住宅ローンは大きな借入のため、長期的な返済計画が前提となります。
長期的な返済を行う中で住宅ローンの契約者が死亡した場合、どのように対処したらよいのでしょうか。
本記事では住宅ローンの契約者が死亡した場合の対応と、団体信用生命保険の扱いについて解説していきます。
遠鉄の不動産・中遠売買ブロック長 岸本 圭祐(きしもと けいすけ)
宅地建物取引士、住宅ローンアドバイザー、カラーコーディネーター、ファイナンシャルプランナー3級
住宅ローンの契約者が死亡したら「返済が免除される」は本当?
住宅ローンの契約者が死亡した場合、債務は残された家族に引き継がれます。
そのため、契約者が死亡した場合であっても、住宅ローンの返済義務は消えません。
しかし団体信用生命保険に加入しておくことで、住宅ローンの返済が免除されます。
団体信用生命保険は住宅ローン専門の生命保険であり、一般的には以下のようなプランがあります。
- 通常 (死亡・高度機能障害)
- 通常+3~11大疾病特約付 (糖尿病など)
保険によって、どのような条件で保険金・給付金を受け取れるのかが異なります。
加入の際にはご自身にあったプランを検討しましょう。
住宅ローンの返済が免除されないケース
住宅ローンの返済中に契約者が死亡した場合、団体信用生命保険に加入していれば残債の支払いは免除されます。
しかし契約者が死亡しても、住宅ローンが免除されないケースもあります。
詳しくみていきましょう。
団体信用生命保険に加入していない
団体信用生命保険は、民間の金融機関であれば、住宅ローンと合わせて加入することが一般的です。
しかしフラット35を利用している場合には、以下のように団体信用生命保険に加入していないケースもあります。
2017年10月1日以前 | 2017年10月1日以降 |
任意加入 | 基本的には同時加入で月々の支払いにプラスされる(団体信用生命保険に入れない場合も利用は可能) |
団体信用生命保険に加入していない場合は、住宅ローンの契約者が死亡した場合でも、返済は免除されません。
健康上の理由から、通常の団体信用生命保険の加入に問題があった場合には、加入対象の広いワイド団体信用生命保険を利用するなどの対策が必要です。
住宅ローンの滞納がある
住宅ローンの滞納がある場合、団体信用生命保険の料金も支払いが滞っていると想定されます。
保険料も滞納していると、既に保険の契約は破棄されている可能性が高いでしょう。
そのため契約者が死亡した場合でも、保険の保障は受けられません。
夫婦でローンを組んでいる場合
夫婦でローンを組む場合、以下の3つのパターンが考えられます。
どのパターンにおいても保障される範囲は限定的です。
- 連帯債務(収入合算)
- 連帯保証(収入合算)
- ペアローン
それぞれの詳しい保障内容についてみていきます。
連帯債務(収入合算)の場合
連帯債務は、夫婦の場合どちらか一方が名義人となり、どちらか一方は連帯債務者となるローンの借入方法です。
収入は合算します。
以下の2つのケースがあります。
通常の金融機関 | フラット35(例外) |
連帯債務者は保険に加入することが難しく、名義人が死亡した場合、住宅ローンの免除は受けられない。 | 夫婦連生団体信用生命保険を利用することで、夫婦のどちらか一方が死亡した場合に、住宅ローンを全額免除できる |
ローンを組む際は条件をよく確認しましょう。
またフラット35の夫婦連生団体信用生命保険の金利は、通常の団体信用生命保険よりも高くなります。
連帯保証(収入合算)の場合
連帯保証は、連帯債務と同様に夫婦の収入を合算して住宅ローンを借入れる方法です。
連帯債務と大きく異なるのは、どちらか一方が名義人、どちらか一方は連帯保証人になる点です。
団体信用生命保険に加入できるのは、主たる債務者である名義人だけです。
そのため連帯保証人が死亡した場合、住宅ローンの債務は免除されません。
ペアローンの場合
ペアローンは1つの物件に対して、夫婦それぞれでローンを組む方法です。
個別にローンを組むため、団体信用生命保険には個別で加入できます。
しかしどちらかが死亡した場合は、一方の住宅ローンのみが免除される点に注意しましょう。
親子でローンを組んでいる場合
親子ローンには、以下の種類があります。
- 親子ペアローン(収入は個別審査)
- 親子リレーローン(収入は合算)
親子でもペアローンの場合はどちらもローンを組むため、それぞれが団体信用生命保険に加入できます。
そのためどちらかが死亡した場合、亡くなられた方の債務のみが免除されます。
リレーローンの場合は、一般的にローンを引き継ぐ「子」のみが団体信用生命保険に加入します。
そのため親が亡くなっても保険は適用されません。
ただしフラット35の場合は、条件次第で「親」が団体信用生命保険に加入することもできます。
契約者が亡くなった場合の住宅ローンの手続き(団信の加入あり)
契約者が死亡した場合の住宅ローン手続きは、団体信用生命保険の加入の有無によって変わります。
まずは、亡くなった人が団体信用生命保険に加入している場合の流れを見ていきましょう。
金融機関に連絡し必要書類を用意する
住宅ローンの契約者が亡くなった場合は、速やかに借り入れをしている金融機関に連絡を取りましょう。
金融機関に連絡をすると、団信の死亡保険金を請求するために必要な書類を教えてもらえます。
必要書類の例は、次の通りです。
- 団信弁済届(死亡用)
- 死亡証明書・死亡診断書 など
※必要書類は引受先の保険会社によって異なります
死亡診断書は、亡くなった人の担当医などが作成する書類です。
必要書類を金融機関に提出すると、団信の引受保険会社によって死亡保険金の支払い対象となるかどうかが審査されます。
審査の結果、団信の死亡保険金が支払われると、住宅ローンの完済を証明する書類が金融機関から発行されます。
なお、団信の死亡保険金は、住宅ローンの借入先である金融機関に支払われるため、亡くなった人の遺族が受け取れるわけではありません。
相続登記や抵当権抹消登記をする
亡くなった人が所有する不動産を相続する場合は、法務局で不動産の所有権移転登記(相続登記)をして名義を相続人に変更をする必要があります。
また抵当権抹消登記もあわせて行います。
抵当権は、住宅ローンの返済が滞ったときに、金融機関が担保となっている不動産を差し押さえて競売にかけ、融資金を回収することができる権利です。
団信の死亡保険金によって住宅ローンが完済されても、抵当権が自動的に消滅するわけではないため、法務局で抵当権抹消登記をする必要があります。
保険金請求の時効に注意
団信の加入者(被保険者)が亡くなったときから3年間が経過すると、時効を迎えて保険金を請求できる権利が消滅してしまいます。
時効を迎えてしまうと、保険金を請求しても債務が完済されなくなるかもしれません。
団信に加入している人が亡くなったときは、速やかに金融機関で保険金の請求手続きをしましょう。
契約者が亡くなった場合の住宅ローンの手続き(団信の加入なし)
団体信用生命保険に加入していない場合は、以下の2つの選択肢が考えられます。
- 相続して返済を引き継ぐ
- 相続を放棄する
それぞれのケースについて詳しくみていきましょう。
相続して返済を引き継ぐ場合
相続する場合は、単純承認と限定承認に分かれるものの、基本的には住宅ローンの債務を相続人が引き継ぐことになります。
単純承認とは
単純承認とは、亡くなった人の財産をすべて相続することです。
現金や有価証券、不動産などのプラスの財産だけでなく、借入金や未払金などのマイナスの財産もすべて相続します。
限定承認とは
限定承認とは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ方法です。
例えばプラスの財産が2,000万円、マイナスの財産が3,000万円である場合、限定承認をするとプラスの財産とマイナスの財産を2,000万円ずつ相続します。
限定承認をするためには、相続の開始を知った日(被相続人が亡くなった日)から3か月以内に、家庭裁判所で申述をする必要があります。
住宅ローンの債務を引き継ぐときは、相続届や戸籍謄本など、金融機関から指定される書類を用意しましょう。
しかし相続した財産を手続き前に処分した場合、単純承認となり相殺が不可能になります。
相続放棄する場合
相続放棄は、契約者の財産をプラス・マイナスに関係なく放棄する手続きです。
3ヶ月以内に相続人の家庭裁判所において手続きをする必要があります。
戸籍謄本や相続放棄申述書などを用意しましょう。
任意売却という選択肢も
以下のような状態であれば、任意売却も選択肢にいれましょう。
- 団体信用生命保険に加入しておらず、返済が苦しい
- 住宅ローンの返済を滞納していたため、返済が免除されない
- 返済を引き継いだが返済が苦しい
任意売却は、金融機関の許可を得てローンの残っている住宅を売却する方法です。
全額の返済は難しい場合もありますが、ローンの負担を軽減できます。
任意売却について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
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ケガや病気(高度障害)の場合はどうなる?
団信の被保険者が亡くなったときだけでなく、所定の高度障害状態に該当した場合も、保険金が支払われてローンが完済されるのが一般的です。
金融機関と住宅金融支援機構が提供する「フラット35」に付帯できる団信では、ケガや病気で次のいずれかの高度障害状態になったときも保障されます。
- 両眼の視力を全く永久に失ったもの
- 言語またはそしゃくの機能を全く永久に失ったもの
- 中枢神経系または精神に著しい障害を残し、終身常に介護を要するもの
- 胸腹部臓器に著しい傷害を残し、終身常に介護を要するもの
- 両上肢とも、手関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
- 両下肢とも、足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
- 1上肢を手関節以上で失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったかまたはその用を全く永久に失ったもの
- 1上肢の用を全く永久に失い、かつ、1下肢を足関節以上で失ったもの
※出典:住宅金融支援機構「債務弁済される場合、債務弁済されない場合」
高度障害状態の要件は、引受先の保険会社によって異なります。
また金融機関によっては、三大疾病(例:がん・心筋梗塞・脳卒中)を保障する団信や、すべてのケガや病気で働けなくなったときに備えられる団信などに加入することも可能です。
団信に加入しているのであれば、借入先の金融機関や引受先の保険会社に確認し、どのようなケースで保障が受けられるのかを把握しておくと安心でしょう。
まとめ
住宅ローンの契約者が死亡した場合、団体信用生命保険に加入しているかどうかによって残された家族の負担が大きく変化します。
ローンを組む際も種類の違いを把握したうえで、リスクを軽減できる内容を選択する必要があります。
またローンの免除が受けられず、返済が難しい場合は任意売却も視野に入れましょう。