任意売却とは、住宅ローンの返済が滞っている場合の選択肢です。
そのため経済的に余裕がないケースが多く、売却費用の捻出も難しいでしょう。
任意売却の費用は、基本的には持ち出し不要です。
今回は任意売却の費用について、持ち出し不要の理由も含めて解説します。
遠鉄の不動産・中遠売買ブロック長 岸本 圭祐(きしもと けいすけ)
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、カラーコーディネーター、ファイナンシャルプランナー3級
任意売却の費用負担は?
任意売却には仲介手数料や抵当権の抹消費用など、さまざまな費用が発生します。
これらの費用は売主が負担するものです。
ただし任意売却に伴って発生する費用のほとんどは、物件を売却した代金から支払われます。
任意売却が成功すれば、売主はあらかじめ費用を用意する必要はありません。
そのため任意売却では「費用の持ち出しが不要」といわれています。
しかし費用の全てが、売却代金から支払われるとは限りません。
たとえば自宅を任意売却すれば引越しが必要ですが、引越し費用を売却代金から支出できるかどうかは、債権者との交渉次第です。
任意売却にかかる諸費用
ここからは任意売却にかかる諸費用について解説します。
任意売却の諸費用は、交渉次第で売却代金からの支払いが可能です。
売却時の仲介手数料
売却時の仲介手数料は、任意売却を仲介した不動産会社に支払います。
仲介手数料は任意売却が成立した場合に支払われるので、売却が成立しなければ仲介手数料は発生しません。
仲介手数料は宅地建物取引業法という法律で、以下のように上限が定められています。
- 200万円以下の部分:5%以内
- 200万円超~400万円以下の部分:4%以内
- 400万円超の部分:3%以内
売却価格が400万円以上の場合、一般的には「売却価格×3%+6万円+消費税」という式で計算します。
抵当権抹消費用
住宅ローンの借り入れをする場合、ローンが返済されなくなるリスクに備えて、債権者によってローンの対象となる物件に「抵当権」が設定されます。
抵当権を有する債権者を抵当権者といいます。
ローン返済が長期にわたって滞った場合、抵当権者は抵当権を実行して物件を競売にかけて、売却代金を債権の弁済に充当します。
そのため一般的には、ローン返済中の抵当権の抹消は難しいとされています。
ただし任意売却では抵当権者の同意を得て、ローンの支払いが残っている状態で抵当権の抹消を行います。
抵当権抹消にかかる費用は以下の通りです。
- 登録免許税:不動産1個につき1,000円
- 登記情報代:事前調査用1件335円、登記官押印後の証明書用1件600円(オンライ請求・送付だと1件500円、オンライン請求・窓口交付だと1件480円)
- 郵送料:送る際の郵送料+返送料金(書留料金+100円)
- 依頼料:司法書士に手続きを依頼した場合、5,000~15,000円が目安
滞納した固定資産税・都市計画税・住民税
任意売却をする場合、住宅ローンだけでなく固定資産税や都市計画税、住民税などの税金も滞納している場合が少なくありません。
滞納した固定資産税や都市計画税、住民税も、売却時には納付しなければなりませんが、売却費用から捻出できる可能性があります。
ただし滞納額が多額になる場合は、全額を支出できるとも限りません。
滞納した管理費・修繕積立金(マンションの場合)
任意売却を検討している物件がマンションの場合、管理費や修繕積立金を滞納しているケースがあります。
管理費や修繕積立金を滞納したままでマンションを売却すると、支払いは買主に承継されます。
マンションの任意売却でスムーズに買主を見つけるためには、滞納している管理費や修繕積立金の精算が必要です。
しかし任意売却の場合、管理費や修繕積立金を支払う余力がないのが通常です。
そこで債権者と交渉し、売却代金から管理費や修繕積立金を支出するのが一般的です。
引越し費用も交渉可能
任意売却では、新居に引越すための引越し費用も、債権者との交渉によって売却代金から捻出できる場合があります。
債権者としては1円でも多く回収したいところですが、そもそも債務者は経済的な理由で任意売却に至っています。
債務者に金銭的な余裕がないことは、債権者も十分理解できます。
交渉を成功させるポイントとしては、以下の点を押さえておきましょう。
- 生活や経済の状況を説明して、引越し費用の捻出が難しいことを理解してもらう
- 債権者とのやり取りを真摯に行い、できるだけ信頼関係を構築する
- できるだけ高い金額で売却できるように売却活動を行う
競売での費用負担との違い
競売では滞納していた税金や管理費、修繕積立金、引越し費用を売却代金から支払うことはできません。
あらかじめ費用を自身で用意する必要があります。
また売却金額も市場価格の50~70%となるため、費用の準備に加え多くのローン残債が残ります。
任意売却のメリット
競売と比較して任意売却には多くのメリットがあります。
競売よりも高く売れる
任意売却は競売よりも高値で物件を売却できるのが一般的です。
競売物件は「内部見学ができない」「検討時間が短い」「物件の欠陥は買受人が対応する」など、買主にとって不利な条件で売り出されます。
そのため高値がつきにくく、販売価格も安くなってしまうのです。
一方、任意売却は通常の不動産売却と同じ売却活動ができるので、市場価格に近い金額で売却しやすいというメリットがあります。
計画的に売却を進められる
競売は裁判所による強制的な手続きです。
落札された物件から立ち退く時期は、裁判所が決めるため強制退去を命じられる場合もあります。
任意売却では、物件から引越すタイミングなどを、買主と話し合って決められます。
売主と買主の都合に合わせて、計画的に売却できるでしょう。
プライバシーが守られる
競売にかけられると、物件の情報がインターネットなどに掲載されます。
自宅を競売にかけられた場合、物件の住所や写真などが掲載されるため、周囲に経済事情を知られる可能性があります。
任意売却は通常の不動産の売却と同様の販売活動を行います。
そのため競売と比べてプライバシーが守られるのがメリットです。
任意売却の費用負担は債権者との交渉がカギ
滞納していた税金や管理費、引越し費用の売却代金からの捻出は、債権者との交渉次第です。
債権者が認めてくれれば、売主の費用準備は少なくて済みます。
しかし債権者との交渉がうまくいかない場合、経済的に厳しい状況の売主でも、滞納金や引越し費用の用意が必要です。
交渉で有利な条件を引き出せるかは、不動産会社の交渉力や経験が重要になります。
まとめ
任意売却では不動産会社に支払う仲介手数料や抵当権抹消の費用、引越し費用などが発生します。
税金や管理費などを滞納していた場合は、売却前の支払いが求められます。
ただし任意売却にかかる費用の多くは、売却代金から支払われるので、基本的には持ち出し不要です。