離婚の際、住宅ローンが残っている家は「財産分与」の対象になることがあります。
家が財産分与の対象となる場合、ローンの契約内容や残債などをもとに、売却するのか、あるいは夫婦のどちらかが住み続けるのかを判断します。
本記事では、住宅ローンが残る家を財産分与する際に確認すべきポイントや代表的な分割方法などを解説します。
遠鉄の不動産・中遠売買ブロック長 岸本 圭祐(きしもと けいすけ)
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、カラーコーディネーター、ファイナンシャルプランナー3級
離婚時に住宅ローンが残る家も財産分与の対象
婚姻期間中に取得した家は、住宅ローンの残債が残っていたとしても「財産分与」の対象となります。
財産分与とは、離婚をした人がもう一方に対して財産の分与を請求できる制度のことです。
財産分与の対象となるのは、預貯金、不動産、自動車、株式、保険など、基本的には婚姻期間中に取得した金銭的価値のあるものすべてです。
一方で、婚姻前から所有していた家や、相続・遺贈によって取得した家は、原則として財産分与の対象になりません。
離婚時に確認すべきこと
離婚時に住宅ローンが残る家がある場合は、以下の4点を確認しましょう。
- 家の名義・金銭的な価値
- 住宅ローンの契約形態
- 住宅ローンの残債
家の名義・金銭的な価値
不動産を売却できるのは、基本的に名義人に限られます。単独名義の場合は、名義人の意志で自由に売却できますが、共有名義の場合は名義人全員の同意が必要です。
そのため離婚の際は、登記簿謄本(登記事項証明書)などで家の名義人を確認しましょう。
登記簿謄本(登記事項証明書)は、最寄りの登記所や法務局証明サービスセンターの窓口で交付請求できるほか、郵送やオンラインでの請求も可能です。
また、財産分与の方法を検討する際は、家の金銭的な価値も重要な判断要素となるため、不動産会社に査定してもらいましょう。
住宅ローンの契約形態
住宅ローンが残っている場合は、債務者である人物や連帯債務者・連帯保証人の有無といった契約形態をよく確認しておきましょう。
契約形態は、住宅ローンの契約を結ぶ際に金融機関と取り交わした契約書(金銭消費貸借契約書)で確認できます。
住宅ローンの契約形態は、以下のいずれかであるのが一般的です。
夫 | 妻 | |
1.単独債務 | 主債務者 | – |
2.連帯債務 | 主債務者 | 連帯債務者 |
3.連帯保証 | 主債務者 | 連帯保証人 |
連帯債務者は、主債務者と同様に借入金の全額に対する返済義務を負っています。
一方の連帯保証人は、主債務者が返済できなくなった場合に、その債務を負わなければなりません。
夫が主債務者となるケースが一般的ですが、妻が主債務者、夫が連帯債務者や連帯保証人となるケースもあります。
住宅ローンの残債
離婚する時点での住宅ローン残債と家の売却価格のどちらが高いのかも、財産分与の方法を検討する際に重要な判断要素となります。
離婚の際は、住宅ローンの契約時に交付される償還表や、半年に1度など決まったタイミングで送られてくる返済予定表などで、残債を確認しておきましょう。
残債を確認できる書類が見当たらないときは、借入先の金融機関に問い合わせる必要があります。
離婚時に住宅ローンが残る不動産を売却する方法
離婚する際に、住宅ローンが残る家がある場合は「売却する」「どちらかが住み続ける」のいずれかを選択するのが一般的です。
ここでは、離婚時に住宅ローンが残る家を売却するケースをみていきましょう。
アンダーローン(残債<売却価格)の場合
残債が売却価格を下回るアンダーローンの場合は、売却代金で住宅ローンを完済したあとの残額が財産分与の対象となります。
例えば、残債2,000万円、売却価格2,500万円の場合、差額の500万円を2人で分けます。
売却後の残額は、原則として2分の1ずつ分けますが、夫婦の合意があれば異なる割合で分けることも可能です。
オーバーローン(残債>売却価格)の場合
住宅ローンの残債が売却価格を上回るオーバーローンの場合、売却代金だけでは住宅ローンを完済できません。
住宅ローンを完済できなければ、基本的に家を売却することもできないため、残債と売却価格の差額を、預貯金などの自己資金で補う必要があります。
自己資金が不足している場合は、親や祖父母などから資金を援助してもらう方法もありますが、贈与された金額が年間110万円を超えると贈与税がかかります。
住宅ローンの返済を滞納しており、借入先の金融機関から一括返済を求められているのであれば「任意売却」をするのもひとつの方法です。
任意売却であれば、金融機関の同意を得ることで、売却後も残債が生じる家を売却することができます。
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離婚後も住宅ローンの残る家に妻(夫)が住む方法
続いて、住宅ローンが残っている家に妻、または夫が住み続けるケースについてご紹介します。
債務者が住宅ローンを支払い続ける
離婚後も債務者が住宅ローンの返済を継続する場合、誰が家に住むかで注意すべき点が変わります。
主債務者が家に住み続ける場合
夫妻のどちらかが単独で住宅ローンを組んでおり、主債務者である人が離婚後も家に住み続ける場合、不動産の価値とローン残債の差額が財産分与の対象となります。
具体的には、不動産の価値がローン残債よりも高いとき、その差額分を家に住まない側に支払うのが一般的です。
なお、家を出る側が連帯債務者や連帯保証人である場合、離婚後に住宅ローンの返済に対する責任から逃れられるわけではありません。
離婚後に主債務者のみが返済をすると夫婦間で取り決めをしていたとしても、金融機関から返済を求められたときは応じる必要があります。
そのため、連帯債務や連帯保証で住宅ローンを組んでいた場合は、金融機関と交渉し、連帯債務者や連帯保証人としての立場を解除してもらう方がよいでしょう。
ただし、金融機関と交渉しても解除の承諾を得るのは難しいのが実情です。また、解除を認める代わりに条件が提示される場合もあります。
例えば、連帯保証人を外れる場合は新たな保証人の用意や、保証協会の利用を求められるのが一般的です。
主債務者ではない人が家に住み続ける場合
主債務者ではない人が離婚後も家に住み続ける場合、さまざまなトラブルが生じやすくなります。
例えば、夫が住宅ローンの主債務者であり、妻は連帯債務者・連帯保証人のどちらでもないとしましょう。
夫婦には幼い子どもがおり、離婚後も妻と子どもは家に住み続けることになりました。夫は別の場所で暮らしながら、慰謝料の代わりとして住宅ローンを返済します。
この場合、夫が住宅ローンの返済を続けてくれるとは限りません。
仮に夫が返済を滞納してしまうと、金融機関に家が差し押さえられて競売にかけられてしまい、妻と子どもは住まいを失う可能性があります。
そのため、離婚後も同じ条件で住宅ローンを返済する場合は、家に住み続ける側が主債務者に家賃を支払う選択をする方もいます。
また、そもそも住宅ローンは、借り入れた人が住むための家を購入するときに利用できる ローンです。
借入先の金融機関に無断で主債務者が家を出てしまうと、契約違反と判断され、一括返済を請求されかねないため、事前に許可を得ておく必要があります。
住宅ローンの名義を変更する
離婚の際、住宅ローンの名義を家に住み続ける人に変更するケースもあります。離婚にともなう住宅ローンの名義変更では「借り換え」をするのが一般的です。
借り換えとは、新しく住宅ローンを組み、返済中の融資を一括返済することです。
借り換えの方法は金融機関によって異なりますが、基本的には以下2つのどちらかを選択します。
- 夫婦間売買:住宅ローンの残高分を家に住む側に売買したことにする方法
- 負担付贈与:ローンの返済負担付きで家を贈与する方法
夫婦間売買では、家に住む側が住宅ローンを組み、家を出る側が組んでいたローンを完済させます。
新たにローンを組んで、元のローンを買い取るというイメージです。
負担付贈与の場合は「家をあげる代わりに住宅ローンを負担してください」という贈与契約を結びます。
いずれの方法を選ぶにしても、借り換えをする際は、金融機関の審査を受けなければなりません。審査に通過するためには、家に住む側に一定の経済力が求められます。
また、借り換えの際には、融資事務手数料や印紙税、繰上返済手数料などの諸費用がかかる場合があるため、入念に資金計画を立てる必要があります。
財産分与の内容を公正証書にしておく方法も
公正証書とは、公証人が作成する公文書のことであり、公証役場で作成してもらえます。
作成にかかる費用は、数千〜数万円です。
財産分与や養育費など、離婚の際に双方が合意した内容を公正証書にまとめると、元夫婦間でトラブルが生じたときに対処しやすくなります。
例えば、離婚後に主債務者である夫が住宅ローンの返済を続け、妻と子どもは引き続き家に住むことを取り決めたとしましょう。
公正証書に債務者が強制執行に従う旨の文言を入れておけば、夫がローンの返済をしない場合、裁判を経ることなく給与や財産を差し押さえることができます。
離婚したあとにトラブルが生じる可能性がある場合は、費用をかけてでも公正証書を作成した方がよいといえます。
【まとめ】離婚時に家を売却すべきかは不動産会社にも相談を
離婚の際に住宅ローンが残る家がある場合は「家を売却する」「夫婦のどちらかが住み続ける」の2種類が主な選択肢となります。
それぞれに注意点があるため、家の名義人や金銭的な価値、ローンの契約形態と残債を確認し、状況に応じた方法を選ぶことが大切です。
売却か住み続けるかを選択する際、とくに重要な判断要素となるのが家の価値です。
離婚をする場合は、不動産会社に家を査定してもらい、予想売却価格を把握した上で売却すべきかどうかを慎重に検討しましょう。
(執筆者:品木 彰)