確定申告とは、年間の所得の金額を確定して所得税を納める手続きです。
会社員や公務員などは、勤務先が給与から所得税を天引きして代わりに納めてくれているため、基本的に確定申告は必要ありません。
しかし土地を売却した場合は、確定申告が必要となるケースがあります。
本記事を読んでいただくと、土地を売却したときに確定申告が必要となるケースや申告方法、申告時の書類などがわかります。
遠鉄の不動産・中遠売買ブロック長 岸本 圭祐(きしもと けいすけ)
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、カラーコーディネーター、ファイナンシャルプランナー3級
土地を売却したら確定申告が必要?
土地を売却した場合、確定申告が必要となるケースと不要となるケースがあります。
具体的には、以下の通りです。
税金の特例を利用 | 確定申告の必要性 | |
土地の売却で利益が発生 | あり | 必要 |
なし | 必要 | |
土地の売却で損失が出た | あり | 必要 |
なし | 不要 |
土地の売却による利益とは、譲渡所得が発生している状態を指します。
譲渡所得とは?
譲渡所得は、不動産をはじめとした資産を譲渡・売却したときの所得であり、所得税や住民税の課税対象となります。
譲渡所得の対象となる資産は、土地や建物、株式、ゴルフ会員権などが一般的です。
譲渡所得の計算式は、以下の通りです。
譲渡所得額=譲渡価額−(譲渡費用+取得費)
※譲渡価額:土地の売却価格
※譲渡費用:仲介手数料や測量費、建物の取壊し費用などの諸経費
※取得費:土地の購入価格
譲渡所得がプラスの場合(譲渡益がある)
譲渡所得の計算結果がプラスであれば、譲渡所得に対する所得税を納めるために確定申告が必要です。
また「マイホーム(居住用財産)売却の特例(3000万円特別控除)」や「取得費加算の特例」など、譲渡所得を減額する特例を利用する場合も確定申告が必要となります。
譲渡所得がマイナスの場合(譲渡損失がある)
譲渡所得の計算結果がマイナスであり損失が発生した場合は、基本的に確定申告は不要です。
ただし損失が生じた場合に確定申告をすると、他の所得(給与所得・事業所得など)と相殺して所得税や住民税の負担を軽減できる可能性があります。
土地売却後の確定申告の必要書類
土地を売却して確定申告をする場合、以下の通り複数の書類を準備しなければなりません。
書類の名称 | 入手場所・入手方法 |
確定申告書B | 税務署または国税庁HP |
確定申告書第三表(分離課税用) | 税務署または国税庁HP |
確定申告書付表兼計算明細書(譲渡所得の内訳書) | 税務署または国税庁HP |
住民票(除票)の写し | 土地が所在する自治体の役所 |
土地を売却したときの売買契約書の写し | 売却時の不動産会社 |
土地を購入したときの売買契約書の写し | 購入時の不動産会社 |
>仲介手数料、印紙税などの領収書 | 随時 |
マイナンバーカードをはじめとした本人確認書類 | 自身で準備 |
譲渡益の特例を利用する場合
譲渡益が発生した場合、特例を利用することで税負担を軽減したり、課税を先送りにしたりできる場合があります。
税負担の軽減効果が期待できる特例は、以下のとおりです。
- 3000万円特別控除の特例
- 相続税の取得費加算の特例
- 所有期間が10年以上の場合の軽減税率の特例
- 特定の居住用財産の買換え特例
- 相続空き家の3000万円特別控除
それぞれの制度の特徴と、申請時に必要となる書類をみていきましょう。
3000万円特別控除の特例
3000万円特別控除は、所定の要件を満たすマイホームを売却した場合に、譲渡所得が3000万円まで非課税となる制度です。
売却する土地の上に、売主が居住していた住宅が建っていた場合、所定の要件を満たすと、3000万円特別控除の特例が利用できます。
3000万円特別控除は確定申告で申請しますが、追加で提出が必要な書類はありません。
書類の名称 | 入手方法 |
なし | – |
相続税の取得費加算の特例
取得費加算の特例とは、相続によって取得した土地を、相続から3年以内に売却した場合に利用できる制度です。
所定の要件を満たすと、譲渡所得を計算するときの取得費に、支払った相続税額を加えて譲渡所得の金額を減額できます。
取得費加算の特例を利用する際は「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」を添付する必要があります。
相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書は、他の確定申告書類と同じく税務署または国税庁のホームページで入手が可能です。
書類の名称 | 入手方法 |
相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書 | 国税庁HP |
所有期間が10年以上の場合の軽減税率の特例
土地を売却した場合の所得税や住民税は、譲渡所得に所定の税率をかけて計算します。
所有期間が10年以上の場合の軽減税率の特例は、売却した年の1月1日において土地の所有期間が10年以上であった場合に、譲渡所得に軽減税率が適用される制度です。
この特例を利用するためには、確定申告時に「土地の登記事項証明書」を添付する必要があります。
登記事項証明書は、法務局で入手が可能です。
書類の名称 | 入手方法 |
土地の登記事項証明書 | 法務局 |
特定の居住用財産の買換え特例を利用する場合
特定の居住用財産の買換え特例は、所有期間が10年を超えるマイホームを住み替えるときに、所定の要件を満たすと利用できる制度です。
譲渡所得に課される税金を、住み替え先の住居を将来譲渡した時まで先送りにできます。
(非課税となるわけではありません)
申請時の必要書類の例は、以下のとおりです。
書類の名称 | 入手方法 |
戸籍の附票など居住期間が10年以上であることを証明できる書類 | 市区町村 |
売却した土地の登記事項証明書 | 法務局 |
買い換えた資産の登記事項証明書 | 法務局 |
買い換えた資産の売買契約書の写し | 購入時の不動産会社 |
買い換えた資産が築25年を超える中古住宅の場合は以下のいずれか ・耐震基準適合証明書 ・建築住宅性能評価書の写し ・既存住宅売買瑕疵担保責任保険契約が締結されることを証明する書類 |
指定検査機関や保険会社など |
令和4年中に買換資産を取得する見込みの場合は「買換(代替)資産の明細書 | 税務署 |
上記の他にも、買換え先の資産の築年数や資産を取得するタイミングなどによっては、追加で添付書類が必要となる場合があります。
ただし登記事項証明書は「譲渡所得の特例の適用を受ける場合の不動産に係る不動産番号との明細書」を提出することで、添付を省略できます。
相続空き家の3000万円特別控除を利用する場合
相続空き家の3000万円特別控除は、相続によって取得した空き家を売却するときに利用できる制度です。
建物を壊して更地にして譲渡したときや、建物に耐震基準を満たす耐震リフォームを施して譲渡したとき、所定の要件を満たすと、譲渡所得の金額から最高3000万円まで特別控除します。(平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間)
控除を受けられるのは、亡くなった人(被相続人)が1人で住んでおり、昭和56年5月31日以前に建築された建物とその敷地を譲渡したときです。
相続空き家の3000万円特別控除を利用するときの必要書類は、以下のとおりです。
書類の名称 | 入手方法 |
被相続人居住用家屋及びその敷地等の登記事項証明書 | 法務局 |
売却した資産の所在地を管轄する市区町村長から交付を受けた「被相続人居住用家屋等確認書」 | 空き家の所在地の市町村役場 |
被相続人居住用家屋の譲渡がある場合には、耐震基準適合証明書または建設住宅性能評価書の写し | 建築事務所または指定検査機関 |
譲渡損失の特例を利用する場合
譲渡損失が発生したときに利用できる特約は、以下のとおりです。
- 居住用財産に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
- 居住用不動産の買換えに係る譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例
それぞれの制度の特徴と、申請時に必要となる書類をみていきましょう。
居住用財産に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
居住用財産に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例とは、譲渡損失が発生した場合に給与所得や事業所得などの他の所得と相殺できる制度です。
この特例を利用する際は、確定申告書の必要書類に加えて以下の書類を提出します。
書類の名称 | 入手方法 |
居住用財産の譲渡損失の金額の明細書《確定申告書付表》 | 国税庁HP |
居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書【措法41条の5用】 | 国税庁HP |
売却物件の登記事項証明書 | 法務局 |
売却物件の住宅借入金の残高証明書 | 借入をしている金融機関から郵送 |
居住用不動産の買換えに係る譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例
居住用不動産の買換えに係る譲渡損失の損益通算と繰越控除の特例とは、マイホームの買換え時に発生した損失を、給与所得や事業所得などの他の所得と相殺できる制度です。
申告に必要な書類は、以下の通りです。
書類の名称 | 入手方法 |
居住用財産の譲渡損失の金額の明細書《確定申告書付表》 | 国税庁HP |
居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書【措法41条の5用】 | 国税庁HP |
売却物件の登記事項証明書 | 法務局 |
買換え物件の登記事項証明書 | 法務局 |
買換資産に係る住宅借入金等の残高証明書 | 借入をしている金融機関から郵送 |
新しい住民票 | 買換え物件が所在する自治体の役所 |
土地売却後の確定申告はいつ行う?
確定申告は土地を売却した翌年の、2月15日から3月15日の間に行います。
確定申告の時期は、税務署が大変混み合います。
余裕をもって申告ができるよう、早めに申告書類の作成を開始しましょう。
必要書類を準備する際の注意点
土地を売却したときに特別控除や特例を適用できると、税負担を大幅に抑えられることがあります。
税額が数百万円単位で変わることもあるため、余分な税金を支払わないためにも土地の売却時に利用できる特別控除と特例を確認しましょう。
また確定申告には、期限があります。
期限をすぎてから確定申告をすると、加算税や延滞税といったペナルティを課せられることがあるため、必ず期限内に申告と納税を済ませましょう。
確定申告のやり方
ここでは、自分自身で記入が必要な確定申告書類や税額の計算方法を解説します。
必要書類を準備する
まずは、売買契約書をはじめとした確定申告に必要な書類を集めておきましょう。
申告に必要な書類がなければ、物件の所在地や売買契約日など、確定申告書の記載事項を記入できないためです。
また、会社員や公務員などが確定申告書を作成する際には「源泉徴収票」が必要です。
確定申告書Bに記載する給与所得やすでに勤務先が納めている所得税額などは、すべて源泉徴収票に書かれているためです。
なお源泉徴収票を、確定申告時に添付する必要はありません。
所得税を計算する
手書きで申告書類を作成する場合は、譲渡所得の金額や所得税額を自分自身で計算しなければなりません。
所得税額は、譲渡所得に売却したときの所有期間に応じた税率をかけて算出します。
税率は以下の通りです。
- 5年以下(短期譲渡所得):所得税率30.63%+住民税率9%
- 5年超(長期譲渡所得):所得税率15.315%+住民税率5%
※2037年(令和19年)までは、所得税額の2.1%が復興特別所得税として徴収されます。上記は、復興特別所得税を合算した税率です。
土地の所有期間が、売却した年の1月1日を基準に計算して5年以下であった場合、税率が高くなります。
なお所有期間が10年以上の場合の軽減税率の特例が適用されるケースでは、税率が以下の通りとなります。
- 6,000万円以下の部分:所得税率10.21%+住民税率4%
- 6,000万円超の部分:所得税率15.315%+住民税率5%
※上記税率には、復興特別所得税が含まれています。
必要な項目を記載する
譲渡所得の金額や所得税額が算出できたら、書類に記入していきます。
申告者自身が記入する書類は、以下の3点です。
- 確定申告書B
- 確定申告書第三表(分離課税用)
- 確定申告書付表兼計算明細書(譲渡所得の内訳書)
税務署や国税庁ホームページから入手した書類に手書きして作成する他にも「確定申告書作成コーナー」を利用する方法があります。
確定申告書作成コーナーでは、画面に表示された指示に従いながら必要項目を入力するだけで、インターネット上で確定申告書類の作成が可能です。
確定申告書の記載方法や確定申告書等作成コーナーの入力方法は、国税庁のHPにて具体的な事例とともに解説されているため、合わせてご確認ください。
申請書類を提出する
確定申告の方法は、以下の通りです。
- 確定申告書類を税務署に持参または郵送する
- e-Taxで電子申告をする
e-Taxを利用して申告書類の電子データを送信することで、税務署に持参したり郵送したりすることなく確定申告ができます。
ただしe-Taxを利用するためには、マイナンバーカードとそれを読み取る機器が必要です。
【まとめ】土地売却後は必要に応じて確定申告をしよう
土地を売却した場合は、基本的に確定申告をするものと考えておきましょう。
土地の売却によって利益(譲渡所得)が生じた場合は、確定申告をして所得税を納めなければなりません。
「3000万円の特別控除」や「取得費加算の特例」など、譲渡所得に対する税負担を軽減する制度を利用する際も確定申告が必要です。
また土地の売却で損失が発生した場合は、特例制度を利用して他の所得と相殺することで税負担を軽減できる可能性があります。
確定申告の方法や必要書類などが分からない方は、土地の売却時に不動産会社に相談するとよいでしょう。
(執筆者:品木 彰)