不動産は、第三者ではなく親や子どもなどの親族に売却することも可能です。
ただし親族間で不動産の売買をする際は、想定外の税金が発生しないように相場をもとに価格を適切に設定することが大切です。
本記事では、親族間売買をするメリットや適正価格の調べ方、注意点などをわかりやすく解説します。
遠鉄の不動産・浜松北ブロック長 恒吉 俊哉(つねよし しゅんや)
宅地建物取引士
親族間売買とは
親族間売買は、両親や子どもなどの親族のあいだで不動産を売買することです。
本来であれば親族は、民法上では「3親等以内の姻族」「6親等以内の血族」「配偶者」と定められています。
一方で親族間売買の場合、明確な定義はありませんが不動産の所有者とその相続人のあいだで行われるケースが多いです。
親族間売買の3つのメリット
親族間売買をする主なメリットは、以下の3点です。
- 家を完全に手放さなくて済む
- 買主を探す手間を省ける
- 売却の条件を柔軟に決められる
家を完全に手放さなくて済む
長い間住んできた自宅を売却する場合、買主が他人であると手放すことをためらってしまうかもしれません。
その点、親族間売買であれば、思い出が詰まった自宅を親や子どもなどに売却して引き続き住んでもらうことで、完全に手放さずに済むため、売却の意思を固めやすいでしょう。
買主を探す手間を省ける
不動産を売却するときは、不動産会社に買主を探してもらうのが一般的です。
買主が見つかり売買契約が成立したときは、不動産会社に仲介手数料を支払わなければなりません。
親族間売買の場合、不動産を買ってくれる人を親族のなかから探せば良いため、不動産会社に仲介を依頼することは基本的にはなく、仲介手数料の支払いも不要です。
売却の条件を柔軟に決められる
一般的な不動産売買では、売買価格や引き渡しの時期などを売主と買主で相談をして決めなければなりません。
また契約時に手付金を支払い、引き渡し時に残代金を精算するケースがほとんどです。
親族間で不動産の売買が行われる場合、売買価格や引き渡し日、手付金の有無などの条件を柔軟に決めやすいでしょう。
親族間売買をする際の注意点
親族間売買をする際は、以下の点に注意をしましょう。
- みなし贈与となる可能性がある
- 住宅ローンの審査が厳しい傾向にある
- 税金の控除や特例が使えない場合がある
みなし贈与となる可能性がある
相場よりも著しく低い金額で売却すると「みなし贈与」として贈与税の課税対象になる恐れがあります。
みなし贈与であると税務署に判断されると、取得した不動産の評価額とその他の財産の贈与額が年間で合計110万円を超えた場合に贈与税を納めなければなりません。
そのため親族間売買をするときは、税理士や最寄りの税務署にも相談のうえ、相場よりも著しく低い価格に設定しないように注意しましょう。
住宅ローンの審査が厳しい傾向にある
親族間売買の場合は、住宅ローン審査が厳しくなりやすいです。
親族間売買を偽装し、投資や事業資金など住宅の購入とはべつの目的で融資したお金が使われる可能性があると考える金融機関があるためです。
金融機関によっては、親族間で不動産取引に対してまったく融資しないこともあります。
税金の控除や特例が使えない場合がある
不動産の売買では、特例や減税制度を利用して税負担を軽減できる場合があります。
しかし親族間の不動産取引では、制度の一部が対象外となっています。
親族間売買が原則として対象外である制度の例は、以下のとおりです。
制度の対象となる人 | 特例・控除 |
売主 | ・居住用財産を譲渡した場合の3000万円の特別控除の特例
・マイホームを売ったときの軽減税率の特例 ・特定の居住用財産の買換えの特例 ・特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例 |
買主 | ・直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税特例 |
また住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)については、住宅を取得したときや取得したあとに生計をともにしない親族などから住宅を取得すると対象外となります。
親族間売買をするときの適正価格の調べ方
不動産の価格相場は、不動産会社の査定や不動産ポータルサイトを利用すると無料で調べることができます。
より適正な価格を知りたいのであれば、費用はかかりますが不動産鑑定士に鑑定を依頼するのも方法です。
また税理士や税務署に、みなし贈与とならない売却価格を相談するのも有効です。
さまざまな方法で不動産の価格相場を調べて適切に売却価格を設定しましょう。
親族間売買の流れ
親族間売買をするときの流れは、一般的に以下のとおりです。
- 不動産の現状を把握する
- 不動産売買の条件を決める
- 売却契約を結ぶ
不動産の売買をする前に、価格相場を調べるとともに、法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を取得して不動産の所有者や権利関係などを確認しましょう。
不動産の状況や価格相場を確認したあとは「売却後に発覚した不備の責任を取る人」や「決済・引き渡し日」「契約解除となる事項」などの条件を決めます。
買主と売主の双方が売買条件に合意したあとは、売買契約を結びます。
その後、代金の決済と引き渡しをし、不動産の名義変更手続き(所有権移転登記)を行うという流れです。
ローンを利用しない場合は、契約の締結と決済・引き渡しを同じ日に行うのが一般的です。
ローンを利用する場合は、不動産の売買契約を結んだあと金融機関の本審査に通過して融資条件に合意したあと、改めて残金の決済と引き渡しを行います。
また不動産の名義変更は決済・引き渡しと同日に行わなければなりません。
親族間売買をする際にかかる諸費用
親族間売買をする際も、税金や手数料等の諸費用を支払わなければなりません。ここでは不動産売買をする際の諸費用を見ていきましょう。
売却する側の諸費用
不動産を売却する側は、以下の諸費用を支払う必要があります。
金額の目安 | |
印紙税 | 一般的に1万〜3万円
※売買契約書に記載された金額に応じて決まる |
抵当権抹消費用 | 登録免許税:不動産1個につき1,000円(土地と建物で2,000円)
司法書士への報酬:一般的に5万〜10万円 |
所得税(譲渡所得税)・住民税 | 売却益や所有期間などで異なる |
登記事項証明書の取得手数料 | ・窓口:600円
・オンライン請求(郵送受取):500円 ・オンライン請求(最寄りの登記所など):480円 |
上記の他にも、住民票の費用や住宅ローンの一括返済手数料などがかかる場合があります。
購入する側の諸費用
購入する側が支払う諸費用の例は、以下のとおりです。
金額の目安 | |
印紙税 | 売買契約書:一般的に1万〜3万円
※売買契約書に記載された金額に応じて決まる
住宅ローン契約書:一般的に2万〜6万円 ※金銭消費貸借契約書に記載された金額に応じて決まる |
登記費用 | 所有権移転登記の登録免許税:固定資産税評価額×0.1〜0.3%
※2024年(令和6年)3月31日までの軽減措置を適用した場合 抵当権設定登記の登録免許税:債権価格(借入金額)×0.1% ※2024年(令和6年)3月31日までの軽減措置を適用した場合 司法書士への報酬:一般的に5万〜10万円 |
不動産取得税 | 土地:固定資産税評価額 × 1/2 × 税率(原則3%)
建物:(固定資産税評価額−控除額)× 税率(原則3%) ※上記の税率は2024年(令和6年)3月31日までに不動産を取得した場合 ※土地の固定資産税評価額に2分の1が乗じられるのは2024年(令和6年)3月31日まで |
固定資産税評価額とは、実際の取引価格ではなく自治体が管理する固定資産課税台帳に記載された金額です。
他にも住宅ローンを借り入れる場合は、事務手数料や印紙税などの費用がかかります。
親族間売買におけるポイント
最後に親族間売買の失敗を防ぐために知っておきたいポイントをみていきましょう。
専門家の協力を得る
不動産の売買に関する手続きは個人でもできますが、法律や不動産の専門知識が必要となるため、 失敗したり想定よりも時間がかかったりする可能性があります。
親族間で不動産の取引をする場合は、無理をせず必要に応じて専門家に協力してもらうと良いでしょう。
例えば売買の準備や手続きなどは、不動産会社にサポートを依頼する方法があります。
抵当権抹消登記や所有権移転登記などは、司法書士に代行してもらうとスムーズです。
売却前に親族の同意を得る
親族間売買をする際は、売主や買主ではない親族の合意を事前に得ておくのが望ましいでしょう。
当事者だけで不動産の売買を決めてしまうと、トラブルに発展する可能性があるためです。
例えば相続が発生したときに、不動産を売却して得られた売却金を平等に分けられると思っていた相続人から「生前に売却されていたとは聞いていない」と言われるかもしれません。
当事者だけでなく、相続人の全員と話し合いをして了承を得たうえで売買契約を結ぶことでトラブルを防ぎやすくなります。
【まとめ】親族間売買をする際も専門家にサポートを依頼しよう
親族間売買では、売却価格や引渡し時期などの条件をある程度柔軟に決めることができます。
また不動産会社に買主を探してもらわずに済む場合、仲介手数料もかかりません。
一方で売却価格が相場よりも著しく安いと、みなし贈与と判断されて贈与税の課税対象になる可能性があるため、事前に不動産の価格相場を調べておきましょう。
価格を決めるときは、不動産会社に査定を依頼したり税務署または税理士に相談したりすると安心です。
専門家にサポートを依頼することで、売買契約をよりスムーズに進められるでしょう。
(執筆者:品木 彰)