転勤や相続などの理由で空き家を所有した場合、売却しないのであれば適切に管理する必要があります。
空き家の管理が十分でないと「空き家対策特別措置法」により、自治体から管理を指導されたり強制的に対処されたりする可能性があるためです。
また、2023年(令和5年)12月13日から空家対策特別措置法が改正されたことで、自治体はより早い段階で管理が行き届いていない空き家に指導や勧告ができるようになりました。
空き家対策特別措置法とはどのような法律で、空き家の管理を放置するとどのようなペナルティが待っているのでしょうか?
今回は空き家を所有するうえで押さえるべき「空き家対策特別措置法」についてわかりやすく解説します。
遠鉄の不動産・中遠売買ブロック長 岸本 圭祐(きしもと けいすけ)
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、カラーコーディネーター、ファイナンシャルプランナー3級
空き家対策特別措置法とは
空き家対策特別措置法(空家等対策の推進に関する特別措置法)とは、空き家の増加によって景観が損なわれたり、犯罪が増えたりするのを防ぐために、2015年2月に施行された法律です。
空き家対策特別措置法が施行されるまでは、各自治体が独自の条例を制定して、空き家の増加に対処していました。
しかし、条例には法律のような強制力はありません。
所有者の許可なく空き家に入ると、自治体の職員であっても不法侵入となります。
自治体が条例にもとづいて改善を要求しても、最終的な判断は所有者に委ねられています。
そのため条例の制定では、空き家の増加対策にあまり効果は望めませんでした。
調査の結果、空き家に一定の危険性が認められた場合、自治体は所有者に対し修繕や撤去などの指導・勧告・命令を出せるようになりました。
また所有者の住所を確認するために、住民票や戸籍、固定資産台帳(税金を支払う義務がある人の名簿)などの個人情報を確認する権利が、自治体に認められています。
「空き家の管理を放置すると、どのような問題があるのだろうか」 「リスクがあるなら空き家を手放したい……」 日本では、空き家の増加が問題視されています。 空き家を放置すると、さまざまな被害や問題が発生する恐れがあるため、適切[…]
空き家の定義
自治体の調査対象となるのは、1年を通して人の出入りがなく、水道や電気、ガスなどのライフラインが止められており、誰にも使用されていない状態である空き家です。
調査の結果、空き家が以下のような一定の要件を満たしていると「特定空家等」と認定されます。
- 建物が倒壊するなど保安上著しい危険性がある状態
- 著しく衛生上有害となる恐れがある状態
- 適切な管理が行われていないことで著しく景観が損なわれている
- 周囲の生活環境を保全するために放置が不適切である
例えば、空き家の老朽化が進み倒壊する恐れがある場合や、草木が道路まではみ出している場合は、特定空家等とみなされる可能性があります。
「特定空家等」に認定されるとどうなる?
特定空家等に認定されると、自治体によって以下のような措置が講じられます。
- 助言・指導
- 勧告
- 命令
それぞれについて、確認していきましょう。
助言・指導
特定空家等と認定された場合、まず自治体は所有者に対して助言や指導を行います。
助言では「草木が伸びて道路にはみ出しているので除草してください」のように、現状と対処法が所有者に伝えられます。
しかし助言には、法的拘束力がありません。
どのように対応するのかは、所有者の判断に委ねられます。
空き家がただちに改善の必要な状態である場合、市町村から管理方法を指導されます。
助言よりもさらに管理を強く促されることになります。
勧告
管理方法を指導しても空き家に改善が見られなかった場合、市町村は空き家の所有者に対して状況改善の勧告をします。
勧告を受けた場合、所有者は一刻も早く対処しなければなりません。
近隣の住民が被害を受けることが予想されるほど、空き家の状態が深刻かつ危険であるためです。
またこの段階よりさらに進むと、固定資産税の「住宅用地の特例」措置を受けられず、固定資産税額が6倍になります。
所有している空き家が勧告を受けた場合、市町村の担当者に連絡して状況を把握し、速やかに改善に取り組みましょう。
命令
自治体が勧告をしても所有者が対応しない場合、自治体から管理を命令されます。
命令に背くと、50万円以下の罰金が科されます。
命令を受けてもなお、所有者が従わず状況の改善がみられない場合は「行政代執行」によって、以下が行われることになります。
- 樹木の伐採
- 建物の解体
- ゴミの撤去 など
行政代執行によって発生した費用は自治体ではなく、所有者が負担します。
自治体から管理を命令されるような空き家は、放置を続けると倒壊や火災などが発生する確率が、極めて高くなります。
自治体から空き家の状況改善を命令された場合は、迅速に対応しましょう。
空家対策特別措置法が改正
2023年(令和5年)12月13日に、改正された空家対策特別措置法が施行されました。
ここでは、改正の背景や改正のポイントを解説します。
法改正の背景
空家対策特別措置法が改正された背景には、止まることのない空き家の増加があります。
総務省の調査によると、使用目的のない空き家の数は1998年が182万件であったのに対し、2018年は349万件と1.9倍に増加しました。
また2030年には、470万件にまで増加すると推計されています。
※出典:総務省「住宅・土地統計調査」
改正前の空家対策特別措置法では、周囲に著しい悪影響をおよぼす恐れのある特定空家への対応が重視されていました。
しかし特定空家となってから対応を始めても、空き家の抑制にあまり効果的ではなかったため、自治体からはより重点的な対策や規制の緩和などを求める声が上がっていました。
そこで、特定空家となる前の段階での活用や適切な管理を促し、活用・管理が難しい空き家についてはよりスムーズに対処できるようにするために、空家対策特別措置法が改正されることになったのです。
改正後は「活用拡大」「管理の確保」「特定空家の除去等」の3本柱で空き家の対応が強化されることとなりました。
改正のポイント
空家対策特別措置法の改正の主なポイントは、以下のとおりです。
- 空家等の活用の拡大
- 管理の確保
- 特定空家等の除却等
空家等の活用拡大
改正後は、空き家をより有効活用しやすくするために「空家等活用促進区域」が創設されました。
自治体によって空家等活用促進区域に指定されたエリアでは、空き家の用途変更や建替えがより柔軟にできるようになります。
例えば、空き家の前面に接する道路が幅員4m未満である場合でも、市区町村などが定める安全確保策にしたがえば、通常ではできない建替えや改築などができます。
また、市区町村によって定められたルールに適合していれば、通常では許されない建物の利用目的に変更することも可能になりました。
これにより「低層階の住宅しか建てられないエリアにある空き家をカフェにする」といった従来では難しかった方法での活用もできるようになります。
他にも、あらかじめ指定されたNPO 法人や社団法人などが、市区町村から委託された空き家の活用を支援する業務を担うことも可能となっています。
管理の確保(管理不全空家の設定)
改正法では、特定空家に加えて「管理不全空家」というカテゴリーが新設されたことで、市区町村はより早い段階で指導や勧告などができるようになりました。
管理不全空家は、定期的な換気や通水、庭木伐採など国が定めた指針にそった管理がなされておらず、放置すれば特定空家になる恐れのある空き家を指します。
また、市区町村は所有者の代わりに空き家を管理する「管理不全建物管理人」の選任を裁判所に請求できるようになりました。
管理不全建物管理人は、空き家の所有者の代わりに建物を管理することができるため、特定空家の増加を抑えられる効果が期待できます。
さらには、市区町村は電力会社などに空き家の所有者情報を提供するよう要請することも可能になりました。
特定空家等の除却等
改正後は、建物が崩落しかけているなど危険性が高い空き家は、より短期間に代執行による処分ができるようになっています。
これまでは、たとえ緊急性が高いケースであっても、市区町村は改修や除去などの命令を経なければ、代執行ができませんでした。
それが改正後は、早急に対処が必要な特定空家については、命令などの手続きを経ることなく代執行ができるようになり、より迅速に対処できるようになりました。
また、代執行後に所有者が判明した場合の代執行費用については、これまでとは異なり裁判所の確定判決を得なくても強制的に徴収することが可能となっています。
加えて空き家の所有者が不明である場合に、市区町村は裁判所に「財産管理人」の選任を請求できるようになりました。
選任された財産管理人は、所有者に代わって建物の修繕や処分などができます。
「特定空家等」や「管理不全空家」は固定資産税が6倍?
空家対策特別措置法の改正後は、特定空家だけではなく、管理不全空家と認定されて指導を受けたにもかかわらず改善がみられない場合も、固定資産税に「住宅用地の特例」が適用されなくなります。
固定資産税とは、毎年1月1日時点で不動産を所有している人が支払う税金です。
税額は自治体が定める土地や建物の固定資産税評価額に、税率をかけて計算されます。
所有する土地の上に、人が居住するための建物が建っていると適用されるのが「住宅用地の特例」です。
住宅用地の特例が適用されると、土地部分の固定資産税評価額が以下のように軽減されます。
- 200㎡まで:1/6
- 200㎡以上:1/3
空き家を適切に管理せずに放置したことで、土地部分の固定資産税に住宅用地の特例が適用されなくなると、税負担が最大で6倍となる可能性があります。
法改正の前は、自治体から特定空家等と認定されて勧告を受けると、住宅用地の特例が適用されなくなりました。
それが改正後は、管理不全空家と認定されて自治体の勧告にしたがわなかった時点で住宅用地の特例が適用されなくなります。
法改正によって、これまでよりも早い段階で土地部分の固定資産税に適用される特例が解除されるようになりました。
空き家は売却すべき?
空き家を管理せず放置していると、自治体から指導・勧告・命令が行われるだけでなく、税負担も増える可能性があります。
しかし空き家を売却して手放すことが、必ずしも有効な対策であるとは限りません。
まずは空き家を将来的に使用する可能性がないか考えてみましょう。
将来的に使用する場合は「管理」
家族や親戚が将来的に空き家を活用する予定があるなら、売却する必要はありません。
定期的に清掃したり損傷箇所を修繕したりして、空き家を適切に管理しましょう。
空き家の所在地から離れて暮らしている場合は、空き家管理サービスを利用するのも方法のひとつです。
空き家を「賃貸活用」という選択肢も
リフォームした空き家を貸し出せば、賃料収入を得られます。
賃貸需要の見込めそうなエリアに空き家が建っている場合、改装して賃貸物件としての活用を検討してみてはいかがでしょうか。
使用の予定がなければ「売却」
所有している空き家をリフォームしても、賃料収入を得られる可能性が低い場合に検討したいのが売却です。
使用する予定のない空き家を所有していても、景観の悪化や犯罪の発生などのリスクを抱えるだけです。
その間、管理費用や税金の支払いも発生します。
空き家を売却すると、管理する手間がかからなくなるだけでなく、空き家に起こるさまざまなトラブルや税負担が膨らむ心配もなくなるでしょう。
ただし売却をする場合は、できるだけ早く買い手を見つける必要があります。
空き家の売却は「買取」も検討しよう
一般的な売却活動で買い手が見つかりにくい場合は、空き家を不動産会社に買い取ってもらう「買取」を検討しましょう。
買取では不動産会社が提示した金額に合意するだけで、短期間で空き家を売却できます。
売却活動をしないため、購入希望者の内覧対応をする必要もありません。
買取を利用すると、売却価格が相場の7割程度となるケースがほとんどです。
しかし空き家は買取を利用して短期間で売却した方が、所有することで生じるリスクを回避し、金銭的な負担を抑えられる可能性があります。
まとめ
空き家対策特別措置法により、管理されておらず被害が発生するリスクの高い空き家の所有者は、自治体による管理の助言や勧告、命令などの行政処分を受ける可能性があります。
空家対策特別措置法の改正後は、倒壊する恐れや著しく衛生上有害となる恐れがなくとも、管理が不十分である空き家は「管理不全空家」と認定されるようになりました。
管理不全空家に指定され、自治体から勧告を受けると固定資産税に特例が適用されなくなり、税負担が増えてしまいます。
空き家を将来的に使用する可能性がある方は、被害が発生しないよう適切に管理しましょう。
もし管理が難しく将来的に利用する可能性がない場合は、売却を検討してみてはいかがでしょうか。
(執筆者:品木彰)
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