不動産の売買契約を結ぶときは「不動産売買契約書」を取り交わすのが一般的です。
契約書には、不動産の売買代金や支払いの時期、不動産の住所などが記載されています。
すべての項目に目を通し、記載内容をよく理解したうえで売買契約を結ぶことが大切です。
本記事では、不動産売買契約書に記載されている内容や契約時に確認すべきポイントを解説します。
遠鉄の不動産・中遠売買ブロック長 岸本 圭祐(きしもと けいすけ)
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、カラーコーディネーター、ファイナンシャルプランナー3級
不動産売買契約書とは
不動産売買契約書とは、不動産の売買契約を結ぶときに、買主と売主が取り交わす書類のことです。
売主と買主のそれぞれが履行しなければならないことや、守るべきことなどが細かく記載されています。
また、不動産売買契約書は、買主と売主の双方が契約内容に合意して契約に至ったことを証明する書類でもあります。
不動産売買契約書に書かれている内容
続いて、売買契約書に記載されている主な項目をみていきましょう。
売買の対象となる不動産
不動産売買契約書には、取引の対象となる不動産の情報が記載されています。
主な記載項目は、以下のとおりです。
- 土地:所在・地番・地目・地積・持分 など
- 建物:所在・種類・床面積・構造 など
契約書に記載される情報は、登記簿(全部事項証明書)の内容と基本的には同じです。
売買金額・手付金の額・支払日
売主と買主が合意した売買金額や支払い日も不動産売買契約書に記載される主な項目です。
また売買金額は、手付金と残代金の2回に分けて支払うのが一般的であるため、それぞれの金額や支払い日も記載されています。
手付解除
手付解除とは、売買契約時に支払われた手付金をもとに、契約を解除することです。
売買契約を結んだあと、不動産が引き渡されるまでに買主側が契約をキャンセルする場合は、売主に支払った手付金は基本的に返還されません。
売主が契約を解除する場合は、支払われた手付金の2倍の金額を買主に支払います。
不動産売買契約書には手付解除の項目があり、買主または売主が契約を解除するための条件が記載されています。
土地の面積・誤差があった際の精算
不動産売買契約を結んだあとに土地の測量をする場合、登記簿に記載された面積と実際の面積との差分を、残代金の支払い時に精算することがあります。
精算をする場合、不動産売買契約書に精算金額の計算方法や、精算の対象外となる部分(例:建物)などが記載されます。
境界の明示
境界の明示とは「隣接する土地との境目をはっきりさせること」です。
不動産売買契約を結ぶとき、売主は買主に境界を明示することが義務付けられています。
そのため不動産売買契約書には、土地を測量する方法や測量した結果を買主に交付する方法、現地で境界を明らかにする方法などが記載されます。
所有権移転や引き渡しの時期
売買契約書には、不動産の所有権が移転する時期や、物件が買主に引き渡される時期が記載されます。
一般的に、所有権の移転と物件の引渡し、残代金の支払いは、すべて同じ日に行われます。
税金の精算
毎年1月1日時点で不動産を所有している人には、固定資産税が課せられます。
不動産があるエリアによっては、都市計画税も納めなければなりません。
不動産を売却する年の、固定資産税と都市計画税を納める義務があるのは売主です。
そのため不動産の売買契約では、引き渡し日から起算日まで日割り計算した税額を、買主が売主に支払って精算するのが一般的です。
不動産売買契約書には、精算額を計算するときの起算日や精算が行われる時期が記載されています。
契約違反による解除・違約金
不動産売買契約書には、売主と買主のどちらかが契約書で定められた取り決めを守らないときに、相手方が行うべきことや契約を解除するための要件などが記載されています。
引渡し完了前の滅失・毀損
契約書には、自然災害など売主と買主のどちらにも責任がない事由で、引き渡しの前に不動産が消滅したり壊れたりしたときの、契約解除に関するルールが定められます。
契約が解除となった場合、売主は買主に受け取った金銭を返還する必要があります。
契約不適合責任
契約不適合責任とは、取引の対象となる不動産が契約内容に適合していなかったときに売主が負う責任のことです。
例えば、不動産が引き渡されたあとに、雨漏りやシロアリ被害など契約書に記載されていない欠陥が発覚した場合、買主は売主に修繕の依頼や修繕費用の請求などができます。
不動産売買契約書には、売買契約の目的物である不動産が契約内容に適合しなかったときに、買主が売主に請求できることや条件などが記載されています。
付帯設備の引き継ぎ
不動産の売買契約では、エアコンや室内の照明、庭木・庭石など、物件に付帯する設備のうち、売主から買主に引き継がれるものを明確にしなければなりません。
そのため契約書には、引き継がれる設備の内容や、引き渡し後に故障や不具合が発生した場合に売主が負う責任の内容が記載されます。
ローン特約
買主が、住宅ローンを借り入れる場合は「ローン特約」を説明する項目が不動産売買契約書に記載されます。
ローン特約とは、不動産売買契約を結んだあとに買主が住宅ローンの本審査に通過できなかった場合、契約を解除できるようにする特約のことです。
ローン特約の項目には、金融機関の審査結果を知らせる期日やローンが否決になったときに契約が解除できる期日などが記載されます。
抵当権・賃借権などの削除
抵当権とは、住宅ローンの契約者が途中で返済できなくなったときに、金融機関が担保となっている物件の差し押さえができる権利のことです。
賃借権は、土地を借りた人が土地を使用できる権利です。
不動産売買契約書では、抵当権や賃借権など買主が不利になる権利を、売主が所有権を移転するまでに削除するように記載されているのが一般的です。
不動産売買契約書で確認すべきポイント
不動産売買契約書で確認すべきポイントは、次のとおりです。
- 数値に誤りがないか
- 期日はいつなのか
不動産売買契約書には、売買金額や手付金額、土地の面積、建物の床面積、住宅ローンの借入額などさまざまな数値が記載されています。
誤った内容で契約を結んでしまわないためにも、契約書に記載された金額や面積などを1つひとつ確認しましょう。
また、残代金の支払い日や引き渡し日などの期日を確認し、無理のないスケジュールとなっているかどうかも買主とともに確認することが大切です。
あわせて、手付解除や融資が未承認だったときに契約が解除できる期限なども確認することで「期日が過ぎていたために権利を行使できなかった」といった事態を防げます。
不動産売買契約書に関する注意点
不動産売買契約書に関して注意すべき点は、以下のとおりです。
- 不明点はすべて不動産会社に質問する
- 不動産の売買後はきちんと保管する
- 個人間の取引でも必要
不明点はすべて不動産会社に質問する
不動産売買契約書には、不動産や法律に関する専門用語が並んでいるため、なかなか理解ができない部分もあるでしょう。
しかし、不明点をそのままにして契約を結んでしまうと、後々トラブルに発展してしまいかねません。
不動産の売買契約では、契約書の不明点や疑問点を不動産会社の担当者に質問をして解消したうえで契約を結ぶことが大切です。
不動産の売買後はきちんと保管する
不動産売買契約書は、売買の際に売主と買主の双方が契約内容に合意していることを証明する文書です。
引き渡し後に買主とのあいだで揉め事が起こったとき、当時の契約内容が記された不動産売買契約書を残していれば、事態を解決しやすくなるでしょう。
また、売却した翌年に確定申告をする場合、申告書類を作成するときに不動産売買契約書が必要となります。
そのため、不動産の売買契約を結んだあとは、契約書を大切に保管しておきましょう。
個人間の取引でも必要
不動産会社を仲介せずに個人間で不動産を取引するとき、口頭でも契約は成立します。
しかし口頭での契約では「誰が費用を負担するのか」「契約内容に違反があった場合は誰がどのように責任を負うのか」などが曖昧になりかねません。
また不動産の売買契約を交わした証拠も残らないでしょう。
口頭で契約を結ぶと、引き渡し後に買主とのあいでトラブルに発展しやすくなります。
個人間で不動産を取引するときも不動産売買契約書を作成し、売主と買主の双方が契約内容に相違がないことを確認したうえで、契約を結びましょう。
ただし、不動産売買契約書の作成には、専門知識が必要になります。
トラブルを避けるためにも、不動産売買の知識や経験がない方は、不動産会社に仲介を依頼するほうが安心です。
不動産売買契約書に貼付する収入印紙
不動産売買契約書は「印紙税」という税金の課税対象であるため、税額に相当する金額の収入印紙を契約書に貼付する必要があります。
収入印紙の金額は、以下のとおり契約金額によって決まります。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
10万円超 50万円以下 | 400円 | 200円 |
50万円超 100万円 | 1,000円 | 500円 |
100万円超 500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 |
500万円超 1,000万円以下 | 10,000円 | 5,000円 |
1,000万円超 5,000万円以下 | 20,000円 | 10,000円 |
5,000万円超 1億円以下 | 60,000円 | 30,000円 |
※出典:国税庁「不動産売買契約書の印紙税の軽減措置」をもとに作成
2024年(令和6年)3月31日までに作成された売買契約書のうち、契約書に記載された金額が10万円を超えているものは「軽減税率」が適用されます。
例えば、不動産売買契約書に記載された金額が3,000万円である場合、本来の印紙税額は2万円ですが、軽減税率が適用されることで1万円に減額されます。
不動産売買契約書の印紙税は、原則として売主と買主が共同で納めなければなりません。
実務上では、売主と買主がそれぞれ保有する契約書分の収入印紙代を、各自が負担します。
収入印紙は、郵便局や法務局の窓口、コンビニエンスストア、金券ショップなどで購入可能です。
【まとめ】不動産売買契約書の内容をよく理解して契約を結ぶ
不動産売買契約書には、取引の対象となる不動産や売買金額、手付解除、引き渡しの時期、税金の精算方法など、契約に関する重要な項目が複数記載されています。
不動産の売買契約を結ぶときは、契約書をよく読んで内容を充分に理解するだけでなく、金額や数値に誤りがないかをよく確認しましょう。
不動産売買契約書に記載されている内容で不明な点がある場合は、不動産会社の担当者に質問をして、理解できるまで説明してもらうことが重要です。
(執筆者:品木 彰)