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住宅ローンの残債を退職金で返済するメリット・デメリットを解説

定年退職後も住宅ローンの返済が続くケースは少なくありません。
「退職金で住宅ローンを返した方がいいのだろうか」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

しかしご自身の老後生活や、住宅ローンを繰り上げ返済するメリットを確認したうえで、慎重に判断する必要があります。
そこでこの記事では、退職金で住宅ローンを返済する方法や注意点を解説します。

遠鉄の不動産・浜松ブロック長
石岡 靖雅(いしおか やすまさ)


宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、相続支援コンサルタント、家族信託コーディネーター、2級ファイナンシャル・プランニング技能士

定年退職後も続く住宅ローンの返済

多くの金融機関が、住宅ローンの返済期間を最長35年、完済時の年齢を最大80歳としています。
そのため60歳や65歳で定年退職を迎えたあとも、住宅ローンの返済を継続する人は少なくありません。

国土交通省の調査によると、住宅を購入した世帯主の年齢と、住宅ローンの返済期間の平均値は以下の通りです。

世帯主の平均年齢 住宅ローンの返済期間
注文住宅 44.1歳 建物:31.6年
土地:33.7年
分譲戸建住宅 39.7歳 33.3年
分譲マンション 42.7歳 33.7年
中古戸建住宅 46.2歳 27.3年
中古マンション 46.0歳 28.5年

※出典:国土交通省「平成30年度住宅市場動向調査 報告書

世帯主の平均年齢と返済期間の平均を足し合わせると、完済時の年齢は約73〜78歳となります。
定年退職後も住宅ローンの返済を続ける人は、少なくないといえるでしょう。

住宅ローンの残債は退職金で返済できる?

国からもらえる年金が生活基盤となるので、定年退職をした人の多くは、現役時代よりも収入が低下するケースがほとんどです。
老後の返済負担を軽減するために、退職金で住宅ローンを繰り上げ返済する方もいます。

住宅ローンの繰り上げ返済には、残債の全部を返済する方法と、一部を返済する方法があります。

全額繰り上げ返済

全額繰り上げ返済とは、住宅ローンの残債を一括で返済する方法です。

全額繰り上げ返済をすると、住宅ローン返済の義務がなくなるため、毎月の支出が減って老後の生活に余裕が生まれます。

退職金の支給額や貯蓄が多い方は、住宅ローンの全額繰り上げ返済を検討すると良いでしょう。

一部繰り上げ返済

住宅ローンは、残債の一部を繰り上げ返済できます。

例えば住宅ローンの残債が1,500万円である場合、300万円を繰り上げ返済することで、返済期間の短縮や毎月の返済額の軽減といった効果が得られるのです。

一部繰り上げ返済には、「期間短縮型」と「返済額軽減型」の2種類があります。

期間短縮型の繰り上げ返済

期間短縮型とは、毎月の返済額を変更せずに住宅ローンの返済期間を短くする繰り上げ返済です。
また期間短縮型の方が返済額軽減型よりも利息金額が低くなります。

住宅ローンの返済を予定よりも早く終えたい方や、利息の負担をできるだけ少なくしたい方は、期間短縮型の繰り上げ返済を選択するとよいでしょう。

返済額軽減型の繰り上げ返済

返済額軽減型とは、返済期間はそのままで、毎月の返済額を変更する繰り上げ返済です。

主な収入源が年金となる老後生活で、毎月の返済額を減らして家計の負担を抑えたいのであれば、返済額軽減型がおすすめです。

住宅ローンの残債を退職金で返済する際の注意点

住宅ローンの残債を退職金で返済する場合、以下の2点に注意が必要です。

  • 退職金は老後資金として重要
  • 老後の生活が苦しくなる場合も

退職金は老後資金として重要

退職金は本来、会社の利益に貢献してくれた従業員の老後生活のために支給されるお金です。
退職金をすべて住宅ローンの返済に使ってしまうと、老後の生活資金に充てられるお金が減ってしまいます。

日本年金機構によると、令和2年度における夫婦2人世帯の標準的な厚生年金受給額は月額220,724円です。
※出典:日本年金機構「令和2年4月分からの年金額等について

一方で、生命保険文化センターの調査では、ゆとりある老後生活を送るために必要な生活費は、平均で月額36.1万円となっています。
※出典:生命保険文化センター 「令和元年度 生活保障に関する調査

年金の受給を軸に老後生活を送るためには、退職金を含めた貯蓄が大切です。

老後の生活が苦しくなる場合も

退職金を住宅ローンの返済に充ててしまうと、生活費が払えなくなって老後生活が苦しくなる可能性があります。

また高齢になり、病気やケガを負って、入院や手術などをすれば医療費の支払いが発生します。
さらに年齢を重ねて身体機能が低下し、介護施設や介護サービスを利用すると、その費用を支払わなければなりません。

医療費が発生した場合は公的医療保険(健康保険)、介護関連の費用が発生した場合は公的介護保険で金銭的な負担を軽減できます。

しかし公的な保険制度を利用しても、自己負担が0円となることはありません。
民間の医療保険やがん保険、介護保険に加入していない方は、思わぬ病気やケガなどで貯蓄を減らしてしまう恐れがあるのです。

老後生活における金銭的な不安を軽くするためには、まとまった額の貯蓄が不可欠です。
貯蓄や不動産の賃料収入などで老後資金を十分に確保できていることが、退職金を住宅ローンの返済に充てられる条件といえます。

住宅ローンの返済が苦しい場合は「任意売却」も検討しよう

退職後も、住宅ローンの返済が必要であるにもかかわらず滞納してしまった場合は、「任意売却」という方法があります。

住宅を所有している方は、住宅ローンの返済だけでなく、固定資産税の支払いも必要です。
マンションに住んでいれば、管理費や修繕積立金も支払わなければなりません。

収入が減少した老後生活では、退職金で残債の一部を繰り上げ返済しても、生活が苦しくなり返済が滞ってしまう可能性があります。

老後の生活で、住宅ローンの返済が苦しくなり滞納してしまった場合は、「任意売却」を検討してみましょう。

任意売却とは

住宅ローン返済中は、借入先である金融機関により自宅に抵当権が設定されているため、所有者が勝手に売却することはできません。
ただし任意売却では、住宅ローンの返済を滞納している場合に限って、金融機関の承認を得ることで不動産の売却が可能になります。

住宅ローンの返済を滞納すると、最終的に金融機関から残債の一括返済を求められます。
一括返済に応じなかった場合、金融機関は住宅を差押さえて、強制的に競売にかけてしまいます。

住宅が競売にかけられると、相場の5〜7割程度の価格で売却されてしまうため、ローンが多く残る恐れがあります。
最終的には、自己破産を選択せざるを得なくなるかもしれません。

競売を防ぐためにも、金融機関の合意を得て任意売却を進めましょう。

任意売却のメリット

任意売却には、以下のようなメリットがあります。

  • 競売よりも高く売れる
  • プライバシーが守られる

任意売却のメリットは、相場とほぼ同じ価格で売却できる可能性がある点です。
そのため任意売却をすると、競売よりも残債額を抑えられるケースが多いでしょう。

また任意売却をしたあとに残債が発生しても、金融機関との交渉次第では、生活に支障のない金額に設定したうえで分割返済できます。
任意売却をすることで、自己破産になるリスクを回避できるでしょう。

加えて任意売却では、競売のように裁判所のホームページや新聞に物件の売却情報が記載されないため、ローンを滞納した事実を周囲に知られる可能性は低いです。

任意売却の注意点

任意売却の注意点は、以下の2点に注意が必要です。

  • 債権者の同意が得られない可能性がある
  • 買主が見つからなければ競売に

任意売却をするためには、金融機関と交渉して合意を得る必要があります。
しかし状況次第では、金融機関から承認を得られないこともあるのです。

また任意売却は、競売の当日までに物件の引き渡しまでを完了させなければなりません。
期日までに買主が見つからなかった場合、住宅は競売にかけられてしまいます。

以上の点から任意売却を成功させるためには、実績が豊富な不動産会社に相談することが大切です。

任意売却については、こちらの記事でも詳しく解説しています。

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まとめ

退職金で住宅ローンを繰り上げ返済すると、毎月の返済額や利息負担を減らせます。
また残債を全額返済しなくても、一部繰り上げ返済をすることで、返済期間の短縮や返済額の軽減といった効果を得られるのです。

ただし退職金を住宅ローンの返済に充てると、老後の資金が減ってしまって生活が苦しくなる恐れがあります。
老後生活で金銭的な不安を少しでも軽くするためには、退職金の使いみちを慎重に検討することが大切です。
(執筆者:品木彰)

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