリング調査でも、幅広い企業で賃上げの動きが確認されたとのことです。

日銀は、今後コストプッシュ型のインフレは落ち着く一方、景気の回復による需要の増加と賃金の上昇により、将来的に物価上昇率は2%程度で安定すると見通しています。

このため、マイナス金利政策はその役目を終えたと判断され、2024年3月18日・19日の会合で解除が決められたのです。

今後の金融政策の内容

これまでの政策金利は、金融機関が日銀に預ける当座預金の一部に適用される金利でした。
それが今後は、無担保コールレート・オーバーナイト物※の金利が新たな政策金利となります。

※金融機関同士が担保なしで資金を借り、翌日に返済する取引

新たな政策では、無担保コールレート・オーバーナイト物の金利が、0〜0.1%程度で推移するよう促されることとなります。

※画像引用:日本銀行「金融政策の枠組みの見直し(2024年3月)

また、イールドカーブ・コントロールは撤廃されました。

今後は、具体的な指標は設けられず、長期国債を定期的に買い入れながら、10年国債金利をはじめとした長期金利が急激に上昇するときは、買入額の増額などで対処する方針となります。

マイナス金利の解除により変動金利が急上昇する可能性は低い

マイナス金利政策が解除され、政策金利が0〜0.1%に引き上げられたものの、多くの金融機関は変動金利をただちに引き上げることはしないと考えられます。

日銀は2016年にマイナス金利政策を開始し、政策金利を0%から−0.1%に引き下げました。
しかし、そのとき各金融機関は、変動金利の指標である短期プライムレートを据え置きました。

そのため、マイナス金利からゼロ金利に戻るだけでは、短期プライムレートは引き上げられず、変動金利の基準金利も据え置かれるでしょう。

ネット銀行のほとんどは、変動金利と短期プライムレートが連動していないため、マイナス金利解除を受けて基準金利を引き上げてくる可能性はあります。

とはいえ、低金利が魅力のひとつであるネット銀行が、変動金利を急激に引き上げると、顧客が離れてしまいかねません。

そのため、マイナス金利政策が解除された直後から、住宅ローンの変動金利が大幅に引き上げられる可能性は低いといえます。

ただし金融機関によっては、金利引き下げのキャンペーンが終了することで、優遇幅が縮小し借入金利が引き上げられる可能性があります。

変動金利は今後もしばらく低水準で推移する可能性が高い

変動金利が上昇し始めるのは、日銀が追加の利上げをしたときであると考えられます。
では、日銀はいつ追加の利上げをするのでしょうか。

日銀は、マイナス金利の解除を決めた2024年3月の会合で「現時点の経済・物価見通しを前提にすれば、当面、緩和的な金融環境が継続する」という考えを示しています。

つまり、マイナス金利政策が解除されたあともしばらくは、金利が低水準である状況が続くということです。

また、厚生労働省の調査によると、物価の上昇を考慮した賃金(実質賃金)は、2024年2月の速報値で前年同月比−1.3%であり、23か月連続のマイナスとなりました。
※出典:厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和6年2月分結果速報」

近年こそ企業で賃上げの動きがみられるようにはなったものの、実質賃金のマイナスが約2年も続いている状態です。

これらの点を踏まえると、近い将来に日銀が積極的に追加の利上げを行い、その影響で変動金利が上昇するという事態は考えにくいでしょう。

ただし、10年や20年などの長期にわたって低金利の環境が続くとも考えにくいです。
また、日銀がいつ追加の利上げをするのかを予測するのも困難です。

これからマイホームを購入するのであれば、不動産会社や金融機関、ファイナンシャルプランナーなどにも相談し、金利の上昇を想定した資金計画を立てることが重要といえます。

固定金利は予測が困難

近年の米国では急激なインフレが発生しており、FRB(米連邦準備制度理事会)はそれを抑えるために、政策金利を段階的に引き上げていました。

一方の日本では、日銀の金融緩和政策により低金利の環境が続いていたため、米国との金利差は拡大していっていたのです。

そのため、投資家が「日本も利上げをするのではないだろうか」と予測して取り引きしたことで、10年国債金利に上昇圧力がかかりました。

イールドカーブ・コントロールによる10年国債金利の変動幅の上限が、0.25%から0.5%、1.0%と拡大し、固定金利が上昇したのには、こうした背景があります。

2024年の3月上旬に、日銀が次の会合でマイナス金利政策を解除するという観測が強まったことで、10年国債金利は上昇しています。

マイナス金利政策の解除とイールドカーブ・コントロールの撤廃が発表された直後は、10年国債金利は上昇しませんでした。

しかし、2023年の後半から落ち着きをみせていた米国のインフレが、2024年に再び勢いを強めたことで、同年4月の10年国債金利は上昇傾向にあります。

10年国債の金利は日米の金利差だけでなく、日本の景気や政策の動向などさまざまな要素で変わるため、2024年も固定金利は毎月上下する可能性があり、正確な予測は困難です。

2024年以降に住宅ローンを組むときのポイント

2024年以降に住宅ローンを組む場合、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。
最後に、これから住宅ローンを組む人が押さえておきたいポイントを解説します。

変動金利を選ぶ場合は繰上返済資金を準備する

住宅ローンの返済額は、基本的に借入残高と借入金利に応じて決まります。

金利が上昇したときに繰上返済をして借入残高を減らすと、返済負担の増加を抑えることが可能です。

変動金利型の住宅ローンを組むのであれば、金利上昇時に繰上返済ができるよう、計画的に資金を準備すると良いでしょう。

固定金利にする場合は融資実行時の金利上昇を想定する

住宅ローンの借入金利は、物件が引き渡された時点で決まります。

不動産の売買契約を結んでから物件が引き渡されるまでは、数週間から1か月程度かかるのが一般的です。

固定金利を選ぶのであれば、物件が引き渡されたときに借入金利が上昇している可能性も考慮して資金計画を立てることが大切です。

【まとめ】住宅ローン金利は今後どうなるかわからない!慎重に検討を

マイナス金利政策は解除され、イールドカーブ・コントロールは撤廃されました。
しかし、変動金利と固定金利のどちらも、2024年に大きく上昇する可能性は低いといえます。

ただし、住宅ローン金利の今後を正確に予測するのは専門家でも困難です。

不動産会社や金融機関などとよく相談し、ご自身の資産状況や価値観などに合った金利タイプを選んだうえで、慎重に資金計画を立てることが重要です。

(執筆者:品木 彰)

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