住宅ローンを組むときは、その時点での生活状況と将来的な見通しを基準に計画を立てます。
しかし予想外の失業や病気などで生活状況が変化すると、住宅ローンを払えなくなることもあるでしょう。
今回は「住宅ローンが払えない場合はどうなるのか」「返済が苦しいときは、どのような対策があるのか」という疑問にお答えします。
遠鉄の不動産・浜松ブロック長
石岡 靖雅(いしおか やすまさ)
宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、相続支援コンサルタント、家族信託コーディネーター、2級ファイナンシャル・プランニング技能士
住宅ローンが払えないとどうなる?
失職や病気など、何らかの理由で住宅ローンが払えなくなるとどうなるのでしょうか。
順番に解説していきます。
①支払いの督促が来る(滞納1か月~)
住宅ローンが支払われないと、支払いの催促の電話や通知が来ます。
滞納が2カ月以上になると、来店の依頼状や督促書が届くようになります。
②信用情報機関に登録される)(滞納3か月~)
住宅ローンを3カ月以上滞納すると、信用情報機関に滞納の事故情報が登録されます。
いわゆるブラックリストと呼ばれるものです。
信用情報機関に登録されると、クレジットカードやカードローンなどの審査を通過するのがほぼ不可能になります。
③期限の利益を喪失する(滞納6か月~)
およそ半年以上住宅ローンを滞納してしまうと、分割払いの期限の利益を喪失します。
これまでは決められた期日に分割払いが可能でしたが、期限の利益を喪失したことで一括払いで返済しなければならない義務が生じます。
④代位弁済通知書が届く(滞納6か月~)
保証会社が住宅ローンを一括で弁済したことを知らせる「代位弁済通知書」が届きます。
代位弁済した保証会社は、その分を回収するために、裁判所の手続きを用いて強制執行をかけます。
⑤物件が競売にかけられる(滞納9が月~)
強制執行によって、住宅ローンを組んで購入した物件は競売にかけられます。
競売では最も高い金額で入札した者が落札し、物件の新しい所有者になります。
保証会社は競売の代金から債権を回収します。
⑥物件から立ち退きをしなければならない
住宅ローンで購入した物件の所有権を失ってしまうので、物件から立ち退きをしなければなりません。
立ち退きをしない場合は、裁判所の執行官によって強制退去を命じられます。
つまり住宅ローンが払えずに滞納し続けると、最終的に競売にかけられて自宅の所有権を失い、立ち退きをしなければならないのです。
住宅ローンが払えなくなる理由
ここからは住宅ローンが払えなくなってしまう主な理由を解説します。
収入が減少する
住宅ローンの月々の返済額は、基本的に以下の2点を前提として設定されています。
- 契約時に安定した収入を得ており、以降もそれが継続すること
- 昇給などで収入が上がっていくことが期待できること
そのため何らかの理由で収入が大きく減少した場合、住宅ローンを無理なく返済することが難しくなります。
収入が減少する主な原因は、以下のものがあります。
- 業績の悪化による整理解雇(リストラ)される
- ボーナスがカットされる
- 昇給がなくなる
- 長期の入院や療養で休職・退職する
- 妊娠・出産を期に退職する
- 家族の介護が必要になり休職・退職する
- 感染症の蔓延や自然災害で仕事ができなくなる
- 離婚により世帯収入が減少する
たとえば、ボーナスが定期的に支払われることを前提として住宅ローンが設定された場合、業績の悪化などによってボーナスが支給されなくなると、住宅ローンの返済が困難になります。
支出が増加する
収入が減少していなくても、支出が増加すれば、毎月の収入から住宅ローンの返済にあてるための十分な余裕がなくなってしまう可能性があります。
たとえば、子どもがいる家庭では教育費が大きな支出になりがちです。
学費のかかる私立に進学することになったなど、支出の増加によって住宅ローンを返済できなくなってしまう場合があります。
そのほかにも、離婚による慰謝料の支払い、事故による損害賠償の支払いなど、支出の増加には予期せぬ原因が考えられます。
住宅ローンが払えない場合の選択肢
住宅ローンが支払えなくなってしまった場合は、次のような選択肢があります。
- 借入先の金融機関に相談
- 住宅ローンを借り換える
- 任意売却をする
- 自己破産をする
ひとつずつ解説をします。
借入先の金融機関に相談
まずは住宅ローンを組んだ金融機関に相談しましょう。
債務者の経済状況によっては、返済期間や毎月の返済額などの見直す「リスケジュール」を提案してもらえる場合があります。
リスケジュールを認めてもらうには、滞納が続く前に相談することが重要です。
またリスケジュール後は、再度滞納しないように、経済的な基盤を固めましょう。
住宅ローンを借り換える
住宅ローンの借り換えでは、まず住宅ローンを組んだ金融機関とは別の金融機関から借り入れをします。
借り入れた金銭で住宅ローンを一旦完済し、その後は新たに発生したローンを返済していく方法です。
住宅ローンの借り換えをすると、返済年数を延長したり、毎月の返済額を減額したりできる可能性があります。
任意売却をする
任意売却とは住宅ローン返済中の不動産を、債権者の同意を得て売却し、売却代金でローンを返済する方法です。
一般的には住宅ローン返済中の物件は、抵当権が設定されているため売却が困難です。
しかし任意売却では、不動産会社が債権者と交渉することで、ローンが残っていても抵当権を抹消できる可能性があります。
任意売却のメリット
物件を売却した代金をもとに返済をする点では競売に似ていますが、任意売却は競売とは異なる以下のメリットがあります。
- 市場価格に近い価格で物件を売却しやすい
- 近所などに経済事情を知られにくい
- 費用の持ち出しが不要になる可能性がある
- 引越しをするタイミングを相談しやすい
任意売却のデメリット
任意売却でローンを返済しても、3か月以上の滞納がある場合は信用情報機関に登録される可能性が高いでしょう。
信用情報機関に登録されると、7年前後は借入やクレジットカードの作成が難しくなります。
任意売却について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
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自己破産をする
自己破産は裁判所で行う手続きです。
自己破産を申し立てて認められれば、住宅ローンを含む多くの債務が帳消しになります。
しかし住宅ローンを組んで購入した物件だけでなく、自動車や貴金属など高価な財産も手放すことになります。
自己破産の手続きは大きく分けて同時廃止事件と破産管財事件の2種類があります。
不動産を所有していて自己破産をする場合、手続きが完了するまでに時間がかかる破産管財事件になるのが一般的です。
自己破産のメリット
任意売却は不動産の売却代金でローンを返済しますが、完済できなかった分は債務として残ります。
しかし自己破産の場合、債務自体が免除されます。
ただし全ての債務が免除されるわけではなく、税金や社会保険料など支払いの義務が残るものもあります。
自己破産のデメリット
自己破産では財産のほとんどを失うため、生活の立て直しが難しくなります。
自己破産について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
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住宅ローンを払えなくなる前に対策を
住宅ローンが払えない場合の対策としてリスケジュール、ローンの借り換え、任意売却などがあります。
しかし住宅ローンを滞納すればするほど状況は悪化し、対策をとりにくくなります。
住宅ローンが払えなくなる可能性がある場合、何カ月も滞納する前に早めに対策を検討することが大切です。
返済が難しいと感じたら、まずは借入先に相談しましょう。
まとめ
住宅ローンの滞納を続けると、最終的に物件が競売にかけられて、自宅から強制的に退去させられます。
住宅ローンを払えない場合の対策として「返済計画を見直してもらう」「有利な条件でローンの借り換えをする」「物件を任意売却する」などの方法があります。
任意売却は競売と比較するとメリットも多く、生活の立て直しがしやすい方法です。
ただし任意売却を成功させるためには、任意売却の経験が豊富な不動産会社を選ぶことが重要になります。