不動産売却で損(譲渡損失)が出た場合、その年の確定申告は基本的には不要です。
しかし税負担を軽減する特例の利用により、計算結果がマイナスになるのであれば、確定申告が必要となります。
今回は不動産売却で損をしても確定申告が必要なケースと、確定申告をすることで使用できる特例について説明します。
宅地建物取引士
不動産売却後に確定申告は必要?
確定申告の必要性は、不動産を売却したときの利益(譲渡所得)がプラスとマイナスのどちらであるかで判断します。
譲渡所得がプラスであれば確定申告は必要ですが、マイナスであれば不要です。
譲渡所得の計算方法は、以下のとおりです。
- 譲渡所得額=譲渡価額−譲渡費用−取得費
譲渡価額は、不動産の売却価格のことです。
譲渡費用は、仲介手数料や印紙税など不動産の売却時に支払った諸経費を指します。
取得費は、不動産を取得するために必要であった費用です。
不動産を購入した当時の価格から、経年劣化によって失われたと考えられる価値分である「減価償却費」を差し引いて計算します。
減価償却費を差し引くのは、建物部分の取得費を計算するときです。
土地は経年劣化しないため、土地部分の取得費を計算するときに減価償却費は差し引きません。
譲渡所得がプラスなら確定申告が必要
不動産の売却時に確定申告が必要となるのは、譲渡所得がプラスであり売却によって儲けが出ているときです。
例えば不動産の譲渡価額が4,000万円、譲渡費用が300万円、取得費が3,000万円である場合、譲渡所得を計算すると「4,000万円−300万円−3,000万円=700万円」となります。
計算の結果、譲渡所得がプラスとなっているため、確定申告をして税金を納める必要があります。
譲渡所得がマイナスなら確定申告は原則不要
不動産を売却したときの譲渡所得を計算すると、結果がマイナスとなり、損失が発生しているのであれば、確定申告は必要ありません。
例えば不動産の譲渡価額が3,000万円、譲渡費用が200万円、取得費が3,500万円である場合「3,000万円−200万円−3,500万円=−700万円」となり、計算結果がマイナスとなるため、確定申告は不要です。
ただし「居住用財産の3000万円特別控除」の利用によって、計算結果がマイナスとなる場合は確定申告をしなければなりません。
居住用財産の3000万円特別控除は、住んでいた自宅を売却したとき、所定の要件を満たすと譲渡所得を最大3,000万円控除してくれる制度です。
居住用財産の3000万円特別控除は自動で適用されるわけではありません。
マイホームを売却したときに居住用財産の3000万円特別控除を利用するときは、忘れずに確定申告しましょう。
不動産売却で譲渡損失が出ても確定申告をしよう
不動産売却で損をした場合(譲渡損失が出た場合)、譲渡所得にかかる税金はゼロとなり支払いは発生しません。
そのため確定申告の必要もありません。
しかし確定申告をすることにより、下記の特例が利用できます。
- マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
- 特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
特例の利用により税金の軽減措置が取れるため、税金対策として有効です。
不動産売却で損をしても、税金の特例を利用したい人は確定申告を必ずしましょう。
それぞれの特例については、次の章で詳しくご説明します
不動産売却で譲渡損失が出た場合の特例
不動産売却時に損をした場合、必要な条件を満たしていれば「損益通算」と呼ばれる方法で、同年のその他の収益と相殺できます。
また売却した年の所得よりも譲渡損失額が大きいときは「繰越控除」の利用が可能です。
繰越控除とは売却した年の翌年から最長3年間に渡り、譲渡損失を繰り越して税金を計算できる措置です。
合計最長4年間の所得税や住民税を軽減できます。
不動産売却後に損益通算と繰越控除を利用できる特例には、次の2種類があります。
- 不動産の買い換え時に損をした場合:マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
- 不動産を売って損をした場合:特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
この特例が利用できるのは売却した不動産が「マイホーム」である場合です。
マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
「マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」は、マイホームの買い換えのために不動産を売ったケースに適用される特例です。
特例を利用するための必要条件は、次のとおりです。
【売却物件に関する条件】
- 譲渡年の1月1日時点で所有期間が5年超である
- 500m²以上の敷地を売却した場合、500㎡までの損失までが対象となる
【買い換える居住用不動産に関する条件】
- 売却の翌年の12月31日までに借入れにより取得する
- 取得年の翌年12月31日までに前の居住用不動産を売却する
- 居住用の床面積は50㎡以上である
- 購入後の物件の住宅ローンは、融資期間10年以上であり、かつ特例を受ける年の年末に残債がある
「住宅ローン減税制度」との併用は可能です。ただし特例を受ける各年の所得が3,000万円以上の年については、特例の対象外です。
特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
「特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」は、買い換えを伴わないマイホームの売却で発生した譲渡損失に対する特例です。
特例を利用するための条件は次のとおりです。
【売却物件に関する条件】
- 譲渡年の1月1日時点で所有期間が5年超である
- 譲渡の前日にそのマイホームに係る償還期間10年以上の住宅ローンの残債がある
- 住宅ローン残債が売却金額を超えている(※)
譲渡損失額と(※)の、いずれか損失が少ない方が損益通算および繰越控除の対象となります。買い換え時の特例と同様に、特例を受ける各年の所得が3,000万円以上の年については特例適用の対象外です。
不動産売却後の確定申告
損益通算と繰越控除の特例を利用するためにも、不動産を売却した後の確定申告について知っておきましょう。
確定申告のためには必要書類をそろえ、正しく計算し申告書を記入しなければなりません。
慣れていない人は時間がかかるため、早めに準備しておくと安心です。
確定申告の手順
不動産売却後の確定申告の手順について説明します。
1.必要な書類を準備する
確定申告に必要な書類は、種類が多く入手するまで時間を要するものもあります。申告時期を待たず随時そろえておきましょう。
2.確定申告書に記入する
税務署または国税庁のホームページから用紙をダウンロードして必要事項を記入します。手書きのほか、国税庁のホームページ内の確定申告書等作成コーナーで入力する方法も便利です。
画面案内に従って入力すれば自動で数値の計算や必要箇所への反映が行われるので、記入ミスや計算ミスを防ぎスムーズに資料を作成できます。
3.書類をそろえて提出する
提出方法は「郵送」「税務署へ持参」「オンライン(e-Tax)」の3つの方法から選べます。
オンライン申請の場合、事前に利用開始の手続きが必要なので忘れずに済ませておきましょう。
不動産売却後の確定申告について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
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特例を利用する際の確定申告における必要書類
特例を利用する際は確定申告に必要な書類に加えて、次の書類が必要です。
- 「居住用財産の譲渡損失の金額の明細書(確定申告書付表)」
- 「居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書(租税特別措置法第41条の5用)」
- 売却したマイホームの登記事項証明書や売買契約書の写し
- 買い換えたマイホームの登記事項証明書や売買契約書の写し
- 年末における住宅借入金等の残高証明書
一般的な確定申告に必要な書類に関しては、こちらの記事をご覧ください。
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確定申告が不要でも税務署から「お尋ね」が来る場合がある
不動産を売却した翌年に確定申告をしていないと「お尋ね」という税務署からの確認が届くことがあります。
不動産売却時の税金が適切に支払われているのか確認することが、お尋ねの主な目的です。
お尋ねは封書で届くのが一般的ですが、税務署の担当者から電話がかかってくることもあります。
確認内容は、売却不動産の情報や売却代金、譲渡価格などが一般的です。
お尋ねを回答せずに放置しても罰則を受けることがありませんが、税務調査に入られる可能性があります。
税務署からお尋ねが届いたら、すみやかに回答しましょう。
マイホームなどの不動産を売却したあと「お尋ね」と書かれた封書が届くことがあります。 差出人を見ると税務署となっているため、ドキッとする人もいるのではないでしょうか? 「お尋ねって何のこと?」「届いたらどうすればいい?」など不安になってし[…]
まとめ
不動産を売って損が出た場合には、確定申告の必要はありません。
しかし「損益通算」「繰越控除」といった税金の特例を利用するためには、不動産売却で損が出ても確定申告が必要です。
利用できる2つの特例にはそれぞれ条件が設けられています。どちらを利用する場合も、条件を満たしているかどうか事前に確認しましょう。