「空き家はどの方法で売却すべきなのだろうか」と悩む方は少なくありません。
亡くなった親族が住んでいた空き家や、転勤などの理由で住まなくなった家を売却するときは、状況に応じて適切な方法を選択することが大切です。
本記事では、空き家の主な売却方法や必要な費用などについて解説します。
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遠鉄の不動産・浜松北ブロック長 恒吉 俊哉(つねよし しゅんや)
宅地建物取引士
空き家の売却方法4選
空き家を売却する際には、大きく分けて以下の4つの方法があります。
- そのままの状態で売却する
- リフォーム・リノベーションして売却する
- 解体して更地で売却する
- 不動産会社に買い取ってもらう
そのままの状態で売却する
建物を取り壊さずに「中古住宅」や「古家付き土地」として売却する方法です。
解体やリフォームをせずに売りに出すため、初期コストを抑えて早めに売却できる可能性があります。
建物が居住できる状態であれば、中古住宅として売りに出すとよいでしょう。
中古住宅は新築住宅よりも価格が割安なため、費用を抑えてマイホームを購入したい方に選ばれる傾向にあります。
また、リフォーム・リノベーションにより自分好みの住まいに作り変えたい人にも選んでもらえるかもしれません。
建物の老朽化が進んでいる場合は、古家付き土地として売りに出すのも1つの方法です。
エリアによっては、建物を利用するか解体して建て替えるのかを判断できるようにしたほうが、売れやすくなることがあります。
リフォーム・リノベーションして売却する
建物をリフォームやリノベーションしたうえで売却する方法です。
築年数が古い場合でも、壁紙や床、設備などを改修・改装することで、物件の第一印象がよくなり、より買い手が見つかりやすくなる可能性があります。
キッチンや浴室などを最新の設備に取り換え、トレンドに合った間取りに変更すると物件の魅力は高まりやすくなるでしょう。
ただし、エリアによっては買主が自分好みに建物をリフォームしたいという需要が強い場合もあります。
費用に見合うだけの効果が得られるとは限らないため、売却前にリフォームやリノベーションの工事をすべきかどうかは、不動産会社ともよく相談して慎重に決めることが大切です。
解体して更地で売却する
建物の老朽化が進んでおりそのままでは住めない場合や、修繕・修復が難しい箇所がある場合は、解体して更地にしてから売却するのも1つの方法です。
古家付き土地とは異なり、買主は建物の解体費用を負担する必要がないため、エリアによっては更地にしたほうが売れやすくなる場合があります。
売主が解体費用を負担することにはなりますが、その分を売却価格に上乗せできることもあります。
ただし、更地にすると固定資産税や都市計画税の負担が上昇する点には注意が必要です。
「住宅用地の特例」が適用されなくなるため、固定資産税は最大6倍、都市計画税は最大3倍に上昇します。
不動産会社に買い取ってもらう
不動産会社による仲介での売却が難しいときや早く手放したいときは、空き家を買い取ってもらう方法もあります。
買い取りであれば、最短1週間で売買契約を結び、1か月ほどで決済も完了するため、早急に現金化できます。
ただし、買取価格は一般的に市場相場よりも安い傾向があるため、できるだけ高値で売却したい人には適していません。
早急に空き家を手放すべき事情がない限りは、より高値での売却が可能な不動産会社による仲介で買主を探すことをおすすめします。
空き家を売却する流れ
仲介で空き家を売る際の手順は、以下のとおりです。
- 査定を依頼する
- 媒介契約を結ぶ
- 売却活動を始める
- 売買契約を結ぶ
- 物件を引き渡す
不動産の売却は早くても3か月、地方にある空き家では1年以上かかるケースもあります。
空き家を売却する際は、手順を把握しスケジュールに余裕をもって進めることが大切です。
1. 査定を依頼する
最初に、空き家の金銭的な価値を把握するために、不動産会社の査定を受けましょう。
査定方法には「机上査定」と「訪問査定」があります。
机上査定は、物件の情報と過去の成約事例などをもとに査定をする方法です。
訪問査定は、不動産会社の担当者が実際に物件を訪問して状態や周辺環境などを確認する方法を指します。
より正確な査定結果がわかるのは訪問査定ですが、机上査定よりも時間がかかります。
まずは、いくつかの不動産会社に机上査定を依頼し、査定金額を比較検討して数社に絞ったうえで訪問査定をしてもらうとよいでしょう。
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2. 媒介契約を結ぶ
査定額と売却の進め方などを比較して不動産会社を選び、媒介契約を締結します。
媒介契約は「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の3種類があります。
一般媒介契約は、複数の不動産会社に売却を依頼できますが、物件の情報が「レインズ」に登録されない可能性があります。
レインズは、不動産流通機構が運営する不動産情報ネットワークシステムです。
売却する物件の情報がレインズに登録されると、全国の不動産会社が閲覧できるようになります。
専任媒介契約と専属専任媒介契約は、1社としか結べませんが、レインズに物件情報の登録が義務づけられているため、売却できる可能性が高まります。
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3. 売却活動を始める
媒介契約を結んだ後は、不動産会社と相談して売り出し価格を決め、売却活動を始めます。
売却活動が始まると、不動産ポータルサイトや折り込みチラシ、店頭広告などで物件の情報が公開されます。
いつ内覧希望者が現れても対応できるよう、最低限の片付けや遺品の整理などは行っておくとよいでしょう。
4. 売買契約を結ぶ
内覧を経て購入希望者と売買価格や引き渡し日などの条件が合意したら、売買契約を締結します。
不動産会社に仲介を依頼している場合、宅地建物取引業者による重要事項説明を受けます。
売買契約書や重要事項説明書の内容を十分に理解したうえで、契約を締結しましょう。
また、売買契約を結ぶ際は、売買金額の10%程度の手付金が買主から支払われるのが一般的です。
不動産の売買契約を結ぶときは「不動産売買契約書」を取り交わすのが一般的です。 契約書には、不動産の売買代金や支払いの時期、不動産の住所などが記載されています。 すべての項目に目を通し、記載内容をよく理解したうえで売買契約を結[…]
5. 物件を引き渡す
売買契約を結んだあとは、1〜2か月ほどが経過すると物件の引き渡しとなります。
通常は、金融機関や司法書士の事務所などに、売主と買主、双方を仲介する不動産会社の担当者などが集まり、残代金の決済や鍵の受け渡しなどを行います。
残代金の決済は、不動産を購入するための金銭をすべて支払う手続きです。
引き渡しが終了したあと、買主または依頼を受けた司法書士が法務局に向かい、所有権移転登記をすると売却手続きは完了です。
空き家の売却時にかかる費用・税金
空き家を売却する際には、仲介手数料や印紙税、解体費用、リフォーム費用、譲渡所得税などがかかります。
仲介手数料
売買価格の3%+6万円(消費税)が上限です。
印紙税
売買契約書の記載される金額に応じて決まります。
解体費用
木造は1坪あたり4万円、鉄骨造は6万円程度ですが、実際の金額は立地、規模、構造などで異なります。
リフォーム費用(任意)
工事の規模や施工業者により数十万~数百万円前後が一般的です。
譲渡所得税
以下の式によって計算される税額が課されます。
- 【譲渡所得税】=課税譲渡所得金額 × 税率
※税率は売却した年の1月1日時点の所有期間が5年以下であれば39.63%、5年超は20.315%
など「課税譲渡所得金額」は、以下の式で計算されます。
- 【課税譲渡所得金額】=譲渡価格-(譲渡費用+取得費)-特別控除額
※譲渡価格:空き家の売却価格
※譲渡費用:仲介手数料や測量費、建物の取り壊し費用などの諸経費
※取得費:空き家の購入価格
※特別控除額:(一定要件を満たす場合に適用される)マイホームを譲渡した場合や収用等、
特定土地区画整理事業等、特定住宅地造成事業等、農地保有の合理化等で
土地や建物、農地を譲渡した場合に適用
空き家売却時の税負担を軽減できる制度
空き家を売却する際、一定の条件を満たすと「3,000万円特別控除」「相続空き家の3,000万円特別控除」「取得費加算の特例」を適用して、税負担を軽減できることがあります。
3,000万円特別控除
3,000万円特別控除とは、マイホーム(居住用財産)を売却した際、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度のことです。
空き家の場合でも、住まなくなってから3年を経過する日が属する年の12月31日までに売却し、他の要件を満たすと3,000万円特別控除の対象となります。
マイホーム(居住用財産)を売却して利益を得た場合に「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例(以下、3,000万円特別控除)」を適用できると、税負担を大きく軽減できます。 そのためマイホームを売却するときは、3[…]
相続空き家の3,000万円特別控除
相続空き家の3,000万円特別控除は、相続または遺贈(遺言で特定の人や団体に財産を贈ること)で得た空き家を売却する際に適用できる制度です。
「相続が開始される直前まで被相続人(亡くなった人)以外が住んでいなかった」「家屋が昭和56年5月31日までに建築されている」などの要件を満たすと、空き家を売却したときの譲渡所得から最高3,000万円を控除できます。
相続や遺贈によって空き家を取得しても、住む予定がなく活用も難しい場合は売却を検討することになります。 家を売却した際に発生した所得は所得税および住民税の対象ですが、空き家を売却すると、特例の利用により譲渡所得から最高3,000万円[…]
取得費加算の特例
取得費加算の特例とは、相続や遺贈により取得した土地、建物などの財産を一定期間内に譲渡した場合、相続税の一部をその財産の取得費に加算できる制度のことです。
この特例を適用したことで、取得費の金額が増えると、課税対象の譲渡所得金額が減り、譲渡所得税の負担を軽減できます。
特例を受けるためには、下記3つの要件を満たす必要があります。
- 相続や遺贈により財産を取得した者であること
- その財産に対して相続税が課税されていること
- 相続開始日の翌日から相続税の申告期限の翌日以降3年10か月以内にその財産を譲渡していること
※出典:国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」
上記要件を満たしたうえで「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」などの書類を添付して確定申告をすると特例を受けられます。
【まとめ】空き家の売却方法は慎重に選ぼう
空き家の売却方法には「そのまま売る」「リフォームをして売る」「解体して更地で売る」「不動産会社に買い取ってもらう」という4つの選択肢があります。
上記のうち、不動産会社による買い取りは、売却価格が相場よりも低くなるケースが一般的です。そのため、まずは仲介で買主を探すとよいでしょう。
査定結果をもとに信頼できる不動産会社を探し、状況に応じた売却方法を選ぶことで、より有利な条件で空き家を売却することができます。
(執筆者:品木 彰)