また、家を売っても売却価格が残債の額より小さいときは、どのように対処すればよいのでしょうか。
この記事では、ローン中の家の売却と残債の支払いについて紹介します。
遠鉄の不動産・浜松北ブロック長 影山 裕紀(かげやま ひろき)
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、ITパスポート
住宅ローン返済中の家と抵当権について
住宅ローンの返済中、購入した家には抵当権が設定されています。
抵当権とは、債務者が債務不履行(ローンの返済不能)に陥った際に備えて、債権者が担保を確保する権利です。
金融機関によって抵当権が設定されている場合は、たとえ自分名義の家でも勝手に売却することはできません。
必ず抵当権者の同意が必要です。
住宅ローンが残っている家の売却方法
住宅ローンが残っている家には、抵当権が設定されているため勝手に売却はできません。
では売却が必要になった場合は、どうすればよいでしょうか。
住宅ローン残債があっても、条件が整えば家の売却は可能です。
売却に向けて調べることや、売却可能な条件などを詳しく見ていきましょう。
まずはローン残債と売却額を調べる
ローンの残っている家を売却するには、家の売却価格とローンの残債を確認する必要があります。
家を売ったお金でローンを完済できるのか、できない場合はいくら不足するのか知らなければなりません。
ローンの残債は、借入を行っている金融機関に問い合わせて調べることができます。
「金融機関のWebサイト」「金融機関の窓口」「残高証明書」などでも確認が可能です。
家の売却価格を調べるには、不動産会社の査定を受けましょう。
査定にはインターネットなどで簡易的に価格を確認できる「机上査定」という方法もあります。
しかし正確な価格を調べるためには、実際に家を訪問して状態を確認する「訪問査定」をおすすめします。
査定価格は会社によって異なるため、複数社に査定依頼をするといいでしょう。
ローン残債と売却価格を調べ、自身が以下の2つのどちらの状態にあるのかを把握します。
- アンダーローン…ローン残債が物件の売却価格より低い
- オーバーローン…ローン残債が物件の売却価格より高い
アンダーローンかオーバーローンかによって、売却方法が異なります。
アンダーローンの場合の売却方法
アンダーローンのケースでは、ローン残債があっても通常の売却と同じように家を売ることができます。
金融機関に事前に連絡し、売却代金で残債の一括返済を行います。
- 不動産会社と相談し残債の決済日を決定
- 金融機関に一括返済の連絡をする
- 一括返済手続きの書類を記入・提出する
- 不動産を引渡し代金を受け取る
- 返済資金を振り込む
- 抵当権抹消の必要書類を金融機関から受け取る
- 抵当権の抹消と購入者への所有権移転登記を行う
オーバーローンの場合の売却方法
物件の売却代金よりローン残債の方が大きいオーバーローン状態の場合、どのように売却を行えばよいのでしょうか。
代表的な3つの方法を紹介します。
預貯金で残債返済
オーバーローンのままでは、金融機関は不動産の売却には難色を示すことがほとんどです。
ただし預貯金でローンの残債を支払えれば、オーバーローンでも売却可能です。
例えばローン残債が1,500万円で、家の売却価格が1,000万円の場合、差額の500万円を預金から捻出できれば売却できます。
住み替えローンを利用して残債返済
預貯金がない場合でも、住み替えローンを利用して残債を返済し、家を売却する方法もあります。
住み替えローンとは、家を買い替えるときに、新しい家の購入資金と住宅ローンの残債分をまとめて貸し付けてくれるローンのことです。
住み替えローンを利用する上では、借入金が増額することに注意しましょう。
収入とのバランスも確認しながら、無理のない返済が可能か確認してください。
そのため審査の基準が厳しくなるため、審査に通らないケースも少なくありません。
任意売却する
オーバーローン状態でこれ以上の返済が難しく、ローンの滞納が続いている状態であれば「任意売却」も選択肢に入ります。
任意売却とは、住宅ローンの滞納が一定期間続いている状態で、金融機関の同意を得て家を売却することです。
ローンを滞納し続けると、最終的には金融機関の申し立てにより自宅が裁判所によって競売にかけられます。
買受人への引渡しに応じなければ、強制的に退去させられることもあります。
任意売却は競売による売却を阻止し、少しでも所有者に有利に売却する手段なのです。
任意売却とは?
任意売却ではローンの滞納が続いている場合に、金融機関の同意のもと担保の不動産を売却します。
売却が強制的に進行する競売とは違い、所有者のメリットが大きい売却手段です。
任意売却のメリット
任意売却の代表的なメリットは以下のとおりです。
- 競売よりも売却価格が高い
- 売却や引渡しが計画的にできる
- 引越し費用や仲介手数料など経費の持ち出しが不要
- 所有者のプライバシーが守られる
- 残債の支払い方法を金融機関に相談できる
競売は「売却価格が安くローンの残債が多くなる」「売却スケジュールが裁判所に決定される」など、所有者に不利な条件が少なくありません。
ローンの支払いが難しい状況となったら、早めに任意売却の相談をしましょう。
任意売却の注意点
メリットの多い任意売却ですが、検討する上では以下の点に注意しましょう。
- 債権者の同意が得られないことがある
- 連帯保証人の同意が必要である
- 期限までに買主が見つからなければ競売にかけられる
- 滞納の事実が信用情報機関に登録される
任意売却は一般の不動産売却と同じく、不動産仲介会社を経由して買い手を探します。
しかし金融機関との交渉や競売の進行を意識した早期の売却など、任意売却の準備には専門的な知識や経験が必要です。
そのため任意売却の実績と知識が豊富な不動産会社に依頼することが大切です。
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まとめ
住宅ローン返済中の家は、抵当権者である金融機関の同意なく売却することはできません。ローンの残債が売却価格を上回っているオーバーローン状態では、何らかの方法で不足分を補う必要があります。
オーバーローン状態で返済が難しい場合、任意売却も選択のひとつとなります。
競売と比べて所有者のメリットが多い売却方法ですが、注意点も多いため任意売却に強い不動産会社のサポートが必要となります。
住宅ローンの滞納が続き返済が難しい場合は、早めに不動産会社に相談しましょう。
(執筆者:いちはらまきを)