不動産を売却するときは、資産価値がいくらであるのかを把握しておくことが重要です。不動産の資産価値は、売却活動を始める際に設定する価格(売り出し価格)を判断する際の重要な指標となります。
本記事では、不動産の資産価値が決まる要素や計算方法を解説します。
遠鉄の不動産・中遠売買ブロック長 岸本 圭祐(きしもと けいすけ)
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、カラーコーディネーター、ファイナンシャルプランナー3級
不動産の資産価値とは
不動産の資産価値とは、土地や建物が持つ「財産としての価値」のことです。
不動産売却においては、資産価値をもとに適正な売り出し価格を決めることが、非常に重要となります。
資産価値よりも低く売り出し価格を設定すると、安値で売却をして損をしかねません。
また資産価値よりも著しく高い値段で売り出してしまうと、購入希望者がなかなか現れずに売れ残る要因となります。
そのため売却時の失敗を防ぐためには、不動産の資産価値を調べる必要があります。
不動産の資産価値を決める要素
不動産の資産価値は、何をもとに決まるのでしょうか。
資産価値に影響する主な要素をみていきましょう。
建物の築年数・性能
建物は築年数が経過するにつれて経年劣化が進むため、資産価値は低下していきます。
そのため築年数が古い建物よりも、築浅の物件の方が資産価値は高くなるのが一般的です。
また最新の耐震性や防火性がある建物は、資産価値が高くなる傾向にあります。
とくに「認定長期優良住宅」は、省エネ性能や環境性能、耐震性能が優れているため、高い資産価値を持ちます。
土地の広さや形状
土地の資産価値は、形状や広さ(面積)、法律上の規制などの影響を受けます。
例えば土地の形状が正方形や長方形といった整形地である場合、建物が比較的建てやすいため、資産価値は高くなりやすいです。
一方で形がいびつな土地は、建築できる建物が制限されるため、資産価値は低くなります。
また「面積が狭く建築できる建物が制限される」や「建築基準法による制限により建物の建て替えが困難」などに該当する土地も、資産価値は低い傾向にあります。
都市部までのアクセス・駅までの距離
最寄り駅までの近さや都心部までのアクセスのしやすさによっても、資産価値は変わります。
一般的には、最寄り駅まで徒歩15分以内にある不動産は、資産価値が高いです。
最寄り駅から電車1本で都心部に行けるのであれば、資産価値はさらに高まるでしょう。
また最寄り駅がターミナル駅に直通である場合も、高い資産価値が期待できます。
周辺環境
間取りや面積が同程度の不動産であっても、周辺にある施設によって資産価値が大きく異なる可能性があります。
例えば周辺にコンビニやスーパー、ドラッグストアなどの商業施設がある不動産は、資産価値が高くなりやすいです。
また病院や学校、公園などの公共施設が周辺にあると、資産価値も高い傾向にあります。
他方で、産業廃棄物処理場や下水処理場、火葬場などの嫌悪施設が近くにあると、不動産の資産価値は低くなりやすいです。
不動産の資産価値を計算する3つの方法
不動産の資産価値を計算する方法には「原価法」「取引事例比較法」「収益還元法」の3種類があります。
ここでは、不動産の資産価値を計算する方法を解説します。
原価法
原価法とは、再び同じ物件を建てたときにかかる費用をもとに、不動産の価値を評価する方法のことです。
売却予定の不動産が建物であるときや、建物がある敷地であるときに用いられることの多い評価方法です。
同様の建物を建てる際にかかる費用は、再調達原価(再調達価格)といいます。
原価法では、割り出された再調達価格から、経年劣化によって低下した価値分を差し引いて対象となる不動産の資産価値を算出します。
取引事例比較法
取引事例比較法とは、専有面積や立地などの条件が似た不動産が、過去にいくらで取り引きされていたのかを調べて、資産価値を算出する方法のことです。
資産価値を評価する不動産と条件が似ている不動産の取引事例が数多くある場合は、取引事例比較法が有効です。
しかし、比較対象となる取引事例の数が少ない場合や、過去の取引価格にばらつきがある場合、取引事例比較法で不動産の資産価値を算出するのは困難でしょう。
収益還元法
収益還元法とは、不動産から得られる将来の収益をもとに不動産の資産価値を評価する方法です。
賃貸アパートや賃貸マンションなどの資産価値を求める際に用いられることの多い算出方法です。
収益還元法には「直接還元法」と「DCF法」の2種類があります。
それぞれの特徴は、以下のとおりです。
- 直接還元法:1年間の収益を利率(還元利回り)で割って求める方法
- DCF法:将来的に得られる収益の価値を現在の価値に換算して評価する方法
還元利回りは、資産価値を求める不動産から見込まれる利回りをもとに設定します。
DCF法では、1年後や2年後、3年後など、将来的に得られるであろう収益のすべてを現在の価値に置き直したうえで合計し、不動産の資産価値を求めます。
不動産の資産価値の調べ方
不動産の資産価値を知りたいときは「固定資産税評価額」を調べる方法があります。
固定資産税評価額とは、市区町村が不動産に関する税金(固定資産税・不動産取得税など)の額を算出するために定めている土地や建物の価格のことです。
土地の固定資産税評価額は、時価の7割程度に設定されています。
また建物の固定資産税評価額は、再び同じ建物を建てたときの価格の5〜7割程度です。
そのため以下の計算をすると、土地や建物のおおまかな資産価値を調べることが可能です。
- 土地:固定資産税評価額÷70%
- 建物:固定資産税評価÷50〜70%
固定資産税評価額は、自治体から毎年送付されてくる「固定資産税納税通知書」や市区町村の役場にある固定資産税台帳で確認できます。
他にも不動産ポータルサイトで、面積や立地などの条件が似た不動産の価格を調べると、資産価値の目安を把握できるでしょう。
資産価値をより正確に知りたいときは、不動産鑑定士に鑑定をしてもらう方法があります。
ただし不動産鑑定士に鑑定を依頼すると、20万円程度の費用がかかります。
マンションと戸建て住宅は資産価値が異なる
資産価値の決まり方は、マンションと戸建て住宅で異なります。
マンションと戸建て住宅で、資産価値がどのように異なるのかをみていきましょう。
マンションの資産価値
マンションは、駅から近いエリアや再開発が進むエリアに多く建てられています。
マンションの多くは鉄骨・鉄筋コンクリート造の頑丈な構造であるため、資産価値の下がり方は緩やかな傾向にあります。
また、階層や管理・メンテナンスの状況が資産価値に影響する点も特徴的です。
「高い階層にある」「管理やメンテナンスが行き届いている」といったマンションは、築年数が経過しても資産価値を保ちやすいでしょう。
戸建て住宅の資産価値
戸建て住宅の場合は、土地の形状が資産価値に大きく影響します。
正方形や長方形などの整形地に建っている戸建て住宅は、資産価値が高い傾向にあります。
とくに長方形の土地は、間口が広く奥行きも確保されているのであれば、高い資産価値が期待できるでしょう。
一方で戸建て住宅のほとんどは木造であるため、築年数の経過にともなって建物部分の資産価値が低下しやすいことも特徴のひとつです。
築年数が25年を経過すると建物部分の資産価値がほぼ0円となります。
そのため古家が建っている土地は、解体して更地にした方が資産価値を高められることがあります。
不動産の資産価値と査定価格や売却価格の違い
不動産の資産価値は、査定価格や売却価格と同じであるとは限りません
査定額と売却価格が、資産価値とどのように異なるのかをみていきましょう。
査定額と資産価値の違い
不動産を売却するときは、不動産会社に査定をしてもらうのが一般的です。
不動産会社は、物件の築年数や立地、周辺環境などをもとに査定額を算出します。
不動産会社に査定額を算出してもらうことで、資産価値を把握しやすくなります。
ただし不動産会社によって査定基準は異なるため、不動産の資産価値を調べるときは、各社の査定結果とその根拠を比較することが大切です。
売却価格と資産価値の違い
不動産の売却価格は、買主と売主の合意によって決まるため、必ずしも資産価値と一致するとは限りません。
不動産には「定価」というものがありません。
そのため、需要と供給によって価格が決まるだけでなく、不動産市況の影響も受けます。
需要が高まっているエリアに不動産がある場合や、不動産市況が好調なときは、資産価値よりも高値で売却することも可能です。
【まとめ】不動産の売却時は資産価値を把握しよう
不動産の資産価値は、建物の築年数や性能、土地の広さや形状などをもとに決まります。
また駅までの距離や周辺にある施設などでも、不動産の資産価値は変わります。
資産価値は、さまざまな要素に左右されるため、不動産の専門家でなければ正確に算出するのは困難でしょう。
不動産鑑定士に鑑定してもらうのもひとつの方法ですが、費用がかかります。
そこで所有する不動産の資産価値を知りたいときは、まずは不動産会社に相談することをおすすめします。
(執筆者:品木 彰)