家を売却するとき「売却理由は買主にどこまで伝えればいいの?」と悩んでしまうことはないでしょうか。
不動産売却の理由はさまざまです。
なかには個人的な事情を抱えた方もいるでしょう。
不動産売却の理由は、伝え方を間違えると思わぬトラブルへと発展することもあります。
この記事では売却理由を上手に伝えるコツや、トラブルを避けるポイントについて解説します。
遠鉄の不動産・浜松ブロック長
石岡 靖雅(いしおか やすまさ)
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、相続支援コンサルタント、家族信託コーディネーター、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
不動産売却の主な理由
家を売却する理由は人によってさまざまです。
家族構成の変化や転勤、経済的事情により家を手放す人もいるでしょう。
不動産売却の主な理由には、次のようなものがあげられます。
1.より良い住環境への住み替えのため
「今よりも広い家」「もっと駅に近い家」など、住環境を向上させるためにマイホームを売却して住み替えるケースです。
ライフスタイルに合わせて新築住宅を購入したり、戸建てからマンションへ移り住んだりする人も多いでしょう。
2.転勤・転職のため
転勤や転職など、仕事の都合により家を売却するケースもあります。
住宅ローン残債がない場合は、家を賃貸に出すのもひとつの方法でしょう。
しかし住宅ローンの返済や転勤・転職後の生活を考慮したうえで、売却を決断する人が多いようです。
3.家族構成が変わったため
「子どもが生まれた」「親と同居を始める」など、家族構成の変化も家を売却するきっかけです。
子どもが独立して夫婦だけになったことを機に、一戸建てを売却しコンパクトなマンションへ移り住む人もいます。
4.離婚したため
離婚に伴い、自宅を売却して財産分与をするケースもあります。
住宅ローン残債が多額の場合は、売却代金をそのまま返済に回すことも多いでしょう。
ただし離婚後も夫または妻のどちらかが、継続して住み続けることもあります。
その場合は一方が家を譲り受けた形になり、相手に評価額の半分を支払い財産分与をします。
5.相続のため
両親の自宅を相続したが、住居として使用しておらず「売却したほうが得になる」という場合もあります。
相続した不動産には、固定資産税や管理維持の費用が発生します。
さらに物件との距離が離れていると、管理も難しくなるでしょう。
売却して現金化したほうが合理的なケースもあります。
6.住宅ローンの返済が難しくなったため
毎月のローン返済が難しくなり、家を手放す人もいます。
当初の資金計画やライフスタイル、収入状況に変化があり、これまでのようにローンを返済できなくなってしまったケースです。
7.雨漏り・シロアリ被害があるため
雨漏りやシロアリ被害などのトラブルは、改修工事費が高額になることもあります。
売却価格は下がるものの、改修せずに売却を決断する人もいます。
8.事件事故・近隣トラブルがあったため
孤独死や事故死、自殺や殺傷事件などがおこった家は「事故物件」として扱われます。
そのまま住み続けるには心理的負担が大きく、売りに出されることがほとんどでしょう。
また物件に問題はないものの、近隣の騒音やゴミ放置などの近隣トラブルが原因で家を売る人もいます。
不動産の売却理由はどうやって伝える?
買主の立場になると、物件の「売却理由」は気になるものです。
見学時に「なぜ売却するのか」と理由を尋ねられるケースは少なくありません。
売却理由には「そのまま伝えてもOKな理由」と「伝え方に注意が必要な理由」があります。
【そのまま伝えてOKな理由】
- 住み替えのため
- 転勤・転職のため
- 家族構成が変わったため
- 相続のため
【伝え方に注意が必要な理由】
- 離婚したため
- 住宅ローンの返済が難しくなったため
- 雨漏り・シロアリ被害があるため
- 事件事故、近隣トラブルがあったため
住み替えや転勤・転職、家族構成の変化などはごく一般的な理由なので、そのまま伝えても問題ありません。
ほかの項目については、伝え方に注意しないとトラブルの原因となることもあります。
それぞれ「どのように伝えればよいのか」をみていきましょう。
個人の事情にかかわる理由の伝え方
個人的な事情については、次のように言い方を工夫してみましょう。
【離婚した場合の伝え方】
- 実家の両親と同居することになった
- 家族構成が変わった
【住宅ローンの返済が難しい場合の伝え方】
- 経済的な理由ができた
「離婚したため」や「住宅ローンの返済が難しくなったため」という場合、買主の立場ではとくに気にならない人もいます。
しかし売主側は個人の事情に関わることなので、詳細を伝えたくない人もいるでしょう。
個人的な事情を伏せて理由を伝えるためには、表現の仕方を工夫するのがおすすめです。
告知義務のある売却理由の伝え方
物件を売却するときは、物件の瑕疵について報告する「告知義務」があります。
告知義務のある売却理由は、買主にありのままを伝えなければなりません。
売主が物件の瑕疵について知りながら告知を怠った場合、買主より損害賠償を請求されたり、契約解除を言い渡されたりすることもあります。
告知義務のある売却理由は、物理的瑕疵によるものと心理的瑕疵によるものがあります。
告知義務のある売却理由
【物理的瑕疵】建物や土地に関すること
- 基礎や柱など構造部分に欠損がある
- 雨漏りや上階からの水漏れ、シロアリによる被害がある
- 有害物質を含む土壌汚染や極端な軟弱地盤である
【心理的瑕疵】不安・不快に感じること
- 建物内や近隣で事件や事故が発生した(孤独死・自殺・殺傷事件・強盗など)
- 火災や洪水などの被害にあった
- 周辺に火葬場やごみ焼却施設、風俗店、反社会的勢力の事務所などがある
これらの瑕疵については「買主に報告しなければならない」と宅地建物取引業法にて定められています。
瑕疵がある場合、売主は「物件状況確認書(告知書)」という用紙に記入して買主に提出します。
物件状況確認書(告知書)とは
物件状況確認書(告知書)は、売却物件の瑕疵に関するヒアリングシートです。
決まった書式はありませんが内容は概ね統一されています。
対象 | 項目 |
建物 |
|
土地 |
|
周辺の環境 |
|
その他売主から買主へ引継ぐべき事項 | (何かあれば記載) |
近隣トラブルによる売却理由の伝え方
ご近所トラブルが原因で家を売るときは、トラブルの内容によって買主への伝え方も変わります。自分では判断が難しい場合は、不動産会社に相談しましょう。
騒音問題の例として、次の2つのケースを比べてみます。
【例その1】判断が難しいケース
隣人の話し声やテレビの音、上階の子どもの足音がうるさいという騒音トラブルです。
騒音についての感じ方や捉え方は人それぞれです。
許容範囲内とする人もいれば、耐えられない人もいるでしょう。
このケースでは「近所に小さいお子さんがいて日中は賑やかなこともあります」などの伝え方がおすすめです。
【例その2】告知が必要なケース
1日中大音量で音楽を流し続ける、意味の分からないことを大声で怒鳴り散らす人がいるなどは、明らかな迷惑行為といえるでしょう。
このケースは誰が見ても常軌を逸脱したトラブルです。
物件状況確認書で買主に状況を伝える必要があります。
まとめ
不動産の売却理由はさまざまです。
告知義務がある理由と、告知義務がない理由がありますが、買主としては売却理由を知りたいものでしょう。
離婚などの個人的な理由を伝えたくない方は、表現を工夫することをおすすめします。
物理的瑕疵や心理的瑕疵があるときも「売却に不利になる」と隠さず、正直に告知することがトラブルを避けるポイントです。
売却理由の説明は、個人では判断が難しいこともあります。
どのように伝えるべきか迷ったときは、実績豊富な不動産会社に相談しましょう。
(執筆者:茶谷利津子)