古民家は、一般的な住宅と比較して、築年数が古く建物部分の価値が低い傾向にあるため売却しにくいといわれています。
そのため古民家を売却するときは、物件に合った適切な方法を選択することが大切です。
本記事では、古民家を売却する方法や売却時の諸費用、失敗を防ぐために押さえておきたいポイントを解説します。
遠鉄の不動産・浜松ブロック長 石岡 靖雅(いしおか やすまさ)
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、相続支援コンサルタント、家族信託コーディネーター、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
古民家の売却方法4選
古民家を売却する方法は、以下のとおりです。
- 古家付き土地として売却する
- 建物を取り壊して売却する
- 部分的にリフォームをして売却する
- 不動産会社に買い取ってもらう
1.古家付き土地として売却する
古家付き土地として売却する場合、建物部分を取り壊すための手間や費用はかかりません。
また古民家を購入したいと考えている人と、更地にして活用したい人の両方から購入してもらえる可能性があります。
ただし、買主が建物を解体して更地に戻す場合、建物の解体費用は基本的に買主負担となるため、その分の値引きを求められる可能性があります。
2.建物を取り壊して更地を売却する
築年数が古く、外装や内装、設備の状態があまり良くないのであれば、建物を取り壊して更地にしたうえで売却するのも方法です。
取り壊し費用はかかるものの、土地価値が高いエリアであれば更地に戻して売却した方が、よりスムーズに買い手が見つかるかもしれません。
建物を新築したいと考えている人に、選んでもらえる可能性も高まるでしょう。
一方で取り壊し費用がかかる分、建物を残したまま売却したときよりも手残りが少なくなるケースも少なくありません。
3.部分的にリフォームをして売却する
キッチンや浴室などの設備の一部のみをリフォームして売りに出すのもひとつの方法です。
部分的にリフォームをすることで、古民家の魅力を保ちながら設備や内装などを現代のトレンドに合わせられるでしょう。
購入後に買主が負担する修繕費用も減るため、そのまま売却するよりもスムーズに買い手が見つかるかもしれません。
ただし、リフォーム費用は売主負担となるため、売却後の手残りが少なくなる可能性はあります。
4.不動産会社に買い取ってもらう
個人に売却するのではなく、不動産会社に古民家を直接買い取ってもらうことで、より早く現金化できます。
一方で、不動産会社に買い取ってもらった場合、売却価格が相場の7割程度になるのが一般的です。
より高値で売却したい場合は、不動産会社に仲介を依頼して買主を探してもらった方が良いでしょう。
古民家を売却するときの手順
古民家を売却するときの手順は、次のとおりです。
- 不動産会社に価格を査定してもらう
- 不動産会社と媒介契約を結ぶ
- 売却活動を開始する
- 購入希望者と売買契約を結ぶ
- 買主に物件を引き渡す
不動産を売却するときは、不動産会社に価格を査定してもらうのが一般的です。
複数社に査定を依頼し、査定額の算出結果やその根拠、販売戦略を聞き比べて、信頼できる不動産会社に売却を依頼しましょう。
不動産会社が決まったら媒介契約を結んで売り出し価格を決め、売却活動を開始します。
その後、 購入希望者と売却価格などの条件に双方が合意したら、売買契約を結びます。
引き渡し日を迎えたら、買主に古民家や更地を引き渡して売却は完了です。
不動産売却の流れについて、下記記事をご覧ください。
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古民家の売却時にかかる費用と税金
古民家を売却するときは、税金や諸費用がいくらかかるのかを把握することが大切です。
ここでは、古民家の売却時に支払う可能性がある税金や諸費用を解説します。
古民家の売却時にかかる税金
古民家を売却して利益(譲渡所得)が発生した場合、所得税(いわゆる譲渡所得税)や住民税がかかることがあります。
譲渡所得の金額は、古民家を売った価格から譲渡費用(仲介手数料や測量費など)や取得費(古民家の購入価格)を差し引いて計算します。
取得費がわからないときは、 譲渡価額の5%を概算取得費として譲渡所得を計算することが可能です。
譲渡所得にかかる税金の税率は、売却時における物件の所有期間に応じて決まります。
税率は、以下のとおりです。
- 5年以下(短期譲渡所得):39.63%(所得税率30.63%+住民税率9%)
- 5年超(長期譲渡所得):20.315%(所得税率15.315%+住民税率5%)
※2037年(令和19年)までは、所得税額の2.1%が復興特別所得税として徴収されます。上記は、復興特別所得税を合算した税率です
また、不動産の売買契約書には収入印紙を貼り付けて印紙税を納めます。
印紙税の金額(収入印紙代)は、以下のとおり売買契約書に記載された金額に応じて決まります。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
10万円超 50万円以下 | 400円 | 200円 |
50万円超 100万円 | 1,000円 | 500円 |
100万円超 500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 |
500万円超 1,000万円以下 | 10,000円 | 5,000円 |
1,000万円超 5,000万円以下 | 20,000円 | 10,000円 |
※出典:国税庁「不動産売買契約書の印紙税の軽減措置」をもとに作成
売買契約書が2024年(令和6年)3月31日までに作成されており、かつ記載された金額が10万円を超えている場合は軽減税率の対象となります。
売却時にかかる費用
古民家を売却するときにかかる費用の例は、以下のとおりです。
- 仲介手数料(不動産会社に古民家の売却を依頼した場合)
- 建物の解体費用(更地にして売却する場合)
- リフォーム費用(売却前にリフォームをする場合)
仲介手数料は、古民家の売買契約を結んだときに、買主探しをサポートしてくれた不動産会社に成功報酬として支払います。
建物の解体費用やリフォーム費用は、工事の規模や施工会社などで異なります。
古民家売却時の税負担を軽減できる特例制度
古民家をはじめとした築古の物件は、売買契約書などの購入時価格がわかる書類が残っておらず、概算取得費で譲渡所得を計算するケースが少なくありません。
譲渡価額の5%を概算取得費とする場合、譲渡所得が高くなって譲渡所得税の負担が重くなることがあります。
そこで活用したいのが、特別控除や特例制度です。
ここでは、古民家の売却時に活用できる特別控除や特例制度をご紹介します。
相続空き家の3,000万円特別控除
「相続空き家の3,000万円特別控除」は、相続または遺贈(遺言による指定で遺産を贈ること)によって取得した家屋やその敷地を売却したときに適用できる制度です。
2023年(令和5年)12月31日までのあいだに相続した空き家を売却した場合、所定の要件を満たすと、譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。
特別控除の対象となるのは、相続が開始される直前に被相続人(亡くなった人)が住んでいた住宅です。
詳しくは、下記記事をご覧ください。
相続や遺贈によって空き家を取得しても、住む予定がなく活用も難しい場合は売却を検討することになります。 家を売却した際に発生した所得は所得税および住民税の対象ですが、空き家を売却すると、特例の利用により譲渡所得から最高3,000万円[…]
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例(以下、3,000万円特別控除)」は、マイホーム(居住用財産)を売却したときに適用できる制度です。
所定の要件を満たすと、所有期間にかかわらずマイホームを売却したときに発生した譲渡所得から、最高3,000万円を控除できます。
3,000万円特別控除を適用するためには、原則として売却予定の古民家に売主自身が居住していなければなりません。
また、過去の一定期間にマイホームを売却したときの特例を適用していると3,000万円特別控除を受けられないことがあります。
マイホーム(居住用財産)を売却して利益を得た場合に「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例(以下、3,000万円特別控除)」を適用できると、税負担を大きく軽減できます。 そのためマイホームを売却するときは、3[…]
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
相続財産譲渡時の取得費加算の特例は、相続または遺贈で取得した財産を売却するときに適用できる制度です。
所定の要件を満たすと、相続や遺贈で取得した財産を売却したときの譲渡所得を計算する際、納めた相続税の一部を取得費に加算することができます。
相続税額の一部を取得費に加えることができると、譲渡所得の金額が少なくなり、譲渡所得税の負担を軽減できる可能性があります。
相続した不動産の売却に関しては、下記記事でも解説しています。
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古民家売却の失敗を防ぐポイント
最後に、古民家売却の失敗を防ぐために押さえておきたいポイントを4つご紹介します。
1.空き家の解体やリフォームは慎重に判断する
空き家を解体して更地にしたり、リフォームをして建物部分を整えたりしても、かけた費用の分だけ、売却価格が増えるとは限りません。
空き家の解体やリフォームをするときは、事前に見積もりを取り寄せて、コストに見合うだけのメリットがあるのかどうかを慎重に検討することが大切です。
2.残置物をなくしたあとに売りに出す
古民家を売却するときは、電化製品や家具などの残置物がない状態で買主に引き渡す必要があります。
また建物を解体するときも、残置物があると工事が開始できません。
そのため古民家を売却するときは、事前に残置物を撤去・処分しておきましょう。
3.瑕疵は買主に必ず伝える
瑕疵(かし)とは、雨漏りやシロアリ被害、腐食などの取引の目的である土地や建物にある何らかの欠陥のことです。
物件を引き渡したあとで、売買契約時に伝えていなかった瑕疵が発覚した場合、買主から契約不適合責任を問われ、修繕費用や代金の減額などを請求される可能性があります。
このため古民家を売却するときは、買主に物件の瑕疵を必ず伝えましょう。
また既存住宅瑕疵保険に加入するのも方法です。
保険料はかかりますが、引き渡し後に欠陥が見つかった場合、補修費用を保険金でカバーすることができます。
瑕疵保険については、下記記事をご覧ください。
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4.補助金や助成金を利用できないか確認する
古民家を解体したりリフォームしたりするとき、自治体から補助金や助成金を受けられる場合があります。
例えば静岡県浜松市では、空き家を解体する場合、所定の要件を満たすと解体費用の3分の1(最大50万円)を補助してもらえます。
浜松市空き家解体補助金(浜松市空家等除却促進事業費補助金)
※補助金を受けるためには、指定の期間内に事前相談を行う必要があります。
制度の有無や支給額、要件などは自治体によって異なるため、古民家を売却する前に各自治体のホームページを確認してみましょう。
【まとめ】古民家を売却するときは不動産会社に相談しよう
古民家の売却方法は、主に以下の4種類です。
- 古家付き土地として売却する
- 更地にして売却する
- 部分的にリフォームをして売却する
- 不動産会社に買い取ってもらう
上記の中でもっとも高値での売却が期待できる方法を、入念に検討することが大切です。
とはいえ、古民家を売却した経験があまりない場合、売却予定の物件にとってもっとも有利な手段を選ぶのは困難でしょう。
そこで古民家を売却したいときは、 売却実績が豊富な不動産会社に相談することをおすすめします。
(執筆者:品木 彰)