住宅ローンを組んで家を購入したものの、経済状況の変化により返済が困難になることもあるでしょう。
ローンの滞納が続くとやがて自宅は競売にかけられ、強制的に退去させられるケースもあります。
実は競売で家を売却すると、ほとんどが市場価格よりも安くなってしまうことをご存知でしょうか?
この記事では競売物件の価格の決め方や、任意売却との価格差について解説します。
遠鉄の不動産・浜松北ブロック長 影山 裕紀(かげやま ひろき)
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、ITパスポート
不動産の競売とは?
不動産の競売とは、不動産を担保とした借入金の返済ができなくなったとき、債権者の申し立てにより地方裁判所が執り行う売却制度です。
家を購入する際は、住宅ローンを組む人が多いでしょう。
このとき借入金融機関では、対象不動産を担保とするために物件に「抵当権」を設定します。
何らかの理由で債務者がローンを返済できなくなったとき、債権者である金融機関は抵当権を実行して裁判所に競売申し立てを行います。
競売にかけられた不動産は民事執行法に基づいて売却され、債権者はこの売却代金の中から住宅ローンの残債を回収します。
例えば、マンション所有者が管理費や修繕積立金を長期滞納している場合、マンションの管理組合が裁判所に競売を申し立てることがあります。
競売物件の売却価格は、一般的に市場価格の50~70%程度と言われています。
競売物件の価格はなぜ市場価格よりも安いのか、その理由について見ていきましょう。
競売物件の価格が市場価格より安い理由
競売物件の価格が市場価格より安くなるのは、通常の売買とは違いさまざまな制約があるためです。
競売物件は「内覧ができない」「検討時間が短い」など、買主にとって不利な条件が多いという特徴があります。
一般物件より買い手がつきにくい点を考慮し、市場価格よりも低い評価額が設定されます。
競売物件は基本的に内覧不可のため、買主にとって主にこの3点セットが入札の検討材料となります。
競売物件の評価額は「売却基準価額」とも言われ、入札可能額である「買受可能価額」の元になる金額です。
「売却基準価額」と「買受可能価額」について詳しく見ていきましょう。
競売物件の売却基準価額
競売物件の売却基準価額とは「入札基準となる価格」のことです。
売却基準価額について、民事執行法第60条では次のように定めています。
第60条
第1項:執行裁判所は、評価人の評価に基づいて、不動産の売却の額の基準となるべき価額(以下「売却基準価額」という)を定めなければならない
第2項:執行裁判所は、必要があると認めるときは、売却基準価額を変更することができる
第3項:買受けの申出の額は、売却基準価額からその十分の二に相当する額を控除した価額(以下「買受可能価額」という)以上でなければならない
民事執行法第60条「売却基準価額の決定等」より引用
売却基準価額の決め方は以下の通りです。
- 不動産鑑定士が対象物件を調査して評価額を設定
- 裁判所は、不動産鑑定士より提出された評価書をもとに売却基準価額を決定
売却基準価額は、一般的な評価額に競売特有の減価率をかけて算出されます。
減価率は地域や物件の状態によって異なりますが、市場価格より3割程度減額されるのが一般的です。
【競売物件のおもな減価理由】
- 内覧制度を利用できる場合を除き、基本的に内覧不可
- 物件所有者の協力が得られないことが多い
- 隠れた瑕疵があっても買主対応となる(契約不適合責任を適用しない)
- 情報提供期間が限られているため検討する時間が少ない
- 「物件明細書」や「現況調査報告書」の内容が不十分なケースもある
- 物件の引渡しは買主と物件所有者間で行われるため、万一法的手続きが必要な事柄が起こった場合の買主負担が大きい
競売物件の買受可能価額
競売物件の買受可能価額とは「最低入札価格」のことです。
売却基準価額から20%減額した残りの80%の金額が、入札価格の最低ラインとなります。
例えば売却基準価額が1,000万円の物件だと、800万円以上の金額で入札が可能です。
参考:民事執行法第60条「売却基準価額の決定等」
競売で自宅を手放すと多くの残債が残る場合も
競売物件は評価額が低いため、競売で家を手放すと多くの残債が残る可能性があります。
最低入札価格である買受可能価額は、市場価格より3割減額された後、さらに2割減額された金額です。
もしも買受可能価額ギリギリで落札された場合、売却額は市場価格の5割程度となってしまいます。
競売を避けるためには「任意売却」も検討しよう
ローンの返済に困っているなら「任意売却」という方法もあります。
任意売却なら、競売よりも高い金額で家を売却できる可能性があります。
任意売却とは
任意売却とは債権者の合意を得て、住宅ローンが残ったままの不動産を売却する方法です。
任意売却では「住宅ローンを滞納していること」が条件となります。
競売は、抵当権を実行して強制的に売却手続きに入ります。
一方、任意売却は決定権は債権者にあるものの、あくまで債務者の意思による売却です。
任意売却は、通常の不動産売買とほぼ同様の手順で進められます。
大まかな流れは次のとおりです。
【任意売却の流れ】
- 不動産会社の選定
- 不動産会社と打合せ・不動産査定
- 不動産会社と専任媒介契約を結ぶ
- 債権者へ連絡(任意売却の交渉・同意)
- 販売活動を開始
- 買主と売買契約を結ぶ
- 残債務支払い方法の交渉
- 決済・物件の引渡し
任意売却では不動産会社が債権者と交渉し「抵当権の抹消」及び「任意売却の同意」を得る必要があります。
また物件の販売額は不動産会社が見積りますが、最終的な売却額は債権者が決定します。
売却後に残った残債については、新たな返済プランを立てて債権者と交渉します。
まずは任意売却に詳しい不動産会社を探し、売買方法や今後のスケジュール、物件の販売価格について相談しましょう。
任意売却の可能期間
任意売却ができる期間は「競売当日(入札開始日)」までです。
競売が開始されるまでに買主を見つけて、任意売却の手続きを終えなければなりません。
【競売までのおよその流れ】
- 滞納1ヶ月頃:金融機関から督促状が届く
- 滞納6ヶ月頃:期限の利益が喪失する(ローンを分割で返済する権利が失われる)
- 滞納8ヶ月頃:裁判所から「差し押さえ通知」が届く
- 滞納9ヶ月頃:裁判所から「競売開始決定通知書」が届く
- 滞納13ヶ月頃:裁判所から「競売の期間入札通知書」が届く
任意売却の申し出は「期限の利益が喪失」したタイミングで行うとよいでしょう。
買主を見つける期間を考慮して、早めに不動産会社に相談することをおすすめします。
任意売却と競売の価格差
任意売却では通常の販売活動を行うため、市場価格に近い金額で売れる可能性もあります。
一方競売での売却額は、市場価格の50~70%程度です。
そのため、落札価格が低いほど任意売却との価格差は大きくなります。
(※一部地域や物件の状態により、落札価格が市場価格と同様もしくは上回るケースもあります)
任意売却のメリット
任意売却のおもなメリットは次のとおりです。
【任意売却のメリット】
- 通常販売なので競売物件として新聞やインターネットに情報公開されない
- 裁判所による強制執行ではないので引渡しの時期など交渉が可能
- 引っ越し代・仲介手数料・税金などの諸費用を売却代金から支払いできる可能性がる(競売だとすべて自費)
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まとめ
競売物件の多くは、市場価格より安く売却されるのが一般的です。
競売物件特有の理由により、一般的な評価額よりも30~50%近く減額されるためです。
競売による売却を避けたいなら、住宅ローンが残ったまま売却できる「任意売却」という方法があります。
任意売却は通常の不動産売買とほぼ同様の手順で進められる上に、競売よりも高い金額で家を売却できる可能性があります。
任意売却できる期間は、競売当日までに限られています。
ローンの返済ができずに家を手放すときは、早めに不動産会社に相談しましょう。
(執筆者:茶谷利津子)