大雨や台風などが発生したときに、浸水の被害が想定されるエリアのことを「浸水想定区域」といいます。
売却予定の家が浸水想定区域にあると「売却価格が安くなってしまうのでは?」という不安を抱えている人は少なくありません。
本記事では、浸水想定区域にある家が売却しにくいかどうかや、高値で売却するときのポイントなどをわかりやすく解説します。
遠鉄の不動産・浜松北ブロック長 恒吉 俊哉(つねよし しゅんや)
宅地建物取引士
浸水想定区域の基礎知識
浸水想定区域とは、大雨や台風、ゲリラ豪雨などが発生したとき、河川の氾濫や堤防では防ぎきれないような高潮などで浸水が想定されるエリアのことです。
浸水想定区域には3種類ある
浸水想定区域には「洪水浸水想定区域」「内水浸水想定区域」「高潮浸水想定区域」の3種類があります。
洪水浸水想定区域
洪水浸水想定区域とは、大雨や豪雨などが発生すると、河川が氾濫して浸水する恐れがある区域です。
単に浸水想定区域という場合は、一般的に洪水浸水想定区域を指します。
想定できる最大の雨量の雨が降ることで河川が氾濫し、洪水の被害がもたらされる恐れがあるエリアは、洪水浸水想定区域に指定されています。
家が洪水浸水想定区域にあるかどうかは、自治体が作成している「洪水ハザードマップ」で確認が可能です。
洪水ハザードマップには、浸水が想定される区域だけでなく予想される浸水被害や、避難場所、避難経路なども記載されています。
内水浸水想定区域
内水浸水想定区域とは、大雨や豪雨などで下水道排水施設の処理能力を超えて「内水」が発生した場合に、浸水が想定される区域です。
内水は、下水道から河川や海に雨水を排除できないほどの雨が降り、マンホールなどから雨水があふれる現象のことです。
洪水よりも浸水の深さ(浸水深)は浅い代わりに、発生頻度は多くなります。
高潮浸水想定区域
高潮浸水想定区域とは、想定される最大規模の高潮が発生して、海岸や河川が氾濫したときに浸水が想定される区域です。
高潮は、強風や気圧の低下などで海水面が上昇し、大きな波をともなって陸地へ押し寄せる現象のことです。
想定される最大規模とは、過去に発生したなかでも特に規模の大きな台風が、最大規模の高潮を発生させる経路を通過し、堤防も決壊するような最悪の事態を指します。
浸水想定区域であることは重要事項説明の対象項目
2019年(令和元年)7月に宅地建物取引業法が改正され、売買契約時に行う重要事項説明で水害リスクについての説明が義務づけられました。
重要事項説明とは、購入を予定している物件に関わる重要な事項について、宅地建物取引士の資格を持った人が重要事項説明書を交付し、口頭でも内容を説明することです。
売却する家が浸水想定区域に入っている場合、売買契約を結ぶときの重要事項説明で、そのことを買主に伝える必要があります。
浸水想定区域にある家の売却価格は安くなる?
続いて家が浸水想定区域にあると、売却価格が相場よりも安くなるのかどうかを解説します。
売却価格は基本的に下がらない
家が浸水想定区域にあるだけでは、原則として売却価格は下がりません。
不動産の価値は、不動産鑑定士が所定の評価基準にもとづいて評価をします。
価値を評価する際、台風や豪雨などで浸水被害に遭うリスクは最初から加味されています。
そのため家が浸水想定区域にあることが、売却価格を下げる要因とはならないのです。
実際に浸水被害に遭っていると売却価格は下がりやすい
ただし、家が一度でも浸水被害に遭っている場合は、売却価格は浸水被害に遭っていない家と比較して20〜30%ほど安くなることがあります。
売却価格が安くなる傾向にあるのは、購入希望者が「将来的に浸水被害に遭うのではないか」と懸念をし、家の購入をためらいやすいためです。
また浸水被害で建物が損傷していた場合や 、梁・柱といった躯体部分の木材が腐食していた場合、売却価格はさらに下がってしまうでしょう。
被害に遭う確率や想定される被害が価格に影響することも
家が過去に浸水被害に遭っていなくても、想定される浸水被害の規模が大きいエリアにある場合や、浸水被害に遭う確率が高い場合は、売却価格が下がることがあります。
家を売却するときは、想定される浸水被害や被害の遭いやすさなどを必ず確認しましょう。
想定される浸水被害は「浸水ナビ」で調べられる
家があるエリアで想定される浸水被害を知りたいときは、国土交通省が提供する「浸水ナビ(地点別浸水シミュレーション検索システム)」の活用がおすすめです。
浸水ナビでは、エリアや河川名を選択すると時間の変化にともなう水位の変化をアニメーションで確認することができます。
家を売却するときは、事前に浸水ナビを利用して想定される浸水被害を確認しておくと良いでしょう。
ただし中には浸水被害のシミュレーションができない地域もあります。
浸水想定区域にある家をスムーズに売却するポイント
浸水想定区域にある家をできるだけスムーズに売却するときのポイントは、以下のとおりです。
- 浸水被害に遭う前に売却する
- ホームインスペクションを実施してから売却する
- 不動産買取業者に買い取ってもらう
- 売却実績が豊富な不動産会社に相談する
浸水被害に遭う前に売却する
家が浸水想定区域に建っていたとしても、浸水被害に遭っていないのであれば相場に近い価格で売却できるでしょう。
しかし、一度でも浸水被害に遭ってしまうと、その事実が消えることはありません。
また建物は一般的に築年数が浅いほど高値で売却できます。
家を少しでも高値で売却したいのであれば、浸水の被害に遭う前に売却活動を始めると良いでしょう。
ホームインスペクションを実施してから売却する
ホームインスペクションとは、住宅の専門知識を持ったプロが劣化状況や欠陥の有無などを診断してくれるサービスのことです。
必要に応じてメンテナンスをしたほうが良い箇所や、リフォームすると良いタイミングなどをアドバイスしてもらえます。
過去に家が浸水被害に遭ったとしても、ホームインスペクションによって建物に欠陥がないことが証明されているのであれば、買主は安心して購入できるでしょう。
また売買契約書に記載されていない欠陥が家の売却後に見つかり、買主から修理費用の支払いや代金の減額などを請求されるリスクも抑えられます。
ホームインスペクションを実施すると5万〜10万円ほどの費用がかかりますが、支払った金額以上のメリットが見込めるのであれば実施することをおすすめします。
不動産買取業者に買い取ってもらう
家をスムーズに売却したいのであれば、不動産買取業者に買い取ってもらうのもひとつの方法です。
不動産会社による仲介では売却しにくい家であっても、買い取ってくれることがあります。
ただし業者に買い取ってもらう場合、買取価格が相場の7割程度になってしまいます。
そのため浸水想定区域にある家に限らず、不動産を売却するときは、まず不動産会社による仲介を検討することが大切です。
売却実績が豊富な不動産会社に相談する
不動産会社によって、担当者の実力や売却のノウハウなどが大きく異なります。
家を高値で売却したいのであれば、売却実績が豊富な不動産会社に依頼をすると良いでしょう。
不動産会社の売却実績は、ホームページで確認できます。
また複数の不動産会社に家を査定してもらい、査定結果や算出根拠、販売戦略などを聞いて比較するのも有効です。
売却が得意な不動産会社ほど、査定結果の算出根拠が明確であるだけでなく、売却までの道筋をわかりやすく提案してくれます。
【まとめ】浸水想定区域にある家の売却は不動産会社に相談しよう
浸水想定区域にあるからといって、家の売却価格が相場よりも下がるとは限りません。
ただし過去に浸水被害に遭ったことがある家や想定される浸水被害が大きい家は、売却価格が下がる可能性があります。
そのため家が浸水想定区域にある場合、浸水の被害に遭う前に売却すると良いでしょう。
必要に応じてホームインスペクションを実施することで、売却価格の下落を防げる可能性があります。
また売却実績が豊富な不動産会社にサポートを依頼することで、さらに高値で売却できる可能性が高まります。
査定結果や算出根拠、提示された販売戦略などをもとに信頼できる不動産会社を選び、家の売却を依頼しましょう。
(執筆者:品木 彰)