離婚の際に、持ち家を売ろうとは考えているものの、どのように売却すべきか悩む人は少なくありません。
売却の際は、取得時期や名義人、住宅ローンの残債を確認のうえ、売却方法やタイミングなどを慎重に検討することが大切です。
本記事では、離婚にともなう家の売却で確認すべきことや売却方法、押さえておきたいポイントと注意点を解説します。
遠鉄の不動産・浜松ブロック長 石岡 靖雅(いしおか やすまさ)
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、相続支援コンサルタント、家族信託コーディネーター、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
離婚で家を売る際に確認すべきこと
離婚で家を売却する際は、まずは以下の点を確認しておきましょう。
- 家を取得した時期と理由
- 家の名義人
- 住宅ローンの残債
家を取得した時期や理由
離婚の際に財産分与の対象になるのは、婚姻期間中に取得した財産です。
結婚前に取得した家は、原則として財産分与の対象にはなりません。
また、親や祖父母などから贈与された家や相続した家は、婚姻期間中の取得であっても財産分与の対象外です。
離婚で家の売却を検討するときは、取得時期と理由を確認し、そもそも財産分与の対象となるのかを確認しておきましょう。
家の名義人
家を売却できるのは、登記簿謄本に記載された名義人のみです。
単独名義の場合は、名義人の意思で自由に売却できますが、共有名義の場合は、すべての共有名義人の合意が必要となります。
名義人は、法務局で入手できる登記簿謄本(登記事項証明書)で確認できます。
住宅ローンの残債
住宅ローンが残っている場合、売却時に完済する必要があります。住宅ローンを組んで購入した家には「抵当権」が設定されているためです。
抵当権は、借り入れた人が返済できなくなったとき、金融機関が家を差し押さえて強制的に売却し、得られた代金を優先的に債務の回収に充てられる権利です。
抵当権が残ったままの家を売りに出しても、基本的に売買契約は成立しません。
そのため、家を売却するときはローンを完済して抵当権を抹消する必要があります。
離婚に伴い、住宅ローンの返済中である家を売却する場合は、予想売却代金が残債を上回っているかどうかを確認することが大切です。
アンダーローン(残債<売却代金)の場合
アンダーローンは、家の売却代金がローン残債を上回っている状態です。
売却代金からローンを完済した残りは財産分与の対象とすることができます。
一般的には、住宅ローン完済後の残金を夫婦で半分ずつ分けますが、話し合いにより異なる割合にすることも可能です。
オーバーローン(残債>売却代金)の場合
売却代金がローンの残債を下回るオーバーローンの場合は、売却代金だけではローンを完済できません。
自己資金や親族からの借入金、他の共有財産を売却して得た現金などで補填する必要があります。
また、離婚後に夫婦のどちらかが住み続けて住宅ローンを返済し続けるという選択肢もあります。
ただし、住み続ける側が相手に家の価値の半分に相当する金銭を支払わなければなりません。
家は離婚の前後のどちらで売却するとよい?
家を売却するタイミングは、離婚前と離婚後のどちらがよいのでしょうか。
ここでは、家を売却するタイミングごとにメリットや注意点を解説します。
離婚後であればじっくりと売却活動ができる
離婚後に家を売却する主なメリットは、新しい生活環境が整ってから落ち着いて売却活動を進められる点です。
新居への引っ越しや名義変更などを終えたあと、余裕を持って家の売却活動に取り組めるでしょう。
納得のいく条件で売却できるまで、焦らずじっくりと活動できるため、できるだけ高く家を売却したいのであれば、離婚後に家の売却活動を始めるのがよいといえます。
ただし、離婚後に家を売却する場合、元配偶者と連絡を取り合うことになるため、精神的な負担を感じてしまうかもしれません。
加えて、売却活動が長引いて年をまたいでしまうと、1年分の固定資産税の支払いが発生する点にも注意が必要です。
離婚前に売却すると離婚後に相手と連絡しなくてよくなる
離婚前に家を売却する主なメリットは、離婚後に元配偶者と連絡を取る必要がなくなることです。
離婚したあとに、元配偶者と一切連絡を取りたくないのであれば、離婚前に家を売却してしまうのも1案です。
しかし、離婚前に家の売却代金を分けてしまうと、名義人でない側に財産が贈与されたとして贈与税が課税される可能性があります。
また「早く売却したい」という焦りが生じてしまい、希望価格よりも安値で売却してしまうかもしれません。
離婚時に家を売る方法
離婚の際に家を売却する方法には「仲介」と「買取」の2種類があります。
また、売却時に住宅ローンの完済が難しい場合は「任意売却」を選ぶのもひとつの方法です。
それぞれの特徴をよく理解した上で、状況に合ったものを選ぶことが大切です。
仲介
仲介による売却は、不動産会社を通して買主を探す方法です。仲介であれば、相場と同程度の金額で売却できる可能性があります。
一方、家を売却するまでに少なくとも3か月程度はかかるため、スケジュールに余裕を持って売却活動を行うことが大切です。
買取
買取は、不動産会社が直接物件を購入する方法です。買取のメリットは、すぐに現金化できる点であり、最短1か月程度で売却代金を受け取れます。
ただし、買取価格は相場の7割程度になることが多いため、まずは仲介での売却を検討し、期間的に難しい場合に買取を検討することをおすすめします。
任意売却
任意売却とは、債務者が金融機関の同意を得て、住宅ローンが残る住宅を売却する方法のことです。
任意売却であれば、金融機関から了承を得ることで抵当権を解除してもらえるため、住宅ローンが完済できない家でも売却が可能となります。
また、強制的に家が売却されてしまう「競売」よりも高値での売却が期待でき、相場と同程度の売却価格になるケースもあります。
ただし、任意売却ができるのは、住宅ローンの返済を3〜6か月ほど滞納し、期限の利益の喪失により、一括返済を求められたあとです。
また、競売当日が任意売却のタイムリミットです。
金融機関との交渉も必要となるため、任意売却をする場合は不動産会社に相談をするとよいでしょう。
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離婚時に家を売るときのポイント・注意点
離婚にともなう家の売却では、以下のポイントや注意点を理解しておくことが大切です。
- 財産分与の申し立ては離婚後の2年以内にしかできない
- 財産分与の内容が決まったら公正証書を作成する
- 売却が得意な不動産会社を選ぶ
財産分与の申し立ては離婚後の2年以内にしかできない
離婚後に財産分与をする場合、当事者の話し合いがまとまらないときやそもそも話し合いができないときは、家庭裁判所に調停や審判の申し立てができます。
家庭裁判所に申し立てをすると、夫婦が協力して築いた財産の状況や双方の意見などをもとに、解決策の提示や助言などを受けられるため、よりスムーズに話し合いが進められます。
ただし、家庭裁判所に申し立てができるのは、離婚が成立した日から2年以内です。
離婚から2年を超えてしまうと、財産分与の対象となる財産があったとしても、申し立てはできません。
家の売却を含む財産分与で、お互いの意見がまとまらない可能性があるときは、家庭裁判所に調停や審判の申し立てができるように早めに協議を始めることをおすすめします。
財産分与の内容が決まったら公正証書を作成する
財産分与の内容について合意ができたら、公正証書を作成しておくのもひとつの方法です。
公正証書とは、公証役場で作成される公文書のことです。
離婚時の財産分与では、しばしばトラブルが起こります。
例えば「家の売却代金を2人で均等に分ける」という取り決めをしていたとしても、相手側が一向に売却代金を渡してこず、トラブルになるかもしれません。
財産分与の内容をまとめた公正証書を作成していると、トラブルが生じて裁判に発展したときに有効な証拠となります。
また、債務者が強制執行に従う旨の文言を公正証書に記載していると、財産分与の支払いがなされないとき、裁判を起こさなくても相手の給料や預金などを差し押さえることが可能です。
公正証書の作成には、数千円〜数万円の手数料がかかりますが、離婚後に財産分与のトラブルが想定されるのであれば、作成をしておくと安心でしょう。
売却が得意な不動産会社を選ぶ
離婚で家を売却する際も、通常の不動産売却と同様に、いかに売却価格を高められるかが重要となります。
とくに、住宅ローンが残っている家を売却する場合、売却価格が安くなると多くの持ち出しが発生し、財産分与の対象となる財産が減ってしまうかもしれません。
そこで、離婚にともなう家の売却は、売却実績が豊富で信頼できる不動産会社に相談をするとよいでしょう。
複数の不動産会社に家の査定を依頼し、査定結果や算出の根拠、販売戦略を聞き比べることで、信頼できる不動産会社を選びやすくなります。
また、各社のホームページをチェックして、過去の売却実績や利用者の意見などを確認するのも有効です。
離婚にともなう不動産売却の経験が豊富な不動産会社であれば、財産分与など特有の事情を考慮しながら売却活動をサポートしてくれます。
【まとめ】離婚時に家を売却する際は不動産会社に相談を
離婚で家を売却する場合、最初に家の取得時期や理由、名義人、住宅ローンの残債を確認しましょう。
家の売却方法には、不動産会社を通じて買主を探す「仲介」と、不動産会社が直接購入する「買取」の2種類があります。
買取はより早く現金化できるものの、買取価格は相場の7割程度になるため、まずは相場と同程度の金額で売却できる可能性がある、仲介を検討することをおすすめします。
仲介で家を売却するのであれば、不動産売却の実績が豊富で信頼できる不動産会社を慎重に選ぶことが大切です。
(執筆者:品木 彰)