亡くなった人(被相続人)のマンションは、預貯金や有価証券などと同様に相続税の課税対象となります。
ただし、マンションを相続したからといって、必ず相続税が課税されるわけではありません。
本記事では、マンションの相続税評価額の求め方や、相続税の計算方法、軽減制度などを解説します。
遠鉄の不動産・中遠売買ブロック長 岸本 圭祐(きしもと けいすけ)
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、カラーコーディネーター、ファイナンシャルプランナー3級
相続したマンションは相続税の課税対象
まずは、マンションを相続した際に相続税がかかるケースや、相続税の申告・納税期限を解説します。
遺産の総額が基礎控除額を下回ると相続税はかからない
マンションを相続しても、正味の遺産総額(課税価格)が基礎控除額を下回っていれば、相続税は一切かかりません。
基礎控除額は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」です。法定相続人とは、遺産を相続する権利を持っている人のことです。
亡くなった人の配偶者は、必ず法定相続人となります。配偶者以外の親族については、以下の順位にしたがって法定相続人が決まります。
- 第1順位:亡くなった人の子ども
※相続発生時に子どもが既に死亡しているときは、その子どもの直系卑属(子どもや孫など)が相続人となる - 第2順位(第1順位の人がいない場合):亡くなった人の直系尊属(父母や祖父母など)
- 第3順位(第1順位・第2順位の人がいない場合):亡くなった人の兄弟姉妹
※参考:国税庁「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」
例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人の場合、基礎控除額は「3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円」です。
そのため、相続したマンションを含めた遺産の総額が4,800万円を下回っていれば、相続税はかからず申告も不要です。
正味の遺産総額が基礎控除額を超える場合は、相続税額を適切に計算して申告書を作成し、期限内に申告と納税をする必要があります。
相続税の申告書の提出先は、被相続人の死亡時における住所地を所轄する税務署です。
相続税の申告期限は10か月以内
相続税の申告・納税の期限は、被相続人が亡くなったことを知った日(通常は被相続人が亡くなった日)の翌日から10か月です。
例えば、被相続人が1月18日に亡くなった場合、相続税の申告・納税期限は、同じ年の11月18日となります。
※申告期限が土曜日、日曜日、祝日などである場合は、その翌日が期限
期限内に申告をしなかった場合や、期限内であっても実際よりも相続財産や税額を少なく申告したときは、加算税や延滞税が課せられる場合があります。
相続が発生したときは、マンションを含む相続財産がいくらあるのかを速やかに調査し、必要に応じて期日までに相続税の申告と納税を適切に行うことが大切です。
マンションの相続税評価額の求め方
マンションをはじめとした不動産は、建物と土地を分けて相続税評価額を求める必要があります。
ここでは、建物部分と土地部分の相続税評価額の求め方を解説します。
建物部分の評価額の求め方
建物部分の相続税評価額は、原則として「固定資産税評価額」と同じ金額です。
固定資産税評価額は、固定資産税などの税額を算出するための基準となる土地や家屋の評価額です。
マンションの住所がある市町村から毎年送られてくる「固定資産税の課税明細書」に記載されています。
相続したマンションの課税明細書が見当たらない場合は、住所地を管轄する市町村役場(東京都23区は都税事務所)で、固定資産税評価証明書を交付してもらうとよいでしょう。
土地部分の評価額の求め方
マンションの土地部分(敷地部分)の相続税評価額は、敷地全体の評価額を敷地権割合で按分して求めます。
敷地権割合は、マンションの区分所有者が持っている敷地利用権の割合のことです。
敷地全体の評価額は「路線価」をもとに計算します。
路線価とは、道路に面した標準的な宅地の1㎡あたりの価額のことです。
敷地全体の評価額の計算式は、以下のとおりです。
- 敷地全体の評価額:路線価×マンションの敷地面積
例えば、路線価が50万円、マンションの敷地面積が600㎡の場合、敷地全体の評価額は「50万円×600㎡=3億円」です。
敷地権割合が「30,000分の550」であると、土地部分の相続税評価額は「3億円×(550/30,000)=550万円」となります。
ただし、実際に相続税評価額を求める際は、土地の形状や奥行き、道路との接し方などに応じた補正が必要です。
また、路線価の設定されていない地域にマンションが建てられている場合は、土地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じる「倍率方式」で評価額を算出します。
路線価や、倍率方式の評価倍率は、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で確認できます。
2024年1月以降の相続では評価額が補正されることがある
2024年1月1日以降、相続や贈与などで取得したマンションは、相続税評価額を求める際、必要に応じて一定の補正が適用されることになりました。
補正の内容を簡単に説明すると「マンションの相続税評価額が時価の6割にも満たない場合は、6割まで引き上げる」というものです。
マンションの相続税評価額の算出方法が改正された背景には、相続税評価額と市場価格の乖離を利用した相続税の過度な節税がありました。
もともと不動産は、相続税評価額が時価よりも低く算出される傾向にあります。
タワーマンションの高層階では、その傾向が顕著であり、相続税評価額が市場価格の3〜4割程度になるケースもありました。
そのため、相続税の節税を目的としてタワーマンションを購入する、いわゆる「タワマン節税」が富裕層を中心に行われていたのです。
このことが問題視されたために、区分所有マンションの評価方法が改正され、相続税評価額が最低でも市場価格の60%になるように補正されることになりました。
マンションの相続税の計算方法
マンションを相続したときは、以下の流れで相続税を計算します。
計算方法 | |
1.正味の遺産総額を計算 | 各相続人の課税価格を合計 |
2.課税遺産総額を計算 | ・正味の遺産総額−基礎控除額
・基礎控除額:「3,000万円+(600万円×法定相続人)」 |
3.相続税の総額を計算 | 相続人ごとに法定相続分どおりに相続したときの仮の取得金額とそれにもとづく相続税額を計算して合計
・仮の取得金額:課税遺産総額×法定相続分 ・仮の相続税額:仮の取得金額×税率−控除額 |
4.各人が納める相続税額を計算 | 相続税の総額×(各人の課税価格/課税価格の合計) |
手順1の各相続人の課税価格は、現金や不動産などの相続財産の合計評価額から非課税財産(例:墓地・仏壇)や債務(例:借入金・未払金)などを差し引いた金額です。
ただし、相続が発生する3〜7年前に被相続人から贈与された財産や、相続時精算課税制度という制度を利用して贈与された財産なども足し合わせる必要があります。
手順3で、仮の取得金額を算出する際に用いる「法定相続分」は、相続人となる人とその数で決まります。
例えば、法定相続人が配偶者と子ども2人の計3人である場合、法定相続分は配偶者1/2、子どもは1人につき1/4です。
仮の取得金額に応じた相続税額は、以下の速算表を用いて算出します。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | – |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
※引用:国税庁「No.4155 相続税の税率」
実際に納付する税額は、手順4で算出した税額から各種の税額控除などを差し引いた残りとなります。
相続税の計算は、専門家でなければ理解が難しい部分があります。
相続が発生した際は必要に応じて、税理士や最寄りの税務署などに相談するとよいでしょう。
マンション相続時の相続税を軽減する制度
相続税には、税負担を軽減するさまざまな控除制度や特例があります。
今回は、相続税に関する控除制度や特例のなかから、マンションの相続時に利用されることの多い「配偶者の税額軽減」と「小規模宅地等の特例」を解説します。
配偶者の税額軽減(配偶者控除)
配偶者の税額軽減(配偶者控除)は、亡くなった人の配偶者が遺産を相続する場合、要件を満たすと以下のうちどちらか高い金額まで相続税がかからなくなるという制度です
- 配偶者の法定相続分
- 1億6,000万円
つまり、配偶者の税額軽減を適用できると、配偶者が取得した遺産の総額が最低1億6,000万円を超えない限り、相続税はかからなくなります。
配偶者の税額軽減を適用できるのは、被相続人との婚姻届を提出していた人です。
婚姻届を提出しておらず、被相続人と内縁関係にあった人は、配偶者の税額軽減を利用できません。
また、配偶者の税額軽減を利用するためには、相続税の申告書の提出が必要です。
配偶者の税額軽減を適用した結果、税額が0円であっても、申告書の提出が必要となる点には注意が必要です。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例は、亡くなった人の住居や賃貸用の住宅などが建っている土地を相続する際に適用できる特例です。
所定の要件を満たすと、相続したマンションの土地部分の相続税評価額を最大80%減額できます。相続税評価額の減額率と減額が受けられる面積の上限は、以下のとおりです。
減額割合 | 限度面積 | |
特定居住用宅地等 (被相続人が住んでいた土地) |
80% | 330㎡ |
貸付事業用宅地等 (被相続人が、賃貸マンションや賃貸アパートなどを建てて貸付業をしていた土地) |
50% | 200㎡ |
特定事業用宅地等 (被相続人が事業に使っていた土地) |
80% | 400㎡ |
例えば、被相続人が住んでいたマンションを相続したとしましょう。特例を適用する前の土地部分の相続税評価額は4,000万円、面積※が50㎡であるとします。
※マンションの場合は「敷地全体の面積×敷地権割合」で計算
この場合、小規模宅地等の特例を適用すると、土地部分の相続税評価額は「4,000万円−(4,000万円×80%)=800万円」となります。
小規模宅地等の特例を受けるためには、相続税の申告書に特例を受ける旨を記載し、小規模宅地等の特例の計算明細書などの必要書類を添付します。
また、相続した土地の種類ごとに定められた要件を満たさなければなりません。
【まとめ】マンションの相続時は適切に相続税を計算しよう
マンションを相続しても、正味の遺産総額が基礎控除額を下回るのであれば相続税はかかりません。
ただし、相続税が課税されるにもかかわらず申告と納税を怠ると、加算税や延滞税といったペナルティが課せられる場合があります。
マンションを相続したときは、他の遺産とあわせて相続税評価額を正確に算出し、相続税の申告と納税が必要ないかをよく確認することが大切です。
とはいえ、相続税評価額を適切に求めるためには税務の専門知識が必要です。相続税に関してお困りの際は、税理士や最寄りの税務署に相談することをおすすめします。
(執筆者:品木彰)