滞納していると、金融機関や裁判所からの書類を見たくないかもしれませんが、放っておくと取り返しのつかない事態になることも。この記事では、住宅ローンの滞納中に届く各種通知書に対する対処法を解説します。
遠鉄の不動産・浜松ブロック長
石岡 靖雅(いしおか やすまさ)
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、相続支援コンサルタント、家族信託コーディネーター、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
住宅ローンを滞納した際に届く7つの通知書
住宅ローンを滞納していると、滞納期間に応じて以下の7種類の通知書が届きます。
届く書類 | 滞納期間 |
督促状・催告書 | 1か月~ |
期限の利益喪失通知書 | 6か月~ |
代位弁済通知書 | 7か月~ |
差押通知書 | 8か月~ |
競売開始決定通知書 | 9か月~ |
現況調査通知 | 10か月~ |
競売の期間入札通知書 | 13か月~ |
督促状・催告書
督促状や催告書は、ローンの返済が滞っている場合に、融資を受けている金融機関から送付される書類です。
この時点では金融機関は借主に自発的に支払いを求めるのみにとどまっており、強行に残債を回収しようとはしません。
しかし2か月、3か月……とローンの滞納が長引くと「このままでは期限の利益喪失や代位弁済が行われる」といった警告の文言が記載されるようになります。
ローンの支払いが難しいのであれば、督促状・催促状を受け取った時点で金融機関に連絡しましょう。
返済の意思を示した上で相談すれば、月の返済額や金利の変更などに応じてもらえる場合もあります。
期限の利益喪失通知書
滞納が続くと、ローンを分割払いする権利(=期限の利益)を失います。
その事実を書面で通知するのが「期限の利益喪失通知書」です。
期限の利益喪失後は、住宅ローン残債の一括返済を求められるため、この通知書が届いたときが、分割払いの実質的なラストチャンスと言えるでしょう。
期限の利益喪失通知書には「〇月〇日までに入金がされなければ期限の利益を喪失する」と入金期限が記載されています。
書面が到着した時点で支払い期限が到来している分を指定の期日までに入金し、以降滞りなく返済すれば問題ありません。
代位弁済通知書
代位弁済通知書は「保証会社が債務者に代わって金融機関に残債を返済した」ことを通知する書類です。
この書類が届くと、債権者は金融機関ではなく保証会社になります。
以降、債権者は残債を回収するべく住宅を競売にかける手続きを進めます。
ただし個人民事再生の手続きは難解なうえ、条件が設定されているので、誰もが利用できるわけではありません。
後述の任意売却を検討するのであれば、この段階には準備を始めましょう。
差押通知書
競売の準備が始まると、債務者が勝手に処分しないよう、裁判所が住宅を差し押さえます。
その旨を通知する書類が差押通知書です。
差押通知書が届いた段階でも、ローン残債を一括で返済できれば差し押さえは解除されます。
ただし実際にはすぐに差し押さえの解除は難しいため、どのように債務を処理するのか早めに方針を決定したうえで、専門家に相談しましょう。
競売開始決定通知書
競売の開始が決まると、裁判所から競売開始決定通知が届きます。
この書類が届くと、5~6か月後には自宅が競売にかけられます。
売却までのタイムリミットが迫っているため、一刻も早く対処しなければなりません。
現況調査通知
現況調査の日程が決まると、その日付を通知する書面が送付されます。
現況調査とは、競売の売却基準価格を決めるために、裁判所の執行官が現地に赴いて物件の状態や占有関係を調べるものです。
現況調査通知が送付された時点で日程は決まっており、所有者の希望は考慮されません。
期間入札通知書
現況調査後、入札開始期日と終了期日を通知する期間入札通知書が送付されます。
送付されてから入札開始まで、通常あまり間がありません。
入札が始まると競売を回避することは難しくなります。
競売を回避するためには任意売却を検討しよう
住宅ローンの滞納にともなうさまざまな通知書を放置していると、競売の手続きがどんどん進行します。
競売は所有者にとって、以下のようにデメリットが多い売却方法です。
- 売却価格が安い
- 売却までのスケジュールは裁判所が決定する
- 家の引渡し日を調整できない
競売を回避するには、滞納の段階に応じて任意売却などの対策を早めに講じなければなりません。
任意売却とは
任意売却は、住宅ローンを滞納している場合に、担保になっている不動産を債権者の同意を得て不動産会社の仲介で売却することです。
競売と同時進行するため売却のタイムリミットは存在しますが、売却の流れは通常の不動産売却と同様です。
そのため、競売にはない多くのメリットがあります。
任意売却のメリット
競売と比べ、任意売却には以下のようなメリットがあります。
- 競売より高く売れる可能性が高い
- 買主との交渉で引渡しの日を調整できる
- 売却代金から引越し費用を捻出できることがある
- 他者に経済状況を知られない
住宅ローンを返済できる見込みがないときは、早めに任意売却を検討しましょう。
任意売却の注意事項
任意売却では、着手の早さが命運を分けるカギとなります。
売却活動を始めるのが遅ければ、競売開始までに売却できない場合や、希望どおりの価格での売却が叶わないことも考えられるためです。
不動産会社の仲介で中古住宅を売却する場合、早くても3か月はかかります。
しかし、実際は売却まで半年程度かかることも珍しくないため、競売までのスケジュールを確認し、いつまでに任意売却に着手すべきか整理しておきましょう。
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任意売却を成功させるためには
任意売却を成功させるには、任意売却の経験が豊富な不動産会社の助けが不可欠です。
任意売却を始めるには債権者の同意が必要です。
債権者によっては任意売却に乗り気でなく、なかなか同意が得られないことも珍しくありません。
こういったケースでは、不動産会社のサポートを受けた上で粘り強く交渉しましょう。
また任意売却は競売と同時に進行します。
そのため売却活動は競売までのタイムリミットを意識し、スピード感を持って取り組むことが大切です。
任意売却を成功させるためには、パートナーとなる不動産会社選びが非常に重要です。
任意売却の経験と実績の有無を選定基準にしましょう。
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まとめ
金融機関や裁判所から送付される通知書の放置は厳禁です。
早めに債権者に相談し、適切に対処することで自宅を失わずに済むこともあります。
競売の手続きが始まった場合も、タイムリミットまでに任意売却を完了させることで、デメリットの多い競売での売却を回避できます。
返済の目途が立たない場合は、金融機関と任意売却に強い不動産会社に早めに相談してみましょう。
(執筆者:いちはらまきを)