「親が所有していた不動産を兄弟の共有名義で相続した」「夫婦の共同名義でマイホームを購入した」などの事情で、不動産が共有名義になることがあります。
共有名義の不動産でも売却は可能ですが、単独名義の不動産と比較して手間や時間がかかりやすいです。
本記事では、共有名義の不動産を売却する方法や売却時の流れ、トラブルを防ぐポイントをわかりやすく解説します。
遠鉄の不動産・浜松ブロック長
石岡 靖雅(いしおか やすまさ)
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、相続支援コンサルタント、家族信託コーディネーター、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
共有名義の不動産は売却できる?
共有名義の不動産とは、2人以上の所有者がいる不動産のことです。
不動産を共有している人(共有者)は、共有持分に応じて不動産を所有しています。
単独所有の不動産では所有者の独断で売却やリフォームなどを行えますが、共有名義の場合は共有者から一定数の同意を得なければなりません。
共有名義の不動産を売却する場合、主な選択肢は以下の4つです。
- 共有者の同意を得て売却する
- 自分の共有持分のみを売却する
- 持分割合に応じて分筆して売却する
- リースバックを利用する
1.共有者の同意を得て売却する
共有名義の不動産は、共有者全員の同意があれば売却することができます。
不動産を売却して得られたお金は、共有者間で分配するのが一般的です。
ただし売却に同意しない共有者が1人でもいる場合、共有名義の不動産は売却できません。
2.自分の共有持分のみを売却する
共有名義の不動産が土地であれば、他の共有者や買取業者などに自分自身の共有持分を売却できます。
共有持分のみを売却するのであれば、基本的に他の共有者から同意を得る必要はありません。
3.持分割合に応じて分筆して売却する
土地が共有状態にある場合は、持分割合に応じて「分筆」したうえで売却するのもひとつの方法です。
分筆とは、登記簿上ではひとつである土地を、複数の土地に分割して登記し直す手続きのことです。
分筆したあとの土地は、それぞれの所有者が自由に売却できます。
ただし分筆をするときは、土地の測量や所有権移転登記に手間や時間、費用がかかります。
4.リースバックを利用する
共有状態の建物に共有者が住んでいるときは「リースバック」を利用する方法があります。
リースバックは、不動産を売却した不動産会社と賃貸契約を結ぶことで、家賃を支払って引き続き住み続けられるサービスです。
リースバックであれば、不動産の売却時に引越しをする必要がありません。
一方でリースバックには「賃料が相場よりも割高」「売却金額が相場よりも割安」などの注意点もあります。
共有名義の不動産を売却する流れ
共有名義の不動産を売却する流れは、一般的に以下のとおりです。
- 共有者が誰なのかを把握する
- 売却に必要な書類を集める
- 売却時の税金や残債を負担する人を決める
- 不動産会社に査定を依頼する
- 売り出し価格を決めて売却活動を始める
- 不動産売買契約を結ぶ
- 確定申告をする
1.共有者が誰なのかを把握する
不動産を売却するには、共有者全員の同意が必要なため、売却後に新たな共有者が発覚すると手続きがやり直しになる可能性があります。
特に相続を繰り返している不動産は、共有者の数が多く権利関係が複雑になっているかもしれません。
不動産を売却する前に法務局で登記事項証明書を取得し、共有者を確認し、全員から同意を得るようにしましょう。
2.売却に必要な書類を集める
続いて売却時に必要となる以下の書類を集めます。
- 登記識別情報(登記済権利証)
- 地積測量図・境界確認書
- 実印
- 印鑑証明書
- 身分証明書
- 住民票
登記識別情報は、不動産の登記が完了したときに登記人に交付されます。
不動産の所有者であることを証明する書類であるため、売却時に必須となります。
土地や戸建住宅を売却するときは、土地の面積を示す「地積測量図」や、隣地との境界を示す「境界確認書」が必要です。
地積測量図や境界確認書が見当たらない場合は、土地家屋調査士に作成を依頼します。
3.売却時の税金や残債を負担する人を決める
不動産を売却するときは、不動産会社に支払う仲介手数料や売買契約書に貼り付ける収入印紙代などの諸費用がかかります。
また住宅ローンの残債がある場合は、原則として売却時に一括返済をしなければなりません。
共有名義の不動産を売却するときは、売却時の諸費用や住宅ローンの残債を共有者でどのように負担するのかを決めましょう。
4.不動産会社に査定を依頼する
不動産を売却するときは、不動産会社に物件の価格を査定してもらうのが一般的です。
複数の不動産会社に査定を依頼することで、物件の価格相場を把握しやすくなります。
また買主探しをサポートしてもらう不動産会社を選ぶうえでも査定は重要です。
査定結果の根拠や売却の戦略などをわかりやすく解説してくれる不動産会社ほど、売却が得意な傾向にあります。
複数の不動産会社の話を聞き比べて、信頼できる依頼先を探しましょう。
5.売り出し価格を決めて売却活動を始める
買主探しをサポートしてもらう不動産会社が決まったあとは、周辺にある物件の価格相場をもとに売り出し価格を設定します。
売り出し価格は、希望する売却価格よりも1割ほど高く設定すると良いでしょう。
不動産の購入希望者から値下げ交渉を持ちかけられたとしても、希望売却価格を下回りにくくなります。
6.不動産売買契約を結ぶ
買主が見つかり、売買条件の合意を得られたあとは、不動産売買契約を締結します。
不動産が共有名義である場合、売買契約の締結や不動産会社による重要事項説明などの場面では共有者全員の立ち会いが必要です。
立ち会えない共有者がいる場合は、委任状を作成すると他の共有者に売却手続きを任せることができます。
7.確定申告をする
不動産を売却して生じた利益(譲渡所得)は、所得税や住民税の課税対象です。
そのため原則として確定申告をする必要があります。
共有名義の不動産を売却して譲渡所得が出た場合、共有者全員が1人ずつ確定申告をしなければなりません。
なお不動産の売却で譲渡所得が生じたときは、特例制度や特別控除を利用することで、税負担を軽減できることがあります。
マイホーム(居住用財産)を売却して利益を得た場合に「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例(以下、3,000万円特別控除)」を適用できると、税負担を大きく軽減できます。 そのためマイホームを売却するときは、3[…]
共有不動産の売却時のトラブルを防ぐために押さえたいポイント
共有不動産の売却時におけるトラブルを防ぐためには、以下の3点を押さえておくと良いでしょう。
- 共有物分割請求をすると共有状態を解消できる
- 過半数の同意があれば「利用」や「改良」ができる
- 共有持分を売却するときは他の共有者に知らせる
1.共有物分割請求をすると共有状態を解消できる
共有者同士の意見が合わないときは「共有分割請求」をして共有状態を解消するのもひとつの方法です。
共有物分割請求をすると、共有者の1人ひとりが所有者となり、不動産を単独で所有できるようになります。
ただし共有分割請求がなされたあとは、不動産をどのように分割するのかを共有者同士で話し合って全員が合意をしなければなりません。
話し合いで解決しないときは訴訟に発展することもあるため、請求をする前に共有者同士で話し合いをして方向性を決めておくのが望ましいでしょう。
2.過半数の同意があれば「利用」や「改良」ができる
共有者の過半数の同意があれば、共有不動産の「利用」や「改良」ができます。
利用や改良は、以下のような行為を指します。
- 利用の例:不動産を賃貸に出して第三者に貸し出す
- 改良の例:不動産をリフォーム・リノベーションする
過半数の同意があるかどうかは、共有者の人数ではなく持分割合で判定します。
同意する共有者の持分割合の合計が50%を超えていれば、利用や改良ができます。
売却に同意しない共有者も、賃貸物件としての活用や、住みやすくするためのリフォームには同意してくれるかもしれません。
共有者間の意見がまとまらないときは、利用や改良で解決できないかを検討すると良いでしょう。
3.共有持分を売却するときは他の共有者に知らせる
共有持分であれば自分自身の判断で売却できますが、できる限り他の共有者に知らせて売却することをおすすめします。
たとえば他の共有者に知らせることなく、買取業者に共有持分を売却したとしましょう。
買取業者は不動産全体の所有権を得るために、他の共有者に共有持分の売却を持ちかけるかもしれません。
共有者との交渉が難航した場合、共有者間でのトラブルに発展してしまう可能性もあります。
トラブルを防ぐためにも、共有持分を売却するときは他の共有者から同意を得ておくのが望ましいです。
不動産を安易に共有名義で相続しない
遺産の大半が不動産である場合、安易に共有名義で相続するとあとになってトラブルが発生するかもしれません。
例えば不動産を売却したり賃貸に出したりしようとしても、共有者の意見が合わずに実現できないことがあります。
そこで相続時に検討したいのが「代償分割」や「換価分割」です。
- 代償分割:不動産を相続した人が他の相続人に代償金を支払って精算する方法
- 換価分割:不動産を売却して得られた売却金を相続人で分ける方法
代償分割や換価分割をすることで、共有状態で不動産を相続せずに済むため、共有者間で起こりうるトラブルを防げます。
ただし代償分割をする場合、不動産を相続する人に代償金を支払うだけの資産が必要です。
また換価分割をする場合、相続税の申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月以内)に間に合うように不動産を売却する必要があります。
売却期間が限られるため、購入希望者に足元をみられてしまい、安値で買いたたかれてしまうかもしれません。
代償分割や換価分割の特徴や注意点を理解したうえで、共有以外にも適切な引き継ぎ方がないかを考えることが重要です。
【まとめ】共有名義の不動産は慎重に売却を進める
共有名義の不動産を売却するためには、原則として共有者全員の同意が必要です。
共有持分のみであれば自由に売却できますが、他の共有者の同意を得ていないとトラブルに発展してしまいかねません。
「共有状態の土地を分筆する」「リースバックを利用する」などの方法も検討し、状況に応じた解決策を考えることが重要です。
とはいえ最適な対処方法を考えるためには、不動産売却の専門知識が欠かせません。
共有名義の不動産の売却を検討している方は、売却実績が豊富な不動産会社に相談してはいかがでしょうか。
(執筆者:品木 彰)