「家を親から相続したが住む予定がない」
自宅を売却したいと考える理由はさまざまです。
不動産の売却は「買取」と「仲介」の2種類があり、売主の事情や物件の状態により選び方も変わってきます。買取と仲介はどう違うのか、それぞれの特徴やメリット・デメリット、高く買い取ってもらうためのポイントについて解説します。
影山 裕紀(かげやま ひろき)
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、ITパスポート
仲介と買取の違いとは?
【仲介】
- 買主は個人
- 買主を探すための広告・販売期間が必要
【買取】
- 買主は不動産会社
- 買主を探す必要がないため広告・販売期間が不要
仲介による売却の流れ(買主は個人)
不動産会社はあくまでも「仲介」の立場であり、買主は個人となります。
- 売却相談・査定依頼
- 査定価格の提示
- 売却を依頼(媒介契約締結)
- 広告・販売期間
- 買受の申込
- 買受条件に合意後、不動産売買契約を締結
- 売買代金の決済及び、不動産の引き渡し
不動産会社は売主からの依頼を受け、不動産ポータルサイトやREINS(レインズ)と呼ばれる不動産流通システムなどを使って購入希望者を探します。
希望者が見つかれば、契約条件の折衝から契約、売買代金の決済、不動産の引き渡しまで責任を持ってサポートします。
買取による売却の流れ(買主は不動産会社)
不動産会社が売主から直接不動産を買い取ることを「買取」といい、不動産会社が買主となります。
- 売却相談・査定依頼
- 買取価格の提示
- 買取条件に合意後、不動産売買契約を締結
- 売買代金の決済及び不動産の引き渡し
不動産会社が買主なので「広告・販売期間」が必要ありません。
購入希望者を探す必要がなく、仲介と比べると売却までのプロセスがぐっと省略されます。
不動産買取のメリット
買取のメリットについて説明します。
内覧のストレスが少ない
買取の場合、内覧は不動産会社がおこなう査定時のみなので、不特定多数の人に家の中を見られる心配がありません。
しかし仲介で買主を探すときは、購入希望者ごとの内覧に対応する必要があります。
まだ入居中の段階で、他人に家の中をくまなくチェックされることをストレスと感じる人もいるでしょう。
仲介手数料が不要
買取の場合は不動産会社と直接売買をするため、仲介手数料は一切かかりません。
仲介手数料は取引価格ごとに上限額が定められていますが、比較的大きな金額です。
例えば3,000万円以上の物件は、消費税も含めた手数料が100万円を超える場合もあります。
スピーディーな売却が可能
買取では買主を探す必要がありません。
査定価格に合意すれば即買取可能なので、短期間で売却できます。
売却価格がすぐに決まれば、今後の資金計画も立てやすくなります。
他人に知られず売却できる
仲介のように広告活動をしないため、周囲に知られずに売却が可能です。
訳アリ物件でも売りやすい
古い物件や自殺や他殺、孤独死などがあった事件・事故物件の場合、買主探しは難航しがちです。
しかし一般的には売却が難しい物件でも、買取なら売却できる可能性が高くなります。
契約不適合責任の免責
買主が個人の場合、物件の引き渡しから一定期間内に起こった不動産の欠陥や不具合が、契約の内容に適合していなかった場合、売主負担で修復をする必要があります。
これを契約不適合責任といいます。
しかし買主が宅地建物取引業者である不動産会社の場合は、設備不良など踏まえた上での契約となります。
そのため売主の契約不適合責任は免責されるのです。
不動産買取のデメリット
メリットが多く感じる買取にも、デメリットがあります。
売却価格が安い
不動産会社は物件を修繕やリノベーションするなど、付加価値をつけた上で再販することを前提に買い取ります。
そのため買取では、売却価格が市場価格より2~3割ほど安くなります。
不動産によっては買取不可の場合も
擁壁が老朽化しているなど「再建築が不可能な不動産」だと認められた場合は、買取が難しいこともあります。
仲介と買取どちらを選ぶべき?
「仲介と買取、どちらがいいの?」と迷ったときのために、いくつか事例を紹介します。
買取がおすすめの場合
①とにかく早く売りたい
スピード重視の場合は買取がおすすめです。
仲介よりも売却価格は下がりますが、短期間でまとまった金額が手に入るため、今後の計画もスムーズに進みます。
②再建築不可の土地に建つ家
再建築不可の土地とは、建築基準法の接道義務(建物の敷地は道路に2m以上接している必要がある)を果たしていない土地のことです。
この場合は家の建て替えが法律上できないため、仲介では買主を見つけにくくなります。
③借地権付き建物
借地権付き建物の売却は、同時に「借地権」も売ることになります。
地主の借地権譲渡承諾が必要となり、仲介による売却は難しいケースが少なくありません。
仲介がおすすめの場合
①時間がかかっても希望額で売却したい
買取は売却価格が仲介よりも低くなってしまいます。
多少時間はかかっても希望額で取引したい場合は、仲介による売却がおすすめです。
②築古だが立地が良い物件
駅近など立地が良ければ、古い物件でも条件次第で買主は見つかります。
売却を急いでいないなら、高く売れる仲介がおすすめです。
③個性的な家
デザイナーズマンションや個性的な一戸建ては、一般的なニーズの対象から外れてしまう可能性があります。
独自性のある家に付加価値を見出せる買主を仲介で見つけたほうが、売却価格は高くなるでしょう。
不動産会社の選び方
不動産会社は買取を専門とする会社、仲介もおこなう会社などさまざまです。
それぞれに得意分野があるため、取引内容や実績などをチェックしておきましょう。
「即時買取」と「買取保証」について
不動産買取には「即時買取」と「買取保証」の2種類があり、一般的な買取は即時買取です。
買取保証の場合、一定期間、不動産会社が売主の希望額で買主を探します。
最終的に決まらなかった際は、約束していた価格で不動産会社が物件を買い取るシステムです。
買取専門会社は即時買取のみですが、仲介もおこなっている不動産会社では買取保証システムの利用も可能です。
買取か仲介か迷ったら、買取保証システムのある不動産会社に相談してみましょう。
高く買い取ってもらうためのコツ
買取価格は交渉可能です。
交渉のためにも不動産ポータルサイトや折込チラシに目を通し、周辺の価格相場を知ることが大切です。
不動産の一括査定サイトなどを利用し、売却したい不動産の簡易査定をおこないましょう。
国土交通省の「土地総合情報システム」で、実際の土地売買の事例や取引価格などを確認することもおすすめです。
査定は必ず複数の不動産会社に依頼をして査定額を比較しましょう。
不動産買取にまつわるQ&A
買取のよくある疑問についてまとめました。
査定は無料?
基本的に無料です。
ただし測量図面がなく面積が明確でない場合、別途測量費がかかるケースもあります。
住宅ローンがまだ残っているが?
ローンが未完済でも買取は可能です。
売却金額から残債を相殺しますが、不足が出たときは不足分を現金で支払う必要があります。
亡くなった親名義の家は売却できる?
登記上の所有者が親のままでは売却できないため、相続手続きを済ませる必要があります。
相続人が売主となれば売却は可能なので、まずは不動産会社に相談してみましょう。
古い設備の修繕は必要?
買取の場合は修繕箇所などすべて込みで査定をするため、売主が修繕などをする必要はありません。
まとめ
不動産売却の際は、それぞれの事情にあった方法で取引することが大切です。
「できるだけ早く売りたい」「希望額で売却したい」などのほか、立地条件なども検討し、買取か仲介かを検討するとよいでしょう。
迷ったときはプロである不動産会社に相談することをおすすめします。
(執筆者:茶谷 利津子)