ローンの支払いを滞納し、所有する不動産が差し押さえを受けた際、金融機関の同意を得れば競売と並行して「任意売却」を進められます。
任意売却はどのようなタイミングで着手すればよいのでしょうか。
この記事では任意売却のタイミングとタイムリミットを解説します。
遠鉄の不動産・中遠売買ブロック長 岸本 圭祐(きしもと けいすけ)
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、カラーコーディネーター、ファイナンシャルプランナー3級
任意売却のタイミングはいつ?
任意売却は住宅ローン返済が不可能になった場合に取る手段です。
そのため任意売却を進めるためには、ローンの滞納が前提になります。
しかし競売は売却価格が市場価格より安くなるなど、所有者にとってデメリットが多いため、任意売却をすることが望ましいでしょう。
任意売却の相談や手続きは、住宅ローンの滞納が3~6か月続いたタイミングで始めます。
ただし任意売却での売却活動を開始しても、競売の手続きは止まりません。
競売の進行を意識しながら、開札日までに任意売却での買主を探して売却を完了させる必要があります。
ローンの滞納期間 | 競売の進行状況 | 任意売却の進行状況 |
1か月~ | 金融機関から書面による督促が届く | |
3~6か月 | 期限の利益を喪失する | 任意売却の手続き、売却活動を始める |
8か月~ | 裁判所から差し押さえ通知が郵送される | |
9か月~ | 裁判所から競売開始決定通知書が郵送される | |
10か月~ | 裁判所執行官が現況調査(物件の状況の確認)に訪れる | |
13か月~ | 裁判所から競売の期間入札通知書が郵送される | 入札通知に記載された期日(開札日)までに売却を完了させる |
ここからは任意売却を始めるタイミングと、タイムリミットについて詳しく解説します。
任意売却は期限の利益を喪失したタイミングで始める
住宅ローンの滞納が3~6か月続くと、債務者は期限の利益を喪失します。
金融機関とのローン契約では、契約書に「〇か月以上滞納すると一括で返済する」などの条項が盛り込まれることが一般的です。
滞納によって一括返済が必要な状態になることを「期限の利益の喪失」と呼びます。
期限の利益を喪失した後は、債務者は分割払いができなくなり一括返済を求められます。
一括返済できるお金が手元になければ、金融機関は裁判所に対して競売の手続きを開始します。
競売を避けるためには、所有者もこのタイミングで任意売却の手続きを始めましょう。
任意売却のタイムリミットは「競売の開札日」
競売で買受人が決定し、物件の代金を納入すると任意売却はできなくなります。
つまり任意売却のタイムリミットは、競売の開札日です。
正確には開札の前日までに任意売却で購入者が決定しており、代金の支払いが済んでいる必要があります。
購入希望者が現れただけでは競売の手続きは停止しないため注意しましょう。
任意売却を成功させるためには
任意売却は通常の不動産売却とは異なり、売却活動にかけられる期間が決まっています。
そのため漫然と売却を進めていると、期限に間に合わないこともあります。
任意売却を成功させる鍵となるのが「早めの相談」と「不動産会社選び」の2つです。
早めに不動産会社に相談する
任意売却は、実質的に競売の開札日がタイムリミットです。
期限が決まっているため、早めに相談すればその分売却活動に長い期間をかけられます。
売却までに猶予があれば、不動産相場の高くなる時期の売却や、有利な条件での契約ができる可能性が高くなります。
残債の削減にも繋がるため、任意売却の相談は早めに行いましょう。
任意売却の知識と実績が豊富な不動産会社に相談する
任意売却を担当する不動産会社には「金融機関の説得・交渉」「競売の進行を意識した売却活動」など、通常の不動産売却とは異なるサポートが求められます。
そのため売却を依頼する不動産会社は、任意売却の知識や実績が豊富な会社が望ましいです。
任意売却の実績や任意売却専用プランをwebサイトに掲載している不動産会社も多いため、これらも参考に不動産会社を選んでみましょう。
任意売却の相談先について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
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任意売却後の引越しのタイミングは?
任意売却では、競売とは違い購入者が決まったからといって一方的に退去を求められることはありません。
引渡しのタイミングは、購入者との協議である程度調整可能です。
一般的には、購入者の決定後1か月から2か月程度で引渡しを行います。
購入者の決定から引渡しまである程度の猶予があるとはいえ、決定後に引越し先を探す場合は、かなりタイトなスケジュールになるでしょう。
売却活動中から引越し先の候補を絞っておくなど、計画的に準備を進めるのがおすすめです。
任意売却と自己破産のタイミングは?
住宅ローンの滞納が長くなり返済のめどが立たない状態だと、自己破産を選択する人もいるでしょう。
ただし自己破産の手続き中でも、任意売却が可能なこともあります。
自己破産と任意売却を並行する場合、どのようなタイミングで準備を進めればよいのでしょうか。
自己破産の申し立てをする前に任意売却を
自己破産と任意売却をどちらも行うのであれば、おすすめのタイミングは自己破産の申し立て前に任意売却で不動産を売却することです。
その理由は、自己破産は所有する財産の額によって手続きの種類が異なるためです。
自己破産で整理する財産の中に不動産があると総額が大きくなるため、高額な予納金(手続き費用)がかかる「管財事件」に分類されます。
管財事件の予納金は50万円を超えることもあるため、破産手続き前に不動産を売却する方が、金銭的な負担は少なくなります。
自己破産の手続き中でも任意売却は可能?
自己破産の申し立てをした後でも、管財人によって不動産が処分される前であれば任意売却は可能です。
ただし「管財事件」として手続きが始まっているため、予納金は発生します。
経済的負担の軽減は期待できないため注意してください。
任意売却と自己破産について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
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まとめ
任意売却の成功には、できるだけ早い段階での準備と、任意売却に強い不動産会社のサポートが欠かせません。
ローンの滞納が3~6か月ほど続き、期限の利益を喪失したタイミングから任意売却の相談を始めましょう。
自己破産と並行して行うケースでは、自己破産を申し立てる前に任意売却で不動産を処分すると、裁判所に支払う予納金(手続き費用)が少額で済みます。
経済的負担を軽減できるため、この場合も早めの相談と売却をおすすめします。
(執筆者:いちはらまきを)