マンションの売却によって利益が発生した場合、確定申告をしなければなりません。
売却による利益や損失を正しく計算するためには、減価償却に対する理解が不可欠です。
減価償却という言葉を聞いたことがあっても、意味や計算方法をご存じない方も多いのではないでしょうか。
本記事では、マンションを売却する際の「減価償却費」について解説していきます。
遠鉄の不動産・浜松北ブロック長 影山 裕紀(かげやま ひろき)
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、ITパスポート
減価償却とは?
減価償却とは、建物の経年劣化によって低下したと考えられる価値を、費用として計上する会計処理です。
不動産や自動車、パソコンなどは、購入したときの価値を保っているわけではなく、年数が経過するごとに低下していきます。
事業を経営するために、不動産や自動車などを購入した場合、時間の経過によって消失したと考えられる価値を「減価償却費」として、毎年経費に計上していきます。
自宅用マンションも減価償却の対象
減価償却費を計算するのは、事業用のマンションを購入して賃貸経営をするときだけではありません。
自宅用のマンションを売却したときも、減価償却費を用いて利益や損失を計算します。
ただし減価償却の対象となるのは、建物部分のみです。
土地部分は、建物とは違って経年劣化しないため減価償却の対象とはなりません。
「減価償却費」はマンション売却後の確定申告で必要
確定申告とは、年間の所得と所得税それぞれの金額を計算して、所得税を納める手続きです。
確定申告の期限は、所得が発生した翌年の2月16日から3月15日です。
※ただし、新型コロナウイルス感染症の流行など、社会情勢次第で確定申告の期限が変動することがあります。
マンションの売却で得た所得を確定申告する場合、減価償却費を計算しなければなりません。
ここからは、確定申告が必要となるケースや、税額の計算方法を解説します。
マンション売却に確定申告が必要なケース
マンションの売却時に確定申告が必要となるのは、以下のケースです。
- 売却で利益が発生した場合
- 税の優遇制度を申請する場合
マンションの売却で利益(譲渡所得)を得ると、原則として所得税や住民税、復興特別所得税が発生するので、確定申告をしなければなりません。
※所得税(復興特別所得税)と住民税は、納税するタイミングが異なります。
ただしマンションの売却によって譲渡所得が発生しても、所定の要件を満たすと「軽減税率の特例」や「3,000万円特別控除」などの適用により税負担を軽減できます。
譲渡所得に対する税負担を軽減する制度を申請する際も、確定申告が必要です。
マンションの売却によって損失が発生した場合、確定申告は必須ではありません。
しかし確定申告をして、給与所得をはじめとした他の所得と、売却によって発生した損失を相殺することで、所得税や住民税の負担を軽減できる可能性があります。
「3,000万円特別控除」について知りたい方は、こちらの記事もご参照ください。
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マンション売却後の所得税額の計算方法
マンション売却後の所得税額計算は次の手順で行います。
①マンションを売却したときの譲渡所得額を計算
譲渡所得額=譲渡価額(マンションの売却代金+固定資産税・都市計画税精算金)-譲渡費用-取得費
②課税譲渡所得額を計算
課税譲渡所得額=譲渡所得額-特別控除額
③所得税・住民税などの税額を計算
税額(所得税・住民税など)=課税譲渡所得×税率
譲渡費用とは、仲介手数料や印紙税、登録免許税など、マンション売却時に支払った諸費用です。
特別控除額とは「3,000万円特別控除」をはじめとした、譲渡所得に対する税の優遇制度を指します。
税額を算出する際の税率は、以下の通り売却したマンションの所有期間によって異なります。
- 5年以下(短期譲渡所得):39.63%(所得税率30.63%+住民税率9%)
- 5年超(長期譲渡所得):20.315%(所得税率15.315%+住民税率5%)
※2037年(令和19年)までは、所得税額の2.1%が復興特別所得税として徴収されます。上記は、復興特別所得税を合算した税率です。
所有期間は、売却した年の1月1日時点で判断されます。
譲渡所得の金額が同じでも、所有期間5年以内でマンションを売却したほうが税率が高いため、所得税や住民税の額も高くなります。
「減価償却費」は取得費の算出に必要
マンション売却で発生した取得費は、購入代金から減価償却費を差し引いて算出されます。
具体的な計算式は、以下の通りです。
取得費=(マンションの購入代金-減価償却費)+取得にかかった経費
取得にかかった経費とは、印紙税や登録免許税、仲介手数料など、購入時に支払った諸費用です。
マンション売却後の減価償却費の計算方法
減価償却費は、多くの場合で「定額法」を用いて減価償却費を計算します。
定額法とは、建物購入価格に毎年一定額の減価償却費を計上する方法です。
定額法における減価償却費の計算方法は、以下の通りです。
減価償却費=マンションの建物購入代金 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
経過年数をかけるのは、購入から売却までの減価償却費の総額を算出するためです。
計算に必要な各項目について、詳しく見ていきましょう。
マンションの建物購入代金
マンションの建物購入代金とは、建物部分の購入にかかった代金であり、土地代は含まれません。
建物部分の購入代金は、マンションの売買契約書に記載されています。
売買契約書に建物価格の記載がない場合や、売買契約書を紛失してしまった場合などは、消費税をもとに計算する方法があります。
計算式は、以下の通りです。
建物購入代金=(消費税額÷消費税率)+消費税額
例えば消費税額60万円、消費税率が3%というケースの建物購入代金は「(60万円÷3%)+60万円=2,060万円となります。
マンションの購入価格が税込4,000万円であれば、土地代は4,000万円-2,060万円=1,940万円です。
償却率
償却率とは、1年で低下すると考えられる建物部分の価値です。
以下の通り、建物の構造に応じて決まります。
- 木造:0.031
- 木骨モルタル造:0.034
- 金属造(骨格材の肉厚4mm超):0.020
- 金属造(骨格材の肉厚3mm超4mm以下):0.025
- 金属造(骨格材の肉厚3mm以下):0.036
- れんが造、石造、またはブロック造:0.018
- 鉄骨鉄筋コンクリート造または鉄筋コンクリート造:0.015
※出典:国税庁「減価償却費の計算について」
経過年数
経過年数とは、マンションの購入から売却までの期間です。
経過年数のうち6か月以上の期間を1年として計算し、6か月未満の期間を切り捨てて、経過年数を計算します。
例えば、マンションを購入してから7年7か月後に売却すると、経過年数を8年として減価償却費を計算します。
マンション売却後の減価償却費シミュレーション
ここでは、マンションを売却したときの減価償却費と取得費をシミュレーションします。
条件は以下の通りです。
- マンションの購入代金:4,000万円(うち建物部分2,000万円)
- 経過年数:10年
- マンションの構造:鉄筋コンクリート造
- 購入時の諸費用額:280万円
鉄筋コンクリート造の償却率は0.015であるため、減価償却費を以下の計算式で算出します。
減価償却費=2,000万円 × 0.9 × 0.015 × 10年
=270万円
よってマンションを売却する際の取得費は、次に示す通りになります。
取得費=(マンションの購入代金-減価償却費)+取得にかかった経費
=(4,000万円-270万円)+280万円
=4,010万円
【まとめ】マンション売却後は減価償却費の計算が必要
マンションの売却時に譲渡所得が発生すると、確定申告をして所得税や住民税などを納めなければなりません。
譲渡所得に対する税の優遇制度を利用したり、売却の損失を他の所得と相殺したりする場合も確定申告が必要です。
確定申告をする際に、マンション売却の利益や損失を求めるときは、減価償却費を用いて取得費を計算しなければなりません。
譲渡所得や減価償却費、取得費の計算には不動産の専門知識が求められます。
減価償却費の計算方法が分からない方は、マンションの売却実績が豊富な不動産会社や税理士に相談すると良いでしょう。
(執筆者:品木彰)