住宅を購入する方の多くが、住宅ローンを組みます。
住宅ローンを組んだ場合、土地や建物に抵当権を設定するのが一般的です。
抵当権は、金融機関が住宅を差し押さえできる権利です。
住宅ローンを利用する場合、抵当権について理解しておかなければ、最悪の場合マイホームを失ってしまうかもしれません。
本記事では、抵当権の内容や登記手続きにかかる費用、抵当権の抹消が必要なケースなどをわかりやすく解説します。
遠鉄の不動産・浜松北ブロック長 影山 裕紀(かげやま ひろき)
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、3級ファイナンシャル・プランニング技能士、ITパスポート
抵当権とは?
抵当権とは、住宅ローンを借入れた人が返済を滞らせたときに備えて、金融機関が設定する権利です。
抵当権が設定された土地や建物は、担保となります。
住宅ローンの返済が長期間にわたって滞った場合、金融機関は融資したお金を取り戻すために、担保となっている物件を差し押さえて競売にかけます。
住宅ローンを借り入れて不動産を購入するときは、保証会社に保証人になってもらうのが一般的です。
万一、住宅ローンの返済ができなくなった場合、保証会社は融資した金融機関に借入金を一括返済(代位弁済)します。
代位弁済が行われたあと、保証会社は住宅ローンを滞納した人に対して、借入金の一括返済を求めます。
一括返済に応じられない場合は、保証会社が担保になっている土地と建物を差し押さえて競売にかけ、売却代金で借入金を回収する仕組みです。
なお住宅ローンのような抵当権が付くローンを「有担保ローン」といい、自動車ローンや教育ローンなど抵当権がつかないローンを「無担保ローン」といいます。
抵当権の登記手続き
抵当権を設定する際には「抵当権設定登記」をしなければなりません。
また住宅ローンを完済したときは「抵当権抹消登記」が必要です。
抵当権に関する登記をする際には、費用がかかります
抵当権登記にかかる費用
抵当権の登記にかかる費用は、主に以下の4種類です。
- 登録免許税
- 印紙税
- 司法書士への報酬
- 必要書類の発行費用
それぞれについて解説していきます。
登録免許税
登録免許税とは、不動産登記をする際に支払う税金です。
税額は、抵当権の設定と抹消で以下のとおり異なります。
- 抵当権設定登記:借入金額×0.1%
※軽減税率適用後 - 抵当権抹消登記:不動産1個につき1,000円
抵当権設定登記については、 自己居住用で床面積が50㎡以上、取得後1年以内に登記するなどの要件を満たすと軽減税率が適用されます。
なお軽減税率が適用されるのは、2022年(令和4年)3月31日までです。
抵当権抹消登記の登録免許税は、土地と建物それぞれで支払う必要があるため、税額は合計で2,000円となります。
印紙税
印紙税とは、住宅ローンを借入れる契約書(金銭消費貸借契約書)に収入印紙を添付して収める税金です。
印紙税額は、以下のとおり住宅ローンの融資額に応じて決まります。
契約金額(住宅ローンの融資額) | 本則税率 |
10万円超 50万円以下 | 400円 |
50万円超 100万円 | 1,000円 |
100万円超 500万円以下 | 2,000円 |
500万円超 1,000万円以下 | 10,000円 |
1,000万円超 5,000万円以下 | 20,000円 |
5,000万円超 1億円以下 | 60,000円 |
1億円超 5億円以下 | 100,000円 |
5億円超 10億円以下 | 200,000円 |
10億円超 50億円以下 | 400,000円 |
50億円超 | 600,000円 |
※出典:国税庁「不動産売買契約書の印紙税の軽減措置」をもとに作成
なお住宅を売買する際も、売買契約書に収入印紙を貼付して印紙税を支払わなければなりません。
売買契約書に添付する印紙税には、軽減税率が適用されます。
しかし金銭消費貸借契約書に添付する印紙税に、軽減税率は適用されません。
司法書士への報酬
抵当権設定登記や抵当権抹消登記は、住宅ローンを借入れた人自身で行えます。
しかし不動産登記の手続きは、法律の知識が必要であるため、多くの方が報酬を支払って司法書士へ依頼します。
司法書士に登記を依頼する場合の報酬は、数万〜数十万円が相場です。
また報酬とは別に、交通費用や出張費用などの実費を請求される場合があります。
司法書士への報酬は、登録免許税とまとめて支払うのが一般的であるため、必ず内訳を確認しておきましょう。
必要書類の発行費用
抵当権設定登記の際には、 抵当権を設定する人の印鑑証明書が必要です。
印鑑証明書の発行手数料は、市町村役場の窓口または郵送の場合は1通につき300円、 コンビニで請求した場合は1通200円です。
抵当権が設定されている不動産を売却する場合
「住宅ローンを返済していくのが苦しくなった」「新しい家に住み替えたい」などの理由で、住宅ローンが残っている不動産を売却する方は珍しくありません。
住宅を売却する場合、 基本的に住宅ローンを完済して抵当権を抹消する必要があります。
もし返済が苦しくなり、住宅ローンを完済できず抵当権を抹消できない場合は、早急に対策をしなければ住宅が競売にかけられてしまいます。
抵当権の抹消が必要
住宅ローンを完済して抵当権を抹消しなければ、基本的に買い手は見つかりません。
厳密にいえば、抵当権が設定されたままの物件であっても売却することは可能です。
しかし抵当権が残った物件を購入した人は、前の家主が住宅ローンの残債を返済できなくなったときに、物件が差し押さえられるリスクを抱えることになります。
自分自身の意思や行動とは関係のない理由で、失ってしまうリスクのある物件を購入したいと思う人はいないため、売却時に抵当権の末梢が必要なのです。
抵当権の抹消ができない場合は?
住宅ローンの返済が滞りながらも、抵当権を抹消できない場合、いずれは金融機関に物件を差し押さえられて競売にかけられてしまいます。
物件が競売にかけられた場合、相場の7割程度の売却価格となるのが一般的です。
もし競売で得た売却金で借入金を回収しきれない場合、金融機関は借主に対して残額の一括返済を求めます。
毎月の返済すら難しい状況であるにもかかわらず、残額の一括返済を求められても返済は困難でしょう。
そのため物件を競売にかけられた人の中には、自己破産を選択する人もいます。
任意売却の検討を
住宅ローンの返済が困難であるときに検討したいのが「任意売却」です。
任意売却とは、金融機関の承諾を得て不動産を売却する方法です。
任意売却ができると、相場とほぼ同等の価格で売却できる可能性があります。
また任意売却後に残債が発生した場合は、無理のない範囲で返済計画を組んでもらえることがあるため、自己破産をせずに済む可能性が高まります。
任意売却ができるのは、競売が開札されるまでです。
金融機関との交渉も必要であるため、住宅ローンの返済が苦しい場合は、早めに不動産会社に相談しましょう。
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抵当権のついている不動産は相続できる?
抵当権のついている不動産の相続は可能です。
住宅ローンが完済されている場合は、住宅を相続した人が抵当権抹消登記をする必要があります。
一方で住宅ローンが残っており抵当権がついている不動産を相続した場合、相続した人が引き続き返済していかなければなりません。
なお亡くなった人が団体信用生命保険に加入していた場合、保険金で住宅ローンが完済されるため、相続人の返済義務はなくなります。
相続放棄を選択するのも方法
財産を相続する方法には、以下の3種類があります。
- 単純承認:遺産のすべてを引き継ぐ
- 限定承認:遺産のうちプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ
- 相続放棄:遺産の相続を放棄する
限定承認や相続放棄をする場合は、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所で所定の手続きをしなければなりません。
借金やローンなどマイナスの遺産のほうが多いとわかっている場合は、相続放棄を選択すると返済義務を負わずに済みます。
一方で、相続税の申告期限は相続の開始を知った日から10か月以内であるため、プラスとマイナスどちらの遺産が多いかわからない状況で選択を迫られる可能性があります。
そこでプラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いかわからない場合は、限定承認の選択が有効です。
もし限定承認を選択したあとに、プラスの財産の方がマイナスの財産より多いとわかった場合、財産のすべてを引き継げるためです。
【まとめ】抵当権はローンを組む際の担保
住宅ローンを組むと抵当権が設定されるため、返済が長期間にわたって滞った場合、 担保となっている土地や建物を金融機関に差し押さえられてしまいます。
抵当権を設定する際には、抵当権設定登記、住宅ローンを完済した場合は、抵当権抹消登記が必要です。
抵当権に関する登記をする際、登録免許税や司法書士への報酬などの費用を支払う必要があります。
住宅ローンを組む場合は、抵当権に対する理解が不可欠です。
不明な点がある場合は、不動産会社や金融機関に質問し、抵当権の理解を深めたうえで住宅ローンを組みましょう。
(執筆者:品木 彰)